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魔封石使いと破壊騎士  作者: ハナショウブ
余談その3
91/122

余談5

結婚式を無事に終え、今日は結婚した王太子とその妃をお披露目するためのパーティが開かれていた。

リンドはルナリアと一緒に椅子に座って、目の前にやってくる貴族たちの挨拶に1つ1つ応えるのが本日の役目になっていた。

挨拶の時間が過ぎれば、ダンスの時間に移行される。そうなると今度はルナリアと一緒に最初のダンスをする。まだ時間までだいぶある。その間はずっと座ったまま貴族の挨拶を聞いていることになっていた。

何組目かすでにわからない貴族の挨拶が済むと、リンドはこっそりため息をついた。

覚悟はしていたが、さすがに疲れてきた。隣を見れば、ルナリアは笑顔を絶やすことなく挨拶に来る貴族に対応している。たった1年しかなかった妃教育の中で、笑顔を崩さないことを完ぺきに習得してくれたようだ。

そんなことを考えていると、次の貴族が挨拶にやって来た。

「フロース伯爵家のレイン=フロースと妹君のティアナ=フロースです」

後ろに控えている侍従がそっと声をかけてくる。貴族が挨拶に来るたびに彼が相手の名前を耳打ちするのだ。おかげで名前を間違えるという失態を侵さなくてすんでいた。だが、今回の名前だけは、侍従からも緊張が伝わってきた。

フロース家の令嬢といえば、かつてリンドの婚約者であったティアナしかいない。そして、その兄は幼い頃からのリンドの遊び相手を務めていた友人のレインだ。

良好な関係が維持されていることは周知されているが、それでも、フロース家に対して婚約破棄を突き付けたという爪痕はしっかりと残されてしまっていた。

「リンド殿下、この度はご成婚おめでとうございます」

レインが胸に手を当てて挨拶をすると、隣にいたティアナがスカートを広げて淑女の礼をした。

「2人とも来てくれてありがとう。今日は楽しんでいってくれ」

「ありがとうございます」

2人の声が重なる。リンドはそれ以上何を言うべきか迷った。フロース家には多大な迷惑をかけてしまった。そのことをここで謝るのはおかしいし、だからといって弾むような会話も思いつかない。

何も言えずにいると、隣にいるルナリアが声を弾ませてティアナに話しかけた。

「久しぶりですねティアナさん。お元気そうでよかった」

「ルナリア様も、今日は一段とお綺麗ですよ」

「ふふ、これは殿下が今日のために選んでくださったドレスなんですよ」

「とてもよくお似合いです」

女性2人の会話が弾む。その光景をほっとしたように見つめていると、もう1人手持ち無沙汰になったレインがそっと話しかけてきた。

「やっぱり、ティアナが良かったとか考えてないですよね」

彼とは幼馴染と言っていい間柄だ。リンドが生まれて間もなく、彼と年齢が近く一緒に遊べる相手としてレインが選ばれた。ほかにも数人選ばれているが、レインは同じ学校に通ったこともあって、特に親しい相手だ。その関係もあって、3つ下のティアナがリンドの婚約者に選ばれたのだ。

「僕は自分の意思でルナを選んだ。いまさらその質問は意味がないよ」

「う~ん。ちょっとくらい後悔してくれてもいいのになぁ」

リンドにしか聞こえないほどの呟きだったが、周りが聞いたら反感を買いそうだ。敢えて聞かなかったことにして返事をしないでいると、レインが不敵に笑った。

「別に僕は気にしてないけど。フロース家には大きな借りができたみたいだし、これから先も末永くよろしく」

その言葉に背中がぞくっとした。

ティアナが婚約破棄された時、フロース家は王家に対して抗議をすることもなく、その後も反発するような態度を一切取ってこなかった。幼馴染でもあるレインには殴られるかもしれないと思っていた時期もあったのだが、今の発言からすると、殴るよりももっと有意義に王家と関係を持つことを優先したような気がした。

女性2人の会話が終わると、ティアナが振り返る。

「長話は駄目ね。あとが詰まってしまうから」

後ろにはリンド達に挨拶をしようと貴族の列ができている。それを確認してから、2人はもう一度挨拶をしてその場を辞した。

「今度お城に来るときは、一緒にお茶を飲みましょうって約束ができたわ」

2人の会話を聞いていなかったが、ルナリアは嬉しそうに次にティアナに会うための約束を取り付けていた。妃となったルナリアに元婚約者のティアナ。2人が良好な関係を保っていることは周知されてきているが、それでも怪しく思っている者もまだいる。2人がどんどん仲良くなってくれることは、こちらとしても喜ばしいことだ。

「将来の7賢者の候補でもあるからね。仲良くするのは良いことだよ」

半年ほど前に、ティアナ=フロースは7賢者候補生に選ばれた。魔封石士としての実力を買われたということだが、リンドは彼女がそんな能力を持っていたことに気づけなかった。魔力が多いことは知っていたが、魔封石士になりたかったことを知らなかったのだ。将来妃になるために、自分の夢を胸の中に閉まって隠していた。婚約者として気づいてあげられなかったことはリンドの失態だと思っている。

すでにティアナの姿は会場の人々の中に紛れて見えなくなっていた。

将来7賢者になれば、リンドと肩を並べる存在になる。妃として隣に立つことはなくなったが、リンドが王となれば、仲間として同じ目線にいることになるだろう。

その時、彼女がリンドと同じように誰か大切な人を見つけてくれていたらいいと思う。リンドに好きな人ができたことで婚約は破棄されたが、彼女にも幸せになる権利はある。

次の貴族の挨拶を聞きながら、将来の王はそう思っていた。


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