別部隊との模擬戦
「今日は別部隊との合同で訓練をすることになった」
いつもの部隊の隊長からそう聞かされた。
城に滞在し始めて7日目。
ティアナが魔封石を作り、リーンがその効果を調べるという工程も3日目となり、最初はクロードも別の部屋で待機していたが、特に異常が起こることもなく、何もすることがなかったため再び演習場に顔を出すことにした。
城の敷地内には3か所の演習場がある。その中で一番近い場所に来ていた。普段は1部隊が1つの演習場を使って訓練をしているのだが、時々別部隊と合流して模擬戦をしたりすることがある。今日はその日にぶつかったようだった。
別部隊の隊長に挨拶をすると、団長から話が通っていたため、クロードを怪しむようなことはされず、すんなりと訓練に参加させてもらえた。
見ない顔ぶれに新鮮さを感じていると、ジルが隣にやって来た。
「隊同士の1対1の模擬戦をすることになっているけど、クロードはこっちの部隊のメンバーにしておいたぞ」
初日に堅苦しい言葉遣いをしていたジルだが、すっかり同期の仲間として認識してくれたらしく砕けた話し方をしてくれるようになった。
「クロードは魔法騎士だから、相手も魔法騎士が選ばれるはずだ」
「そうか」
初日に団長のグロッグに魔法を使って戦って以来、騎士たちとの訓練だけだったので魔法騎士として模擬戦をしていなかった。それが今日は魔法騎士としての訓練ができるという。
そっと胸に手を当てると、服越しにネックレスにした魔封石に触れた。今日は火と土と光の混合石を持ってきていた。
「クロード=アイリッシュってのは、お前か?」
魔封石を確かめて、剣の確認をしていると知らない声がかけられた。視線を向けると、明らかに上から目線の態度を取った青年が腕を組んで立っていた。
「そうですが」
「俺が今日の対戦相手だ。お前はろくに魔法も使えない魔法騎士らしいな。俺が魔法騎士の戦い方をしっかり教えてやるからありがたく思えよ」
ふてぶてしい態度で言ってくる青年はクロードと同じくらいの年にしか見えなかった。青年はそれだけを言うと自分の部隊へと戻っていく。2人の会話を聞いていたジルが唖然とした様子だったが、我に返るとすぐに肩を叩いてきた。
「あれは僕たちの1年後に入団した魔法騎士のジグベルトだよ。貴族出身で、剣の腕もなかなかだって聞いたことがある。ただ、庶民出身の騎士や魔法騎士を見下すくせがあるから、周りからあまり良く思われてないんだよ」
ジルの言葉にクロードは納得するしかなかった。今の態度は庶民出身であり、魔法を使えない魔法騎士としてのクロードを見下していたのだろう。だが、出身は変えられないが、魔法を使えないというのは誤解があった。ほかの魔法騎士とは使い方が違うが、クロードも魔法を使うことはできるようになっている。まだ城の中で魔力暴走をさせて魔法を使いこなせないクロード=アイリッシュの噂は顕在しているのだろう。
「こういうのは久しぶりだな」
前にも魔法騎士として認めないと言われたことがあった。あれはフロース家の専属魔法騎士ではあったが、ティアナを護衛として認めてもらうために剣を交えた。
「認めてもらえれば問題ないだろう」
「ク、クロード勝つ気でいるのかい?」
「もちろん」
見下されたままというわけにはいかない。こういう時は実力を見てもらうのが一番だ。
「行ってくる」
明らかに不安な顔をしているジルを残してクロードはジグベルトのところへ向かった。クロードが中央に出たことで、相手のジグベルトも隊から出てきた。
「ほぉ、ろくに魔法も使えないのだから逃げると思ったんだが」
「よろしくお願いします」
不遜な態度を取るジグベルトに反発するようなことはせず、クロードは剣を構えた。
その対応が気に障ったのか、相手が明らかに不機嫌な表情を見せた。
「魔法が使えなくても、こちらは手加減しないぞ」
剣を抜いたジグベルトが腰を落として、いつでも跳び出せる体制を取る。
「はじめ!」
隊長の掛け声が響く。演習場は広いため数組の模擬戦が同時に始まった。
ジグベルトが合図とともに走り出す。それと同時に左手を前にかざした。
「氷よ」
声とともに彼の周りに拳大の氷が出現し、クロードに向かって飛んできた。氷を操れるのは水属性の中でも高位魔法に属する。それができるということは相手の魔力も相当高いことが推測できた。
「炎よ」
クロードも剣に炎の魔法を纏わせる。飛んできた氷の塊を剣で斬ろうとした。だが、当たった瞬間に違和感を覚えて、すぐに氷塊を斬るのではなく飛んできた軌道を変えるだけにした。氷塊がクロードからそれて地面に突き刺さる。それを確認することなく次に迫ってきた氷塊を体をひねってかわすと、横に大きく飛び退いた。彼がいた場所に次々と氷が降り注ぐ。それを見てから剣を握る右手を見つめた。普段なら魔法を斬る感触が伝わってくるはずだったのに、逆に押される感覚があった。
