クロードの今の気持ち
「なんだか懐かしい」
フォーンに戻って来たティアナが店に入ると、深呼吸をしてからそう言った。
その背中が1ヶ月ぶりの自分の店に、懐かしさと喜びを表している。
クロードはそれを見て苦笑しながら荷物を、2階へと運ぶ手伝いをしていた。
王都で今回の件の報告が来るのを待っている間、ティアナは毎日のように魔石探しに市場に出向き、欲しい商品を物色していたのだ。おかげで帰りの馬車の荷物はほとんどが魔封石関連の物ばかりになった。
呆れ半分諦め半分で、結局クロードは手伝うことになった。
抱えた袋の中身はすべて魔石だ。こんなに大量にどうするのだろうと尋ねれば、いろいろな属性の魔石を購入したので、大きさや属性を見て、魔石がもともと持っている魔力を見極めながら、いろいろな魔封石を作るつもりでいると言っていた。
フロース家に滞在中に、屋敷内にある魔封石関連の本を読み漁ってもいたので、作ってみたい魔封石が色々できたという。いろいろ作った中で、性能を確かめて新しい商品にしたいと思っているようだ。
「休業していた間にお客さんが離れただろうし、新しい魔封石を作ってもう一度呼び込まないと」
気合十分にそう言っていた。
荷物を運び終わると、2階の部屋を眺めたティアナは思いついたように口を開いた。
「これからは2人で休めるように、部屋の模様替えもした方がいいわね」
ティアナが7賢者候補生となったことで、クロードの護衛も少し変わることになった。今までは店への送り迎えだけだったが、今後は店の経営時間もそばにいることが多くなる。今までよりもいっそうティアナのそばにいる時間が増えるのだ。
そのため、2階をクロードの待機場所として、部屋の改装を思いついたらしい。ティアナがログの屋敷に引っ越したのを機に、荷物を置くか昼食を取るためだけになった部屋だが、再び人が休めるような空間に戻したいと考えたようだ。
「それは後々でいいだろう」
特に今のままでも問題ないと思っていたクロードは、あまり関心を示さなかったが、ティアナは楽しそうに今後のことを考えていた。
「荷物も運んだし、屋敷に戻りましょうか」
今回の縁談の件でフォーンに帰るのが遅くなってしまった。そのため、ログには手紙で大まかな報告をしていた。帰ってきたら詳細を伝えるとも書いていたし、ティアナが7賢者候補生になったことは伝えていなかったので、それも話すべきことだった。フォーンでの生活は今までと変わらないが、定期的に王都に行くなど、変わるところもいくつかある。そのための協力もしてもらう必要があった。
店を閉めて、隣のパン屋に顔を出し、明日から店を再開することを伝える。パン屋の幼馴染夫婦は、ティアナがいない間の店の様子をずっと見てもらっていた。そのお礼も兼ねて王都で買ってきたお菓子を渡すと、2人はティアナが元気であったことと、店が再開されることを大いに喜んでくれた。
忘れずにパンを買ってから屋敷に向かう。
朝一番の馬車で戻って来たので、今はまだ昼過ぎだ。町の中は人通りもそれなりにあったが、他の店に寄ることもなく、クロードはティアナの隣を、彼女の歩調に合わせて歩いていた。
7賢者の候補生になれば、王都に再び戻ってティアナ自身が修行や勉強のために王城に身を置くことになると思っていた。そうなればクロードとは離れることになり、彼は1人でフォーンに戻ってくることになるだろうと思っていたのだが、ティアナに経験を積ませるために、魔封石士としてフォーンにいることが許され、再びクロードの隣に彼女が戻って来た。
あの夜自分の気持ちを自覚してしまったクロードは、決して表には出さないが今の状況を内心喜んでいる。ティアナがどう思っているのかわからないが、今のところ自分の気持ちを伝えることは考えていない。相手は伯爵令嬢であり7賢者候補生だ。一方自分は騎士の爵位は与えられているが、中途半端な魔法騎士だ。
「・・・今はこのままで」
「何か言った?」
小さな呟きにティアナが首を傾げる。横に首を振ると、彼女は気にすることなく前を向く。
今はただ隣にいられるだけでいい。淡い恋心を表に出す必要はない。時が来ればティアナは王都に戻るだろう。その時クロードがどこまで成長できているかわからないが、隣にいられる可能性は低い。だから、今だけは隣を歩けることを幸せに思うしかない。
自分の気持ちを心の奥にしまい込んで、クロードは静かに屋敷への道を歩いて行った。




