魔法騎士の候補生
「クロード=アイリッシュ、君を本日付けで7賢者の魔法騎士としての候補生とする」
「えぇ」
クロードよりも先に、隣に立っていたティアナが驚きの声を上げた。視線だけを向けると、声の大きさに本人も驚いたのか両手で口を押えていた。
その驚きになぜかグロッグが満足そうに頷いている。
「こういう反応は新鮮でいいな」
「ティアナの前にクロードが驚くべきだと思うけどね」
リーンは苦笑してクロードの反応が薄いことに残念そうにしていたが、先にティアナが反応してしまっただけで、クロード自身も驚いていた。
「なぜ7賢者の候補生に?」
驚きを隠したまま、冷静な声で尋ねる。
「騎士としての剣の腕は最初から評価されていた。あとは魔法騎士としての魔力の問題があったんだ」
クロードの剣の実力は騎士団に入った時から高い評価をされていた。ただ、魔法を暴走させたことで、魔法騎士としての評価は地に落ちていたと言ってもいい。それから4年が経ち、再び城に戻って来たクロードは、グロッグの前で魔法騎士としての実力を試された。
騎士団長に勝てなかったとはいえ、クロードが魔法を安定的に使いこなせていることを評価し、将来的に魔法騎士として7賢者に選ばれても問題ないと判断されたようだ。
「まだまだ魔法の訓練は必要だろうが順調にいけば魔封石なしで強い魔法も使えるようになるだろう」
魔封石がなくても小さな魔法なら使うことができるようになってきた。もっと訓練をしていけば、強い魔法も自分の力で安定的に使いこなせる日が来るだろう。
「すぐに7賢者にはなれないが、候補生としては十分に評価できると判断した」
クロードの実力はグロッグが判断し、魔法に関しては身近で見てきたティアナと、戦闘時を見ていたエリクスからの報告をもとにリーンが判断したようだった。その報告を受けて国王と残りの7賢者が話し合った結果、7賢者の候補生という形を取ることになった。
「今回のティアナへの魔力供給と、結界石への魔力補給も評価の対象になっているよ」
リーンの補足に、クロードの魔力量も評価されていたことがわかった。
「今日から君は7賢者の魔法騎士としての候補生だ。この打診を受けてくれるな」
グロッグが手を差し出してくる。
クロードは何の迷いもなくその手を握り返した。
「お受けします」
その瞬間、部屋にいる他の人たちから拍手が起こった。周りの反応に祝福されていることを実感する。
「候補生になったのなら、クロードは今後城勤めということですか?」
拍手が収まると、ティアナが質問してきた。視線が合うとその瞳にはどこか不安が揺らいでいるように見えた。
ティアナは経験を積むためにフォーンで店の経営をすることを許されている。だが、クロードは魔法の訓練はまだ必要だが、騎士として十分城で働いていけるのだ。フォーンに戻る必要がなくなってしまった。
「そのことだけど」
質問に答えたのはリーンだった。
「クロードには今まで通り、ティアナの護衛をしてもらおうと思っている。騎士としての経験はあまり積めないだろうけど、魔法の訓練をしていくのなら、魔封石を使っていることも考えてティアナの側にいたほうがいいだろう」
魔法が使えているのは、ティアナが作ってくれた魔封石のおかげだ。小さな魔法なら自力で使えるようになったが、強い魔法となれば魔封石が必要だ。それに、彼の魔力量を考えればもっと強い魔法を習得することもできる。そうなると、魔封石が耐えられずに壊れてしまう可能性が出てくる。魔封石が壊れれば、当然魔力暴走を起こす。それを止められるのもティアナだ。
彼女が城で働くのであれば、クロードも王都に戻ればいいが、フォーンでの生活を選んだ以上、一緒にフォーンに留まることが決定事項となった。
ほっとした表情を見せるティアナを見て、クロードは温かい気持ちになった。自分を必要としてくれる人がいて、側にいることを許されていることが素直に嬉しい。
「クロード」
名前を呼ばれて振り向けば、グロッグの真剣な表情と向き合った。
「これから魔法騎士として魔法の訓練も必要になるが、君には7賢者の候補生として教養も身に着けてもらう必要がある」
「教養ですか?」
「貴族や学園に通っていた者なら学んでいる国の歴史やマナーだ」
田舎出身のクロードは、国の歴史や貴族が当然できるマナーなどを教わったことがなかった。
一度ログの息子のリベルトから、短い期間でマナーを叩き込まれた経験はあるが、1夜のパーティを乗り切るための最低限のことだけだった。それでもスパルタな教育に精神を削られた経験から、あまりいい思い出がない。
そのことを思い出してしまって遠い目をしてしまうと、グロッグが可笑しそうに笑った。
「身構えることはない。7賢者になるまでの間に覚えていけばいいんだ」
今回ティアナが残したような功績でもない限り、半年で7賢者に昇格することもない。しばらくは7賢者の候補生として少しずつ身に着けていけばいい。
今回はスパルタ教育ではないことにほっとする。
「さて、話は以上だ。2人ともご苦労だった」
グロッグの労いにティアナと顔を合わせると、お互いにほっとした表情になった。
これでフォーンに帰ることができる。そのことに心底安堵していた。




