帰宅と不意打ち
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい」
「お帰り、元気そうでよかったよ」
フォーンに帰ってくるとまず先に店の確認をした。パン屋のカール夫妻に留守の間店の管理を頼んでいた礼と王都のお土産を渡してからログの屋敷に戻った。
声をかけると、足早に玄関にやって来たシャイヤとログが出迎えてくれる。
「急に出て行って、何日も帰ってこないものですから、少し心配していたんですよ」
2人の顔を見て、シャイヤがほっとしたような声を出した。その隣でログが何度も頷いている。結界石が完成するまでは城に滞在することになっていたため、いつ戻ってこられるかわからない状況だった。しばらくは戻れないという連絡だけはしておいたが、やはり心配だったようだ。
城でのことを詳しく話すことはできないが、無事に依頼を片付けてきたことだけは説明しておく。
「疲れているだろう。夕食まで休んでいるといい」
「あらあら、2人だけだと思って少なめに用意していたわ。すぐに作り足しますから、それまでゆっくりしていてくださいね」
クロードも7賢者の候補生に選ばれてからすぐに王都を出ていた。フォーンに到着したのは夕方近くになってしまったため、突然帰ってきたことで、食事の準備が整っていなかった。
「お店に寄って来たので、隣のパン屋で買ってきましたよ」
クロードが紙袋をシャイヤに渡す。食事がないだろうと予想して買っておいたのだ。
予想通りだったことに2人で顔を合わせて微笑む。
「あら?」
すると、シャイヤが何かに気づいたように声を上げた。ティアナとクロードを交互に見てから納得したように頷いてにこりとすると準備のために戻っていった。
「どうかしたのかな?」
隣にいたログが首を傾げている。ティアナたちも首を傾げたが、とりあえず部屋に戻って休むことにした。
夕食はすぐに準備され、穏やかな時間が過ぎていく。
移動で疲れたこともあって、その日はすぐに休むことに決めたティアナは部屋に戻ることにした。
「ティアナ」
部屋に入ろうとした時、名前を呼ばれて振り返ると、クロードが階段を上がってくる途中だった。
「なに?」
彼が目の前まで来てから返事をする。少し渋ってから、彼が口を開いた。
「1つ言い忘れていたと思って」
何だろうと思って首を傾げると、クロードが静かに手を差し出してきた。
「俺も7賢者の候補生になったから、これからもよろしく」
候補生や弟子はあくまでも7賢者になれる可能性が高いというだけだ。それでも、これからの努力で7賢者に選ばれる可能性はより大きくなる。
「そうね。お互いに頑張りましょう」
ティアナは魔封石士としての経験を。クロードは魔法騎士としての魔法の上達と教養を身に着けていかなければならない。
「どちらが先に7賢者になれるかしら」
「どうだろうな。エリクスやエルヴィンだっているからな」
「あの2人は師匠が引退しないとなれないから、私たちの方が早いと思うわ」
そんなことを話して手を離す。
「それじゃおやすみなさい」
「待って」
部屋に入ろうと体の向きを変えた途端、クロードから静止の声がかかった。
顔だけで振り向いた瞬間、そっと唇に触れるものがあった。それがクロードの唇だと気が付いたのは、彼が顔を離した後だった。
「おやすみ」
何事もなかったようにクロードが廊下を歩いて自分の部屋に入っていく。
ティアナも部屋に入って扉を閉めると、両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。
「あれは、反則よ」
顔だけじゃなく、体まで熱いような気がした。ここ数日、キス以外の触れ合いも特にしていなかったのに、いきなりこれはハードルが高すぎる気がする。平然とキスして部屋に戻っていったことに若干の悔しさがあるものの、やはり嬉しさが勝ってしまった。
「これじゃ、ゆっくり眠れないわよ」
そう呟きながらもベッドに潜り込んだティアナは幸せを噛みしめながら、ゆっくりと夢の中に落ちていくことになった。




