魔法騎士の新しい一歩
クロードとの魔法の訓練は、ティアナの魔封石の出来を調べることにも繋がっていた。
特に攻撃的な魔封石を作った時は、その威力を確かめながらクロードの魔法の精度も確認していく。
「始めるわよ」
ティアナはそう言って、持っていた魔封石に魔力を注いだ。すると、青い魔封石が淡く光を放って、ティアナの目の前に水たまりが出来上がった。手を持ち上げると水たまりの中から水が溢れ出して、ティアナの背丈ほどの水柱になる。それを確認すると、今度は腕を横に振った。
すると、水柱がさらに伸びあがって生き物のようにうねりながらクロードに向かっていく。水柱の先端がクロードに迫ると、彼は大きく後方に跳ぶ。彼がいた場所に水が叩きつけられて水飛沫が上がると、水柱は地面を跳ねあがって再びクロードに迫っていった。
今回の魔封石には追撃作用を付けてみた。攻撃対象を定めて魔封石を発動させると、魔封石の魔力が切れるか、相手に攻撃が当たるまで追いかけ続ける。
水柱が地面を跳ねながらクロードに迫る。しかし、彼は水柱を避けた後、迫ってきた水柱に向かって剣を薙ぎ払った。
「光よ」
薙ぎ払う前、剣に光の魔法をかけると、剣が光を帯びた。そのまま水柱を斬ると、触れ合った場所が一瞬で蒸発して、水柱が2つに分かれる。それだけでは終わらず、魔力を失った水柱は空気に溶け込むように消える前に、光に包まれてすべて蒸気になって消えてしまった。
それを見たティアナは、水が消えた空間を見つめて口元を緩めた。
「斬った対象に魔法でダメージを与えられるようになったのね」
同じように水が蒸発してしまった空間を見ていたクロードが頷く。
「魔法を外に放つような感覚だった」
彼の魔法は、いまだに身体から離れると消えてしまう特徴を持っていた。放つということができないのだ。その代わり、体から離れなければ魔法を使うことはできる。生み出した魔法を大きくして操ったりすれば、少し離れた場所への攻撃は可能になったし、触れ合っている武器に魔法をかけて、魔法剣にすることで迫ってきた魔法を斬ることもできる。今度は、その斬った対象物に自分の魔法を移すことで、さらなる攻撃ができるようになった。
今は水柱に魔法をぶつけるような感覚で斬ったらしい。
さらに進化していくクロードにティアナは嬉しさを覚えていた。
「今ので、魔封石は?」
「問題ない」
胸元を押さえてクロードが言う。ペンダント型になった魔封石を彼はいつも身に着けている。これがあるから、安定した魔力と暴走することのない魔法を使えているのだ。
「ねぇ、クロード」
服の上から魔封石を押さえているのを見て、ティアナは1つ試してみたいことを思いついた。
「魔封石を貸してくれる」
何をするのか首を傾げながらもクロードが魔封石を渡してくれた。異常がないことを確認すると、ティアナはそれを返すことなくクロードをまっすぐに見た。
「炎を出してみてくれる?」
「え?」
ティアナの言葉に戸惑うクロード。視線が魔封石と彼女の顔を行き来するのを見て、ティアナは安心させるように微笑んでから左手を持ち上げた。手のひらを上にして意識を集中させる。
「炎よ」
手のひらに収まるほどの小さな炎が出現する。
「これくらいの小さなものでいいの」
「だけど・・・」
クロードの視線がティアナの持つ魔封石に注がれる。今まで魔封石があったからこそ、魔力が制御されて魔法を使えていたのだ。今はその魔封石がない。
「今のクロードなら、小さな魔法を使うのは問題ないと思うわ」
先ほどの戦闘を見て、強い魔力を使えるようになってきたのはわかった。魔力操作も安定していたし、これなら小さな魔法くらい自分の力で使えそうだと思った。
「大丈夫よ。もしもの時はすぐに対処するから」
ここはログの屋敷の庭だ。暴走させてしまえば、庭だけでなく屋敷にも被害が及ぶのは間違いない。だが、そうなる前にティアナが対処すれば大丈夫だ。クロードの魔法訓練を初めて時間が経っている。何度も彼の魔法を見てきたし、その魔力を確認してきていた。今なら暴走する前に素早く止められるだけの自信はあった。
「信じて」
静かに言うと、迷いを見せていたクロードは少し考えてから頷いた。
「わかった」
そう言って、一度深呼吸をしてから右手を持ち上げた。
「・・・炎よ」
クロードの手のひらに小さな炎が出現する。ティアナが示した炎と同じくらいの大きさが、赤い光と熱を放っていた。
ティアナは自分の作り出した炎を消すと、クロードが出現させた炎が乗る右手を下から支えるように両手で包んだ。
緊張した面持ちのクロードがぴくりと反応したが、炎を保つのに集中しているのか何も言わなかった。
ティアナは触れた右手に意識を集中して、彼の魔力の流れを確認する。
「大丈夫。安定しているわ」
小さな魔法なら、魔力の流れが乱れていないことがわかる。これが大きくなってくると、バランスを崩して暴走する可能性があるが、何度も魔法の訓練をしてきたことで、クロードの中で魔法の安定的な流れが掴めてきているのだろう。
右手から離れると、小さな炎が消えた。緊張していた彼の表情が安心に変わる。
「これくらいの魔法なら、もう魔封石がなくても大丈夫ね。火を付けたり、明かりを取るくらいはできるわ」
後は継続して魔法を保っていられるように慣らしていくことが重要だろう。
「新しい一歩ね」
ほっとしているクロードに対して、ティアナは嬉しそうにそう言った。




