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魔封石使いと破壊騎士  作者: ハナショウブ
破談作戦
55/122

破談のその後

クリュート王国第3王子エドワードが、突然隣国の伯爵令嬢との縁談を持ちだしたとき、周辺の貴族は大いに慌てた。彼の上には2人の王子がいて、すでに結婚していた。次はエドワードだと誰もが思い、彼の婚約者候補として、年も近く幼馴染でもあった侯爵令嬢が有力視されていた。

誰もがこれで決まりだと思っていた矢先に、エドワードのとんでもない発言を聞き、一番傷ついたのは侯爵令嬢だ。

婚約していなかったとはいえ、ほぼ確定だった令嬢は、婚約者になることを楽しみにしていたらしい。それが一転して、ただの幼馴染に戻ったことにショックを受けて部屋に閉じこもってしまったという。

それを間近で見ていた父親の侯爵は激怒し、王子に抗議をしたらしい。だが、王子はティアナを婚約者にすると勝手に決めて、どんどん話を進めてしまっていた。周りは誰も止められず、他の王子や陛下たちはしばらく様子を見ることにしてしまったため、縁談話がフロース家まで来てしまった。

このままでは娘が可哀そうだと思った侯爵は、候補となったティアナさえいなければ王子も諦めると考えて、侯爵家で雇っている人間をティアナの元に送った。

「そのあとのことは体験したとおりだね」

後日、再びフロース家を訪れたリーンを庭に招待し、そこでクリュート王国で起こったことが話された。

お茶を飲みながら世間話をするように今回の真相をリーンが語ってくれていた。結構大変な思いをしたのに、こんなに軽い会話でいいのかと首を傾げながらも、ティアナは黙って話を聞くことにした。

「結局はすべて失敗に終わったし、エドワード殿下の望みも叶わなかったことになるね」

真相を知ったエドワード王子は、すぐに国に帰ると侯爵家を調べ始めた。そこにリンド王子から手紙をもらった第1王子がエドワードに協力をして、侯爵の企てが知られることとなった。

「娘を想っての父親の暴走ってところだね」

「いい迷惑です」

巻き込まれたこっちはたまったものではない。

ため息をついてお茶を飲むと、隣に座っていたクロードが同感だと言わんばかりに頷いていた。

「そもそも、エドワード殿下が縁談をしたいと言い出さなければ、こんなことにはならなかったはずです」

すべての原因は縁談を申し込んできたエドワードだ。彼がティアナとの縁談を言い出さなければ、侯爵令嬢も傷つくことなく婚約者の座に付けていただろう。

「会ってみてわかったと思うけど、言い出したら周りの意見をあまり聞かない王子みたいだよ」

「私とも、すでに結婚する体で話をしていましたね」

思い出すとうんざりしてしまう。ただの顔合わせだと思っていたら、すでに相手は結婚する気でいた。断るためにいろいろ動いていた身としては、勘弁してほしいことこの上ない。

あの時の心境が顔に出ていたのか、リーンは苦笑しながらお茶を飲んでいる。

「それで、その後はどうなりました?」

「侯爵を問いただしたら、あっさり認めたそうだよ。実行犯も捕まっているから観念したらしい」

調査が行われるとともに、ティアナを襲った犯人はクリュート王国に引き渡された。そこにはリンドがいろいろと交渉をしたようだが、ティアナが関与することはない。ブロファリト王国に有利な条件をいくつか飲んでもらったようなので、彼の機嫌はしばらくいいだろう。

「侯爵は処分を受けることになるだろうが、令嬢に罪はないからね。今回の件では被害者と見てもいいだろう。それを考慮して、まだエドワード殿下に思いがあるのなら、婚約者候補として名を挙げることは可能だそうだよ」

父親の行ったことはすぐに令嬢も知ることになった。当然ショックを受けたが、父親を暴走させた原因が自分であると改めて考えたそうだ。婚約者候補にもなれる可能性が残っていることも、今後ゆっくり考えて答えを出すことになるのだろう。

「とりあえずは、一件落着ということになるかな」

ティアナが襲われる心配はもうない。

「隣国のことは放っておいて大丈夫だけど、残りはティアナ自身の話をしようか」

残っていたお茶を飲み干して、リーンは体を前のめりにした。

「7賢者の候補生という話、正式に受けてくれるね」

「そうですね。私でよければ」

国の保護下になる7賢者の候補生。本来なら将来7賢者になるための存在は、現役の7賢者の弟子となって知識や技術を磨いていく。だが、ティアナは魔封石士として選ばれ、師となる魔封石士が7賢者の中にいない。そのため7賢者の候補として、弟子と同じ扱いになる候補生という立場を取ることになった。

審査は現役の7賢者と国王陛下が集まり、候補者の資質と実力を見て判断する。ティアナ=フロースはリンド王子の婚約者であったこともあり、人となりは全員が知っている。あとは実力だけだが、そこで王都に来る前にエリクスに頼まれた魔封石が出てくる。

気配を消す魔封石は作戦に使われたが、残りの魔封石は審議の時に提出する用だった。

作ったのは2つ。少し大きい水属性の魔封石士と風属性の魔封石だ。水属性の魔封石は、水の浄化を促す魔封石にした。こちらは今回助けてくれた泉の精霊にお礼をするために作ろうと考えていた物なのだ。泉の水は精霊の力によって浄化され癒しの効果を持っている。必要ではないかもしれないが、浄化ができる魔封石なら受け取ってくれるのではないかと考えて作った。審査が終わったら精霊に渡すつもりだ。

