騎士団長
エミリアに呼び止められて、連れてこられたのは騎士団長の執務室だった。
「登城したら会う予定だったんでしょう。会議が終わったら連れてきてほしいって頼まれていたの」
次に登城する時に騎士団長に顔を見せるように手紙はもらっていた。だが、今回は緊急の招集だったのでクロードは騎士団長と会うつもりではなかった。相手にも都合というものがある。
執務室に到着すると、扉の前でエミリアに入るように促された。
「私は案内だけ。あとは2人でゆっくり話すといいわ。あっ、そういえば」
立ち去ろうとして何かを思い出した彼女がクロードに近づいた。
「あんまり思い詰める必要ないと思うわよ」
「え?」
「自分の気持ちには正直にね」
それだけ言うとクロードの返事も待たずに廊下を歩いていった。
「なんだ?」
言葉の意味が分からず首を傾げる。そうしていても答えは出なかったので、とりあえず執務室に入ることにした。
ノックをすると中から入れと声が聞こえた。
「失礼します」
「よく来たな」
部屋の中は中央にローテーブルがあり、それを挟んで2人掛けのソファが置かれていた。その奥には執務机が置かれ、壁際に資料が詰め込まれた本棚がある整然とした部屋だった。
執務机の向こう側には大きな窓があり、自然光を取り込むことで落ち着いた柔らかい空気を醸し出している。その執務机に腕を組んで壮年の男性が腰かけていた。クロードが力を暴走させてログのところに預けられるときに会って以来だったが、男性が騎士団長であることはすぐにわかった。見た目は40歳くらいに見えるが、今年で50歳になるはずだ。7賢者に選ばれた人間は若く見える傾向にあるのだろうかと思ってしまう。
7賢者の騎士、グロッグ=ダイナ。城に所属している騎士と魔法騎士を統括している騎士団長。
「城を出てから1度も会ってなかったが、4年ぶりだな」
ログのところへ行ってから、ティアナとともに戻ってくるまでクロードが城に来ることはなかった。1度会う約束をしていたが、ティアナとルナリアが襲われるという事件のせいでなくなってしまった。
「力を暴走させて以来になります」
その間に定期報告として手紙を送っていたが、直接会うことはなかった。破壊騎士という異名を付けられてから、魔法を使うことができなくなった魔法騎士にわざわざ騎士団長が会おうとは思わないだろう。
「報告は受けているから、魔法が使えるようになったことは知っている」
魔法を使えるようになったことから1度会う約束をしていたのだ。それが駄目になって、今日まで来てしまった。
「魔法騎士として、ティアナ=フロース嬢の護衛もしっかり勤められるくらいにはなったようだな」
「はい。まだ魔封石がないと安定しない部分はありますが、魔法騎士として戦うことも可能です」
魔封石なしでの戦闘はまだ無理がある。小さな魔法なら自分の力で制御できるが、より強い力を使えば暴走させる恐れがあるのだ。
それを聞いたグロッグは頷いてから、ソファに座りなおして、クロードにも座るように促した。
示された場所に腰を降ろすと、話が再開される。
「さっそくだが、ティアナ嬢が城に呼ばれた理由は聞いたな」
護衛として一緒に来たが、呼ばれた理由をクロードも聞くことになって不思議に思っていた。説明を受けたことを言うと、グロッグはソファに背中を預けて深く座った。
「魔封石に関しては魔封石士に対応してもらうのが妥当だろう。7賢者の候補生になったティアナ嬢にはそのために来てもらった。当分の間城でいろいろと作業をすることになると思う」
壊れかけている魔封石の修復もしくは新しい魔封石の制作を依頼されていた。結界石を見せてもらうためにリーンに案内されて行ったが、現状を把握すれば魔封石づくりが始まるだろう。
「俺も魔封石に詳しいわけじゃないが、結界石は200年も城を護ってきた石だ。簡単に新しい物が作れるとは思えない。おそらく時間がかかるだろう」
「その間の護衛をしろということですか」
言われるまでもなく、クロードはティアナの護衛を任務としている。新しい命令がない限り城にいても護衛対象は彼女のままだ。
「それはわかっていると思うが、一応城での注意点を伝えておいた方がいいと思って来てもらった」
首を傾げると、グロッグは苦笑してから城にいる間の説明をしていった。
「殿下の結婚式も無事に終ったし、ひとまずは平穏だと思うが、やっぱり婚約破棄されたティアナ嬢が城の中にいると、思うところのある貴族はいるだろう」
結婚式には出席しなかったが、お披露目のパーティにティアナはフロース家の人間として招待されていた。そこで王太子と妃にも会っており、3人の間はとても穏やかな空気が流れていたそうだ。それを感じ取った周りの貴族たちは、何のわだかまりもないことを再確認させられた。大半の貴族はそれで済んだが、中にはまだ納得がいっていないのか、不穏な視線を送る貴族もいたそうだ。そう言った人間からすれば、突然ティアナが城の中をうろつき始めれば、余計な詮索をする可能性があるし、間違った考えを起こすかもしれない。そのため、事情を知っているクロードをそのまま護衛にすることにした。
「結界石の破損は、説明を受けた人間と、王族、7賢者とその弟子のみだ。周りに知られると騒ぎになるからな」
結界の歪みに気づいたのはリーン=ラナスターだけだった。ほかの魔術師たちもまだ気づいた者はいない。異常が発生していることに気づかれる前に対処する必要がある。そうでなければ周りに余計な恐怖を与えかねない。
「ティアナ嬢が結界石を作っていることを知られるのが一番まずいが、彼女を再び利用しようとする輩が出てくるのもまずい」
ティアナには城の中での行動制限が課せられるだろう。ずっと部屋に閉じこもっているわけにもいかず、誰にも見られないように行動するとなると、余計に動けなくなってしまう。そのため、ある程度人に見られることも考慮しての行動制限になった。そのため、利用したい人間から狙われる可能性が出てくる。クロードは護衛として彼女のそばにいる必要があった。
「フォーンにいた時との違いはあるだろうが、魔封石が完成するまでの間だ。時々エリクスも交代で側につくことが決まっているから、その間は騎士団に顔を出してくれ」
「騎士団に?」
「こんなところで話をしたって、お前の今の力はわからないだろう。実践も兼ねた訓練をしてみるといい」
魔法騎士としてのクロードがどこまで役立つのか知りたいのだろう。話をするより実際に見たほうが早い。
「時間の取れた時で構わない。各隊には伝えておくからいつでも来い。俺自身も剣を合わせてみたいと思っているよ」
騎士団長であり7賢者でもあるグロッグ相手に勝てるとは思えないが、それでもクロードも目の前の男と戦ってみたいと思った。
「わかりました。その時はよろしくお願いします」
城に来て初めての楽しみができたと思った。




