余談6
「帰ってきてから、なんだか雰囲気が変わりましたね」
テーブルに置かれた紅茶を飲んでいると、窓の外を眺めながらシャイヤが言った。
「ん?」
ログは首を傾げてから、彼女の視線を追った。外には庭が広がっていて、その中央にクロードとティアナが魔封石を見ながら何やら話し込んでいた。
「どちらの話だい?」
「2人共ですよ」
ログの質問にシャイヤが振り返って呆れたように言ってきた。
「まさか、気づいてなかったんですか」
「・・・・・」
ログの反応に彼女が盛大にため息をついた。そこまで呆れることはないだろう、と思ったが、実際クロードとティアナの雰囲気が変わったかと聞かれても、そこまで変わっていないような気がしていた。
「ちなみに、どう変わったのかな」
「2人とも雰囲気が柔らかくなりました。特にクロードがティアナさんを見る目が優しいですね」
説明を受けても、ログはぴんとこなかった。
2人が初めて会ったときは、クロードがティアナを拒否するように冷たくしていたが、魔封石を作ることを決めてから、2人の間にわだかまりがなくなっていた。それくらいはログにもわかった。
今回城に召集されて戻ってきてから、2人の雰囲気がまた変わったらしいが、そこは気づけないでいた。
「確かめたわけじゃありませんが、あの2人お互いに自分の気持ちに気づいたのかもしれないですね」
「おや、シャイヤは2人が惹かれ合っていたのを知っていたように聞こえるが」
「確認はしていませんよ。でもそうだろうなとは思っていました」
ログは全く気付いていなかったが、シャイヤは2人をよく見ていたようだ。もしかすると、女性の方がこういう機微には敏感なのかもしれない。
「こういうことは確認したほうがいいのかね」
「そっとしておくべきですよ。2人が話したくなるまで待つ方がいいと思います」
2人の雰囲気に気が付いたシャイヤが言うのであれば、そうするべきなのだろう。今は気づかないまま見守っていてあげるのが一番だ。
「クロードも7賢者の候補生になったことだし、これから環境が変わっていくだろうね」
7賢者の候補生として、クロード=アイリッシュも魔法騎士として選ばれた。城に招集された理由をログは聞かされていない。何か特別な事情があったようなので、こちらから聞くような真似はしなかった。
その代わり、クロードから候補生に選ばれたという報告は受けた。
それと同時に1通の手紙がログに渡された。相手は騎士団長を務めるグロッグ=ダイナからで、クロードの教養の勉強をログに任せたいという内容だった。魔法騎士としての力は認められたものの、平民出身のクロードが7賢者としてやっていくには、教養が必要になってくる。特に7賢者の中で騎士という役職は社交界に顔を出すことが多い。そこでマナーやダンスを習得していないと恥をかくのは本人だけではなく、7賢者全員になってしまう。それを防ぐために、フォーンに滞在している間は、クロードのマナー教師としてログが選ばれた。
「リベルトから教わったことは、その場しのぎの付け焼刃だったからなぁ」
一度パーティに参加することになったクロードのために、息子のリベルトがスパルタでマナーを叩き込んでいた。その時はそれでよかったが、これからの将来を考えるとしっかり学ばせる必要があるだろう。
幸い、ダンスに関しては相手役をティアナがしてくれることになった。女性パートはさすがにログでもできない。
2人の関係が良い方向に変わってくれたのなら、ログは喜びながらもそっと見守っていくのが一番だ。
「そのうち、いい報告が聞けるといいね」
庭で何かを話し合っている2人を眺めながら、ログは静かに紅茶を口にした。




