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魔封石使いと破壊騎士  作者: ハナショウブ
結界の魔封石
70/122

貴族への偏見

談話室に戻ると、エルヴィンとディランが無言で本を読んでいた。

「おまたせ」

声をかけると2人が顔を上げた。エルヴィンは少年らしい笑顔を見せたが、ディランは無言のまま再び本に視線を戻した。どういうわけか彼には嫌われている。最初に会った時から彼はティアナに対して態度が素っ気ない。

不思議に思いながらも特に指摘することなく椅子に座った。

「良さそうな本はありました?」

「魔封石士の本はなかったわ」

「魔方陣の方はどうです?僕は素人なので役に立てませんが」

エルヴィンがため息をついた。彼は魔封石士ではない。結界石の魔方陣を視ていないため、どの魔方陣を探せばいいのかわからないのだ。紙に魔方陣を描いて同じものや近い形を探してもらうこともできるが、それをしていると余計な時間がかかってしまう。そのため、彼には初代魔封石士に関係がありそうなものを探してもらっている。

「そっちはどうですか?」

ディランに声をかけると、彼は本を見つめたまま首を振った。

「今のところそれらしいのはないな」

「そうですか」

ディランは結界石の中の魔方陣を視ているので魔方陣探しをしてくれていた。ティアナ借りられた3冊の本をさっそく読んで魔方陣探しを再開する。

一般の閲覧可能な本の中にも年季の入った本はいくつかある。古い結界石のことを考えて古い本を選別していたが、借りてきた本はそれよりもさらに古い本になる。

本は中央に魔方陣が載っていて、下には解説。魔方陣の周りに小さな注釈をつけて特徴を説明されている。古い分言葉の言い回しが現在とは違う部分もあるが、読めないほどではなかった。

次々とページをめくって確認していると、視線を感じてティアナは顔を上げた。すると、視線を合わせないようにしていたはずのディランがこちらをじっと見つめていた。

内心驚きながらもティアナは声をかけた。

「どうかしました?」

「お嬢さんは魔封石士なんだよな」

「そうですけど」

昨日リーンの紹介でティアのこともディランには説明されていた。首を傾げると彼は目を細めた。

「本当にその本が読めているのか?」

「え?」

突然の質問にティアナはきょとんとした。なぜここでその質問なのだろう。

「お嬢さん、まだ20歳くらいだろう」

「そうですね」

「女性に年齢を聞くなんて、失礼な人ですね」

エルヴィンがぽつりと呟く。聞こえないように言ったつもりかもしれないが、静かな談話室では丸聞こえだ。

「その年齢で今回の結界石の修復を担当するなんて、一体どんなコネを使ったんだ?」

「・・・はい?」

「貴族出身なんだろう?そのつてで7賢者の候補生にもなったんじゃないのか」

ティアナが貴族であることは伝えていなかったが、ディランは最初から気づいていたようだ。そして、言葉の端々に貴族を嫌っていることが窺えた。

「えっと・・・」

どう返事をしたらいいものか、しばし考えていたティアナだが、彼女よりも先になぜかエルヴィンが動いた。彼は勢いよく立ち上がると、すでに読み終わっていた本の山を持ち上げてディランの目の前に置いた。

「ティアナさんが読み終わった本です。調べたければどうぞ。ただし、一度こちらで調べているので新しい情報は何も見つからないでしょうね。二度手間になるだけですが、好きなだけ読んでください」

静かだったが、明らかに怒りを孕んだ声が部屋に響く。

それに気圧されたのか、ディランは目を見開いて固まっていた。

「7賢者の弟子や候補生は簡単になれるものじゃありません。現在の7賢者が、将来の7賢者として見込みがあると判断されて初めてなれるものです。ティアナさんを否定するということは、彼女を選んだ7賢者たちに喧嘩を売っているのと同じです。そのことを理解したうえで発言していただきたいですね」

それだけ言うと、鼻息荒く椅子に座って再び本を読み始めるエルヴィン。

17歳の彼がおそらく40歳くらいだろう男性相手にティアナのことでここまで怒るとは思わなかった。別の意味でティアナが驚いていると、先に我に返ったのはディランの方だった。

「いや、その・・・悪かった」

気まずそうにしながら彼が謝る。

「そうだよな。確かリーンが見込んだお嬢さんだったな。すまない。貴族出身だって聞いて、それだけで判断しようとしてた」

「7賢者に出身は関係ありませんよ。貴族の人間もいますが、学園の先生だったり、王都から離れた小さな村出身だったり、みなさんばらばらです」

7賢者に出身は関係ない。魔術師ならばより強い魔力と魔法を求められ、騎士なら剣の実力が問われる。学者は誰よりも多くの知識を求められる。実力主義の精鋭隊なのだ。コネでなれるような甘い存在では決してない。

