縁談の乱入
「リーン=ラナスター様がお見えです」
メイドの言葉に、部屋で待機していたクロードは立ち上がって廊下に出た。隣にはキースも一緒だ。
向かうべき部屋はキースが教えてくれる。
途中で同じ部屋に向かうリーンと会うと、彼は何も言わずについてくるように顎を動かしただけだった。
それに従って後ろを歩いていくと、目的の場所に執事が慌てた様子で入っていくのが見えた。
「僕の護衛はいらないから、君たちはフロース家の人を護りなさい」
執事が部屋に消えるのを確認するとリーンは振り返ってにこやかにそう言って、こちらの返事を待たずに部屋に入っていった。
僅かに扉を開けておいてくれたようで、声が廊下にまで聞こえてくる。
聞いたことのない青年の声が聞こえてきた。
「いったい、どういうことだ」
叫びに近い声に、キースと視線を交わした。顎をしゃくって先に中に入るように促される。頷いてからできるだけ邪魔にならないよう気配を消すようにしてクロードは部屋の中に入った。
「たしか、隣国の王子だったかな」
明るい声でリーンが首を傾げる。本当は相手が誰なのかわかっているが、敢えて知らないふりをしているようだ。
緑の瞳が見開かれる。
「私はクリュート王国第3王子のエドワード=デュ=クリュートだ」
「これは初めまして。この国の7賢者をしている魔術師リーン=ラナスターでございます」
「7賢者・・・」
胸に手を当てて挨拶を返したリーンに対して、エドワードはどこか及び腰に一歩さがった。間にいた青年が驚いた顔をして視線を彷徨わせている。
7賢者がブロファリト王国でどういう立場になるのか、隣国の人間でも理解があるのだろう。
ブロファリト王国には国王を中心に同等の権利を持つことができる7賢者という存在がある。かつて戦争時代に国王を含んだ7人の戦士が国を守り戦い抜いたことから、戦後に当時の国王が戦友への敬意として7賢者という称号を与えた。戦争が終わった後もその称号はいまだに存在し、賢者に相応しい実力を持った人間を7賢者が見つけ出し、国王が認めることで称号が与えられている。
魔術師の7賢者となれば、魔術の実力は言うまでもない。
そんな相手が目の前に現れたことで、エドワードは動揺を隠せずにいた。
「な、なぜ7賢者殿がこのような場所に」
「前々から目を付けていた魔封石士が隣国に取られそうだという話を聞いたので、心配になって見に来ただけですよ」
お茶会の何気ない会話のようにリーンが言うと、エドワードは首を傾げた。
「魔封石士?」
「そうです。将来有望で可愛がってきたのに、掻っ攫われたら大変ですからね」
「あの、どなたのことを言っていますか?」
リーンが誰のことを言っているのか見当がつかないらしく、エドワードは困惑するばかりのようだ。それを見たリーンが歩き出してティアナの隣に立った。様子を伺っていたティアナは突然隣に立った彼を見上げるだけになる。
「もちろん、ティアナ=フロースですよ。彼女はとても優秀な魔封石士ですから」
そう言われてティアナは目を伏せた。その口元がわずかに上がったのを見ると、内心喜んでいるようだ。7賢者に優秀だと言われれば誰でも嬉しく思うだろう。
それとは逆にエドワードは口を半開きにしてぽかんとしている。王子には似つかわしくない表情だ。
「魔封石士?ティアナ嬢が?」
必死で頭の中を整理しているようだ。
クロードは部屋の状況を把握したうえで、ティアナの両親が座る後ろに移動した。
扉の方に視線を向けると、いつの間にか執事は姿を消し、わずかに開いた扉の隙間からキースが様子を伺っているのが見えた。
「ティアナ=フロースはこの国の王子と婚約破棄が成立すると、魔封石士になったんですよ。そこで私はすぐに彼女の才能を知り、今後の国の役に立てると考えて、7賢者の間でティアナ=フロースを将来の7賢者の候補にする話を進めていました」
魔封石士になったことは本当だが、それ以外のことは嘘だ。婚約者の時期からリーンはティアナの才能に気づいていたし、7賢者の候補として話が出たのは今回の縁談がもたらされてからだった。だが、エドワードがそのことを知ることはない。そのためこの話だけで彼を黙らせるには効果抜群だったようだ。
「つまり、ティアナ嬢は将来の7賢者」
「そうなりますね。よって、彼女を国から出すことはできません」
「そんな・・・」
ショックを受けたのだろう。エドワードは力が抜けたようにソファに座る。隣に立っている青年は王子を見下ろしていたが、その横顔がどこかほっとしたように見えたのはクロードだけだったかもしれない。




