余談4
「しばらくティアナのところにいて、あの子はどんな様子だった?」
隣国の王子との縁談も無事に解決すると、キースはレインの護衛に戻り、変わらない日常が戻ってきていた。
そんなある日、ふと思い出したようにレインがフォーンでの妹の様子を聞いてきた。
「魔封石を作ることに随分力を注いでいるようです。あんなに楽しそうにしているとは、正直考えていませんでした」
婚約破棄を機に隣町に移り住んだティアナだったが、屋敷を出て行ったお嬢様を、家族だけじゃなく屋敷の使用人たちも心配していた。1人で生活したことがないのに、急に別の場所で1人で生きていくのは大変だと誰もが思っていた。
しかし、半年フォーンで生活していたティアナは再会したとき、予想以上に元気で、思っていた以上に魔封石作りを楽しんでいるような気がした。1人暮らしのはずが、ログ=フォームトンのところで生活することになったのはキースとしても安心できる要素ではあった。
「それだけ?」
「は?」
ティアナの生活を気にして聞かれた質問に答えたつもりだが、レインは満足した顔をしなかった。
「他に何もないの?友達ができたとか、料理が上手くなったとか、恋人ができたとか」
「・・・・・」
レインの質問にキースはしばし考えた。
キースは任務でティアナの護衛役になったが、護衛をしている間、彼女の友人が屋敷を尋ねることはなかった。店の隣にあるパン屋の夫婦は少し年上だが、ティアナと友人にはなれそうだと思う。だが、店を経営しているので、一緒にお茶を飲んだり遊ぶような中ではなさそうだ。まだ、フォーンで友人といえる人間はいないのかもしれない。
料理はシャイヤと一緒にしていたが、シャイヤの手伝いをする程度に見えたので、ティアナ自身の料理が上手くなっているのかわからない。
恋人はと考えた時、ふと1人の青年の顔が浮かんでしまった。
「ん?何か思い当たる」
キースの表情が変わったことにレインは気づいたようだ。
「いいえ」
キースは努めて表情を消した。
ティアナの護衛役として国から任務を受けている青年。魔法騎士なのにろくに魔法が使えない。初めて会った時、こんな青年にティアナを任せて大丈夫なのかと不安しかなかった。だが、剣を交えてみて、彼なりの戦い方と、騎士としての腕だけは確かだった。キースがいる間に、魔法もより強くできるようになっていた。
そんな彼がティアナを見る時の視線が穏やかで柔らかいものであることを、本人は気づいていないだろう。まだ自覚がないのかもしれない。そう思っていたのだが、いつの間にかその視線が確信に変わっていることに気づいたのは、王都に戻ってきてからだった。
クロードは、ティアナに確かな好意を持っている。ティアナの方は誰にでも接するときと同じような視線を向けているが、それがいつ変わってもおかしくないとキースの直感が訴えていた。
まだ2人の気持ちは同じものではない。あとどれくらいの時間が必要なのかわからないが、2人がお互いを見つめ合うようになるまで、キースは気づかないふりをするのが一番だと思っている。
「怪しいな。何か知っているんじゃないのか」
レインの怪しむ視線を、キースは涼しい顔で受け流して、フォーンがある方向に視線を向けた。
「お嬢様の心配をするのもいいですが、もうそろそろご自身のことも考えていただかないと」
そう切り返すと、途端にレインの視線が窓の外を向いた。
「レイン様も適齢期ですし、同い年の王子殿下は半年後にご結婚です」
「そうだねぇ」
「婚約者とまではいかなくても、せめて恋人くらいいても良いのでは?」
「随分とぐいぐい攻めるね」
「旦那様と奥様は何も言われませんが、内心では良い人がいないものかと気になさっております」
レインは王子殿下と同い年の幼馴染だ。その縁もあって、ティアナは王子殿下の婚約者に抜擢されていた経緯がある。そんな中、レインには婚約者はおろか、恋人もいない。学生時代には付き合っている女性がいたようだが、卒業して城で勤めるようになってから、その陰すら感じたことがなかった。
「お嬢様のことを心配するのも良いですが、ご自身の今後も考えてください」
「ハハハ」
気の抜けた笑いが返ってくるだけで、レインに恋人ができるのはいったいいつになることやらと、キースは気づかれないようにため息をつきながら窓の外に視線を向けたのだった。