「貴族に対しての偏見があるようですが、7賢者も、その弟子や候補生も、確実に実力で選ばれています」

ティアナは魔封石士として、作り上げた魔封石で判断してもらった。まだ経験が足りないということでフォーンで修行中の身ではあるが、候補生として認められた以上、認めてくれた7賢者を落胆させたくない。

「俺が悪かったよ」

「そう思うんだったら、魔方陣を早く見つけてください」

エルヴィンの辛辣な声が聞こえてくる。ティアナを攻撃されたことがよほど気に入らなったらしい。

「謝ってもらえましたし、私は気にしていませんよ。エルヴィンも怒ってくれてありがとう。でももうすねるのは終わりにして」

前半はディランに対して、後半はエルヴィンに言うと、ディランはほっとした表情だったが、エルヴィンはまだ納得できないのか、口を尖らせながらも頷いてくれた。

「さぁ、もう少し頑張りましょう」

そう声をかけると部屋の扉がノックされた。返事をするとクロードが顔を見せた。

「あら、もうお昼?」

すっかり忘れていたが、クロードが来たということは昼食の時間になったようだった。彼の後ろにはエリクスもいる。

「図書館の入り口で会った。昼食の準備ができているそうだ」

「昼食は城の別の部屋に用意してある。師匠も同席することになったから、そこで進捗状況を報告してくれ」

部屋を見渡してからエリクスが言うと、3人は本を閉じて立ち上がった。

談話室を出るとエルヴィンが扉に施錠をする。借りている本が紛失するのを防ぐためだ。

「この本を戻したら合流します。先に行ってください」

禁止区域にあった本は一度棚に戻す必要があり、エルヴィンが引き取ってくれた。他にも読み終わった本を片付けてから追いつくつもりで、彼は本を抱えて行ってしまった。

ティアナ達は先にエリクスの案内で昼食の部屋へと行くことになった。

「演習場はどうだった?」

図書館から一度外に出ると、ティアナは隣を歩くクロードに話しかけた。資料探しができないクロードは、邪魔にならないようにと演習場に行くと言っていた。

「騎士隊の騎士と模擬戦をしてきた。騎士団長も途中から来ていたから、俺の魔法騎士としての状況も把握してもらった」

グロッグと会う約束をしていたのに、ずっと会えないままになってしまった。魔法を使えるようになって、やっとクロードの評価を出してもらえたことはティアナとしてもありがたかった。そうでなければ今も魔力を暴走させる破壊騎士としてフォーンにいるだけになってしまっていただろう。

「いい刺激になったんじゃない」

クロードの横顔はどこか晴れ晴れとしているように見えた。

「そうだな。そっちの状況はどうなんだ?」

新しい発見があったのか聞かれたが、ティアナは首を横に振った。

「いくつか魔方陣は調べられたけど、魔封石士のことは何もわからなかったわ。とりあえず結界石に描かれている魔方陣の解析を優先することにしたの」

途中でディランも合流して3人で調べているが、まだ時間はかかりそうだ。

「ところで」

クロードはエリクスを先頭に、その後ろを歩くディランの背中を見た。

「彼のことを何も聞いていないんだが」

魔封石士でリーンの推薦で今回の件に参加することになったディラン。クロードにはそれくらいの情報しか渡されていなかった。

「私も彼の魔封石士としての能力は見てないから何とも言えないけど、リーン師匠が推薦したからには、それなりの技術を持っていると思うわ。ただ、悪い方に貴族に対して偏見があったみたい」

そこでティアナは楽しそうにさっき談話室であったことを話し始めた。

「貴族に対していい印象がなかったみたいだけど、わだかまりは解けたと思っているわ」

「あれは俺が悪かったよ」

ティアナの話が聞こえたのか、先を歩いていたディランが振り返って気まずそうに言った。視線を向けると頭を掻いて再び歩き出す。

「偏見だけでティアナを見下すようなことをするから、そういうことになるんだ」

先頭を歩いているエリクスが感想を漏らす。クロードも同じことを思ったのか、無言で頷いていた。

この中で一番年上なのはディランだが、年下相手にどんどん立場がなくなってきているようだ。

「このことは師匠に報告しておきます。ティアナのことを一番可愛がっていますからね」

「おい、それは勘弁しれくれ」

「自業自得です」

思いついたようにエリクスが言うと、ディランが慌てて止めようとする。だが、しれっとエリクスは言い返して終わった。

その後、食事をとりながらのリーンに報告したものの、進展はあまりなかった。午後からの作業でも新しい魔方陣を見つけることはできたが、すべての魔方陣が見つかったわけではなく、結界石の修復はまだ時間がかかることを誰もが予想することになった。


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