「あれはいい効果があったよ」

リーンが審査の時を思い出して説明してくれた。濁った水を瞬時に綺麗な水に変えたり、毒を混ぜた水が無毒化されたり、いろいろと試したようだ。普通より大きめの魔封石なので、その効果も強く出たのだろう。

「風の魔封石は攻撃型になっていたから、部屋の中で審査できなかったけど、場所を移してちゃんと審査したから問題なかったよ」

風は嵐を呼ぶ魔封石にした。攻撃型の魔封石も用意してほしいという要望だったので、思い切り荒れるようにしておいた。

「演習場を借りたけど、あれは結界を張らないと大変だったよ」

思い出したのか、リーンが楽しそうに笑った。発動させたのは7賢者の騎士団長。彼を中心に防風が吹き、すべての物を吹き飛ばす勢いだった。危険を察知したリーンはすぐに演習場全体を結界で覆った。被害は出なかったが、かなりの威力があった。

「石が壊れない程度に、思い切りよく作ってくれと頼まれましたから」

どの程度の物が欲しいのかエリクスに尋ねると、彼はできるだけ強風になる物を要望してきた。出来上がって渡す時に危険を伝えたのだが、リーンは魔封石の威力を見て喜んでいた。

「もともと魔力もそれなりにあるからね。時間をかけずにあそこまでの威力の物を作れたのはよかったよ。おかげでティアナ=フロースという魔封石士のすごさが伝わった」

ティアナに魔封石士としての才能があったことを知っているのはリーンだけだ。ほかの7賢者も、婚約破棄になって魔封石士になったことは知っていても、どこまでの才能があるのか理解してはいなかった。

「特にエミリアが、将来自分と同じ7賢者になることを喜んでいたよ」

占い師のエミリア=ハーディスは、前にティアナが魔封石のことで悩んでいた時、手紙でアドバイスをくれた7賢者だ。今回彼女の占いでも、ティアナは7賢者候補生として妥当だと出たという。王都を離れてから一度も会っていなかったので、候補生になれば会うこともあるだろう。その時はお礼を言わなければいけない。

「正式な通達と、候補生としての称号の授与も必要になるから、その時は登城してもらうよ」

「わかりました」

審議は合格だった。あとは書類を通していき、称号と授与の準備が進められる。

「すぐにとはいかないだろうから、その間は王都にいてもいいし、フォーンに戻っていてもいい」

「そのことで一つお聞きしておきたいのですが」

「なに?」

ティアナは7賢者の候補生になることで、ずっと気になっていたことを尋ねることにした。これを聞いておかなければ、今後のティアナの生活が大きく変わってくる。

「私は候補生として、城での生活になるのでしょうか?」

7賢者は基本城の敷地内に屋敷を持っている。敷地外にも貴族が住んでいる区域に屋敷が与えられているが、どちらに住んでも問題ないようになっていた。7賢者の弟子たちは師匠が使っていないどちらかの屋敷の部屋を借りることが多い。エリクスも城の敷地外にあるリーンの屋敷に住んでいた。そうなると、ティアナもどこかに屋敷を与えられて王都に住むことになるのだろうか。

「そのことなら、今まで通りフォーンに住むことが認められると思うよ」

「そうなんですか?」

意外な返答にティアナは隣にいるクロードと顔を合わせてしまった。候補生になればフォーンを出ることになり、ログの屋敷で住むこともなくなると思っていた。

「ティアナの場合は7賢者としての品位は、妃教育で十分に養われている。魔力や魔法の知識は魔法学園に通っていたから基本は大丈夫だろう。魔封石の知識はこれから自分で勉強してもらうしかないとして、経験が圧倒的に足りてない」

魔封石士としての才能はあるが、魔封石士としての経験が少なすぎる。婚約破棄されてから本格的に魔封石士になったので、まだ半年過ぎたくらいしか魔封石士ではない。

「城に入ってしまうと、外との交流が減る可能性が大きい。経験を積ませるためにも、今まで通りフォーンで魔封石店をしながら、新しい魔封石の研究をした方が、ずっと実績が積めると僕は考えている」

今後、定期的な報告と登城をする必要はあるが、それ以外は今までの生活を変える必要がない。

「というわけで、クロードには引き続きティアナの護衛をしてもらうことになるから、よろしく」

にこにこしながらリーンがクロードを見た。

「ティアナは非戦闘員だから、国の保護下になった分、新しい護衛を追加することも考えるけど、基本はクロードの護衛ということになる。君も魔法騎士として成長していると聞いているから、大丈夫だろう」

魔法を放すことはできなくても、クロードなりの魔法の使い方ができてきている。今ならば魔法騎士と呼んでも問題ないとティアナは思っていた。

「いつか、登城したときに騎士団長に魔法騎士としてのクロードを見てもらいましょう」

まだ訓練は必要だが、魔法騎士として認めてもらえる日も近いだろう。

「しばらく時間がありそうですし、私はフォーンに戻ります。お店もずっと休みのままですし」

襲撃を受けてから約1か月も休業している。お客が離れてしまった可能性は大きいが、また最初からやり直す気持ちでやっていくしかない。

「そうか。じゃあ僕は城に戻って報告してくるよ。久しぶりに会えてよかったよ」

普段なら、エリクスに報告を任せるのだが、今回は7賢者の候補生ということで7賢者であるリーンが出てきた。

立ち上がったリーンは、久しぶりに会ったティアナを思い切り抱きしめてからフロース家を後にしたのだった。


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