試作品
結界石に描かれた魔方陣のすべて描いて魔封石を作ってみたが、どういうわけか同じものを作った気にはなれなかった。
「何か違う」
雰囲気でも違うと思うが、これが結界を生み出すようには思えなかった。実際に発動させてみても、ティアナの周りに数個の小さな火が灯って終わるだけで、補助系の魔方陣が機能している様子がない。
「魔方陣が連動してないのよね」
今のところ、魔石の中に効果のない魔方陣を描いただけの石という状況だった。
何が違うのかわからなかったので、実物と見比べてみるために結界石のところまで来ていた。
結界石の横に自分が作った魔封石を並べて見比べる。
「魔方陣の重なり具合かな?」
魔方陣の上にかぶさるように重なった物もあれば、鎖のように交差させて結びついている物もある。その微妙な位置関係が影響している可能性もあった。
「リーン師匠に聞いた方がいいかな。ディランさんの意見も聞いてみたいし」
兄と話をしてから、ティアナは1人で考えながらも周りの意見にも耳を傾けるようにしてきた。魔封石の出来を確かめてくれているリーンの他にも、同じ魔封石士であるディランに意見を求めてみた。彼はティアナとは違う方向で魔封石を作っているが、どう思うかと問うてみると真剣に考えて返事をしてくれる人だった。最初は貴族出身だからと嫌悪されている部分はあったものの、エルヴィンのお叱りで反省したらしく、ティアナを貴族令嬢ではなく魔封石士として相談に乗ってくれるようになった。
「お嬢さん、もう来てたのか」
1人で結界石と魔封石を見比べていると急に声がかけられた。
振り返ればディランが部屋に入ってくるところだった。
「できたそうですね」
ディランが試作品を作ったという話は聞いていた。今日はそれを試してみることになっていたので、その前にティアナの魔封石を確認しておこうと先に来ていた。
どんな魔封石を作ったのか、それがどんな結果になるのか気になっていたため、試す時には同席したいと頼んでいたのだ。
「まだ試作品と言っていいだろうな。これで完成だとは思ってないぞ」
「それでも、良い物ができたのでしょう」
試したいというからには自信があるはずだ。
「そんなに期待されてもなぁ」
「楽しみにしているんですよ」
どんな魔封石でもティアナには勉強になる。魔力も高いし、魔力操作も上手いと言われているが、経験が足りていないことを指摘されている。他の人が作った魔封石を見ることもティアナには重要な経験になるのだ。
「2人とも揃っていたのか」
待っている間に自分が持ってきた魔封石を見てもらって意見を聞いていると、リーンがやって来た。その後ろにはエリクスとクロードもいる。
「全員揃ったから、さっそく始めよう」
リーンの合図とともに、ディランが魔封石を取り出す。赤い魔封石は火属性だ。
「同じ属性同士で補助することで修理する方向にしてみた」
そう言って、まずはティアナに魔封石を渡してくれた。確認してみると魔方陣が1つ中心に描かれていて、その周りに小さな魔方陣が3つあった。
「結界石を確認した限りだと傷ついている魔方陣は今のところない。その中で中心になっていると思う魔方陣を魔封石に描いた」
結界石の魔方陣は発動させたとき、最初に魔力が流されることで動く魔方陣があるはずだ。その魔方陣を中心に周りに連なっている魔方陣が動いていく。ディランは中心となる魔方陣を予測して魔封石に描いた。
「俺としては、魔封石に傷がついたことで魔方陣の効力が弱くなったと考えている。だから、中心となる魔方陣を強化するための魔封石を作ってみた」
同じ魔方陣を描いた魔封石をさらに強化するため、周囲に3つの補助の魔方陣を描いた。
「これが結界石と触れ合うことで強化された力が結界石に伝わるような仕組みにした」
結界石に直接魔方陣を描くことができなかったので、補助となる魔封石を作って結界石の強化をしようとしたようだ。
ティアナは受け取った魔封石と結界石を見比べた。ひびが入ったことで中の魔方陣に何らかの影響が出たために結界に歪みが出たことはわかっているが、はたしてこの魔方陣が影響しているのかまだわからない。
「試してみるしかないですね」
「俺も、結果の予想ができていない」
これが原因かもしれないという予測だけで作った魔封石だ。どんな結果になるのか2人の魔封石士にもわからない。
ディランに魔封石を返すと、彼が結界石の前まで歩み出た。
ティアナは数歩下がって、彼の背中を見るような位置に立った。他の3人は入り口で待機だ。
「始めるぞ」
そう言うと、ディランが魔封石を結界石の横に置いた。その瞬間、ティアナは違和感を覚えた。結界石を中心に部屋の空気が動いたような気がしたのだ。
言葉では言い表せないわずかな変化に戸惑っている間にも、ディランが魔封石を結界石に触れさせた。コツンと渇いた音がしたかと思うと、魔封石が淡く光る。
「ディランさん!」
次の瞬間、触れ合った結界石も淡い光を発したかと思うと、急激に光を強くしてディランを呑み込もうとした。考えるよりも先に体が動いていた。伸ばした手がディランの腕を掴むと光の波に吞みこまれる前に彼の体を後ろに退こうとした。しかし、それよりも速く光が迫ってきて、ティアナ自身も光に包まれてしまった。
あまりに激しい光が瞑った瞼の中にさえ入りこんで視界を覆う。
動けなくなったティアナは光の世界で意識を手放した。




