エリクスの鋭さ
突然体が傾いたことで顔を離したクロードは、咄嗟に腕を伸ばしてティアナの体を支えた。
甘い雰囲気などお構いなしに、ティアナは腕の中で寝息を立てている。
「疲れていたのにな」
休まなければいけない体だということを忘れてしまっていた。まさかお互いに想い合っていたなんて。
嬉しさを優先してしまって彼女の体を気遣えていなかった。
ベッドに横たえて再び毛布を掛けてやる。
「ゆっくり休んで」
聞こえてはいないだろうが耳元でそう呟いてから部屋を出た。
廊下に出ると胸にそっと触れる。さっきまでの後悔や歯がゆさはどこかに行ってしまったようで、今は心がふわふわと温かい。
「浮かれすぎだな」
気持ちが通じ合ったことに浮足立っているのがよくわかる。
「クロード」
静かな声が廊下に響く。振り向けばエリクスがこちらにやってくるところだった。
「ディランはまだ起きそうにないから、こっちの様子を見に来たんだが」
「ティアナなら、一度目を覚ました。でもすぐに寝てしまったから、話はまだできそうにない」
「そうか・・・」
勢いで告白してしまったことは伏せて、再び眠ってしまったティアナの様子を説明すると、エリクスはなぜか首を傾げてじっとクロードの顔を見つめてきた。
「どうかしたか?」
不思議に思っていると、エリクスの目が細められて右手がすっとクロードの顔の前に出された。何だろうと思っていると、パチンという大きな音と衝撃が額にもたらされた。
一瞬何が起きたのかわからず額を押さえてエリクスを見つめる。すると、彼は右手を持ち上げたまま呆れた顔を向けてきていた。
「わかりやすすぎる」
「は?」
右手の指で額を弾いたことに気が付くと、エリクスがため息をつく。言葉と態度が意味不明で困惑していると、さらに肩をすくめてエリクスが続きを言った。
「そんなわかりやすい顔でいたら、戦闘時に相手に全部悟られるぞ」
「何の話だよ」
「ティアナと何かあっただろう。まぁ、何かまでは聞かないことにするが」
そこで言葉が詰まった。どうやらエリクスは、この短い時間で2人に何があったのか、クロードの表情から察してしまったらしい。途端に顔が熱を帯びるのを感じた。
「だから、わかりやすすぎる」
「・・・すまない」
「謝っても仕方ないだろう。他の人には悟られないように表情を引き締めろよ」
「わかった」
どうやら気が緩みすぎていたようだ。普段からそれほど表情が豊かだとは自分でも思っていなかったが、まさかここで感情が読み取られるとは思わなかった。1つ深呼吸をして気持ちを切り替える。
表情が変わったことを確認したエリクスが苦笑を漏らした。
「俺はエミリア様のところに状況を確認しに行ってくる。クロードはここで待機していてくれ」
もしも眠っている2人が目を覚ましたら状況を聞いておいてほしいと頼んでから、廊下を歩いて行ってしまった。
クロードはティアナがいつ目を覚ましてもすぐに話ができるように彼女の部屋に戻ろうかと思ったが、先ほどの様子からすぐには目を覚まさないだろうと予想して、自室に戻ることにした。
想いが通じ合ったとはいえ、今は結界石を完成させることが最優先事項だ。この案件が無事に済めばお互いのことをゆっくり話す時間はできるだろう。それまではこの気持ちは心の底にそっとしまっておくことにしよう。
もう一度気を引き締めてからクロードは部屋に戻った。