クロードの剣が氷を斬れなかったのだ。
「魔力が足りなかったか」
高位魔法でできている氷に対して、クロードが剣にまとわせた魔法が弱かった。そのため斬るよりも剣を弾かれそうになってしまったのだ。瞬時にそれを悟ったことで氷の軌道を変えることはできたが、それ以外は逃げることしかできなかった。
「俺の魔法に対抗しようとしたって無駄だぞ。魔法をろくに使えない人間が俺に勝てるわけがないだろう」
勝ち誇ったような声が聞こえてくる。
「おしゃべりだな」
相手に聞こえない程度に呟いた。相手が何もできないと思って完全に油断している。
クロードはもう一度剣の魔法をかけた。呼吸を整えて走り出すと、ジグベルトが再び氷塊を生み出して飛ばしてきた。
「同じ手は通用しない」
迫ってきた氷塊に対して、炎の魔法を纏った剣で薙ぎ払う。
剣に触れた氷塊が瞬時に溶けて蒸発すると、剣から炎が吹き上がり周りに迫ってきていた氷もすべて呑み込んだ。視界に氷がなくなると、ジグベルトが驚愕とした表情で立っているのが見えた。そこに向かってさらに走ると、我に返った相手が左手を地面に向かってかざした。
「氷よ」
声とともにジグベルトと迫ってきていたクロードの間に氷の壁が出現する。しかし、クロードは止まることなく壁に向かって剣を横一線に振るった。炎を纏った剣が触れた場所から氷が溶けだして、水を切るかのように滑らかに壁を斬り壊した。
「なっ」
氷の壁が壊れると、言葉を失ったジグベルトが目の前にいた。
「大地よ」
炎の魔法を解除して、次に土の魔法を剣にまとわせると、上段から剣を振り下ろした。土属性で重みを増した剣先がジグベルトの目の前に振り抜かれた。重くなった剣が勢い余った地面に突き刺さると、鈍い音を立てて地面をえぐる。
「ひぃ」
それが対戦相手の悲鳴だと気づいたのは、隊長に止められてからだった。
「そこまでだ」
隊長の焦った声が聞こえた。そこで少しやりすぎたかもしれないと思ったが、時すでに遅し。目の前で腰を抜かしたのか、ジグベルトが地面にへたり込んで驚愕を表情を見せていた。周りを見れば、皆一様に驚いた顔をクロードに向けている。
「あ、すみません」
そこでクロードは1つ気づいたことがあった。近づいてきた隊長に確認を取る。
「魔法しか使わなかったのですが、今のは無効試合になりますか?」
魔法騎士としての模擬戦だったが、剣と魔法を駆使して戦うべきだったはずだ。それが相手の魔法に対応してクロードも魔法しか使わなかったが、これでは剣での試合になっていなかった。
「これも魔法騎士の戦いだろう。気にしなくていい。それに、相手がすでに戦意喪失している」
引きつった表情で隊長が答えてくれると、ジグベルトに哀れな視線を向けていた。
対戦相手のジグベルトはまだ戦うのかと、青い顔をして首を横に振っていた。
「お前の相手が務まるのは、もしかすると団長くらいかもしれないな」
「そんなことはないと思いますが」
騎士団に所属しているすべての騎士や魔法騎士と戦ったわけではない。クロードより強い騎士は他にもいるはずだ。特に謙遜したわけでもなかったのだが、周りの反応は驚きと困惑が入り混じっているようだった。
「何をしている」
あっという間に模擬戦が終わってしまってどうしたものかと思っていると、聞き慣れた声に振り返った。
「エリクス」
「お前は騎士隊を1つ潰す気なのか?」
「そんなつもりはないが」
黒いローブを纏ったエリクスがなぜか演習場に姿を見せていた。呆れたような表情で言われたが、クロードとしては訓練の一環としか思っていない。
「何かあったのか?」
「師匠が話したいことがあるそうだ」
「すぐに行く」
リーンに呼ばれたということは一緒にいるティアナのことかもしれない。そう思ってクロードはエリクスと一緒にすぐに演習場を後にした。
エリクスもあの場で詳しいことを話せなかったようで、演習場を出ると、周りに人がいないことを確認してから小声で話しかけてきた。
「ディランが魔封石の試作品を完成させた。これから結界石のところで確認作業をするそうだ。ティアナも途中までの魔封石と結界石を比べてみたいということだから、皆結界石の部屋に集まることになった。念のためクロードも同席してほしいそうだ」
「わかった」
城に来てから7日が経ったが、先にディランが結界石の修復用の魔封石を作り上げたようだ。
もしかすると、これで今回の任務は終わりを告げるかもしれない。そんな期待を胸に、クロードは結界石が置かれている部屋へと歩いていった。




