今後の相談
「どうしたんですか?」
屋敷につくと出迎えてくれたシャイヤが驚いた声を上げた。
クロードが怪我をしていることを伝えると彼女はすぐに奥の部屋に行ってしまい、入れ替わるようにログが顔を出した。
「居間に行こうか。詳しい話は手当ての後で」
屋敷についてもクロードはティアナを下ろしてくれず、結局居間のソファに座らされるまで抱えられたままだった。1人掛けのソファに降ろされると、奥の部屋に行っていたシャイヤが薬箱を持って戻ってきた。
「ここまま手当てすると汚れますね。1度足を洗いましょう」
外で押し倒されたため、足には土がついていた。
「水を用意しますから少し待っていてください」
薬箱を置いてシャイヤはすぐに部屋を出ていく。
「我々も一度離れるよ。手当てが終わったら声をかけてくれ」
そう言ってログとクロードもすぐに部屋を出て行ってしまった。
足を洗うということはスカートを上げて足をさらけ出すことになる。この国では女性が家族以外の男性の前で足をさらすことは恥ずかしいこととされている。そのためログもクロードもすぐに部屋を出て行ったのだ。
少し待っているとシャイヤが水の張った桶を抱えて戻ってきてくれた。
すぐに足を綺麗にすると、シャイヤが手際よく手当てをしてくれた。足は少し赤く腫れているがそれほど痛みはない。数日安静にしていれば普通に歩くことはできるだろう。
「ありがとう」
ティアナが礼を言うとシャイヤは一礼をして桶と薬箱を持って部屋を出て行った。それと入れ違うようにログとクロードが入ってきた。どうやら廊下で手当てが終わるのを待っていたようだ。
ログはティアナの向かいにある1人掛けのソファに腰を降ろし、その後ろにクロードが立った。
「待っている間にクロードから話を聞いたが、詳しい内容がわからなくてね。襲われた経緯を聞いてもいいかな?」
ログは廊下でクロードが見たことを聞いていたようだ。だが、クロードはティアナが襲われているところを助けただけで、なぜ襲われることになったのかを知らない。
「わかりました」
ティアナは目の前のローテーブルに置いておいた自分のカバンを取ると、中から1通の手紙を取り出しログに差し出した。それを受け取ったログは中身を確認する。
「詳しい内容が書かれていないね」
読み終えた彼は困った顔を向けてきた。
「7賢者リーン=ラナスターからの手紙です。詳しいことはそれを届けてくれた弟子から直接伺いました」
ほとんど内容が書かれていない手紙では、今王都で何が起こっているのか、それにティアナがどう関係しているのかわからない。弟子のエリクスが話してくれた内容をそのままログに伝えることにした。
黙って話を聞いていたログだが、話が進んでいくと眉間にしわが寄っていくのがわかった。
「厄介なことに巻き込まれているようだね」
話し終えた最初の感想がそれだった。ティアナは苦笑するしかない。
「今度のパーティーの招待状もすでに届いています」
「行くつもりなのかい?」
「はい」
今回襲ってきた男たちは王都で起こっていることと関係していると思っている。現在の第1王子の婚約者は引きこもりがちになっている。そこにティアナが戻れば余計こじれる可能性もあるが、逆にティアナと王子の関係が円満な婚約解消であり、今の婚約者を上手く引き立たせることができれば、周りの環境を変えてあげることもできるだろう。それができなければ王城内はもっと混乱することになる。それを狙ってティアナを利用しようとする者がいる可能性は十分にある。
婚約を解消するときに王子と約束をしたが、その約束が守れない状況になってきている。このままではティアナのゆっくり魔封石店を営んでいく将来が危うくなりつつある。ティアナが何もしなくても向こうから彼女を巻き込もうとしてくるのであれば、それに応えて解決してしまった方がきっと事は早く落ち着くだろう。そのことをログに説明し、ティアナの覚悟を言うと彼は少し考えてから一つ頷いた。
「わかった。殿下も追い込まれているようだし、ティアナ嬢が行くと決めているのなら、私は引き止めないよ」
「ありがとうございます。家族には手紙を出しておきましたから、返事がきたらすぐに王都に向かうつもりです」
ティアナは伯爵令嬢だ。貴族の娘が一人で家を出て庶民の中で暮らすことは普通出来ない。だが婚約解消ということが起こったことでフロース家はいろいろな意味で注目を浴びることとなった。ティアナは今も社交界に出れば噂の的となる。そのことも考慮されて、今回家を出ることを許可してもらえた。両親と兄だけはティアナがどこで何をしているのか知っているが、皆彼女の居場所を絶対に言わないし、緊急の要件がない限り連絡をしないことをお互いに決めていた。今回は王家の問題に巻き込まれたこともあり、緊急と考えて家族に手紙を出していた。パーティーに出席することになればいろいろと準備が必要になる。あまり時間がないので新しいドレスを用意することはできないが、そこは家族にすべて任せることにした。
「王都に向かうのはわかったが、その前に足の怪我を治してからにしなさい。それと、ティアナ嬢は狙われている可能性が高い。パーティーに参加するまでクロードを護衛につけるといい」
先のことを考えていたティアナは一瞬何を言われたのかわからず、きょとんとしてしまった。
「クロードを護衛に?」
「また男たちに襲われるかもしれないからね。店もしばらく休みにするか、ここから通うという手もあるね」
そう言われてティアナは困惑した。クロードは騎士団に所属する魔法騎士だ。事情があってログの所で、彼の護衛という形で在席している。それをティアナの事情で勝手に護衛をすることはできるのだろうか。
「心配しなくても大丈夫。彼の扱いは僕に任されているから、ティアナ嬢の護衛を任務として指示すれば問題ないよ」
疑問を口にすると、あっさりとした答えが返ってきた。
「足が治るまでは店も開けられないだろう。ここで治療をして手紙が届くのを待ちなさい」
歩けないほどではないが、無理をすればすぐに痛みが戻ってきそうだ。
「では、お言葉に甘えて足が治るまで」
そういうとログは微笑んで頷いた。後ろに立つクロードに目を向けると、彼は何の感情も示さずティアナを見ているだけだった。
「よし、話は終わりだ。夕食が遅くなってしまったね。すぐに用意させよう。クロードはティアナ嬢をダイニングまで頼むよ」
「わかった」
これからのことはティアナの怪我が治って、王都にいる家族からの手紙が届くまで待機という形になった。手紙は数日中には届くだろうから、店はパーティーが終わるまで開けないだろう。面倒なことに巻き込まれてしまったが、この先好きな魔封石を扱いながらのんびり暮らすために通過しなければいけに事だと思って諦めるしかない。
ソファから立ち上がるとクロードが横に来てくれて、ぎこちないティアナの歩行に手を貸してくれた。
「迷惑かけるわね」
部屋を出るとティアナは静かな声で今回のことを詫びた。
「気にするな」
彼は短くそう言うだけで、その言葉にどんな感情が混ざっているのか、ティアナにはわからなかった。




