新しい情報
屋敷に戻るとすぐにログとシャイヤが駆け寄ってきた。
「大丈夫だったかい?」
「はい」
「何があったんですか?」
「その話は中で」
2人の勢いに押されながらティアナがまず落ち着いて話せる環境を提案する。やはり爆発音は2人にも聞こえていたらしく、心配しながら待ってくれていたようだ。
「着替えてきますから、少し待っていてください」
土埃をかぶっていたので、とりあえず服を取り換えることにした。
着替えを終えてリビングに向かうと、すでにログとクロードがソファに座って森での経緯を簡単に説明していた。クロードは途中から参戦したので、襲われた最初の説明だけはティアナがしなければならない。しかし、ティアナからも上手く説明できる自信はなかった。店に行く途中なぜ襲われたのか、その理由さえわからないのだ。
クロードの隣に座って、シャイヤが煎れてくれた紅茶を飲みながらそのことを説明する。
簡単な説明が終わる頃にはキースも部屋に入ってきていた。
「おそらくだが、数日前に感じた気配と今回の襲撃は関係しているだろうな」
説明を終えると、クロードは数日前の感じた怪しい気配のことを思い出して言った。
「あの時は気配を感じるだけだったが、何かきっかけがあって実力行使に出た可能性がある」
「お嬢様を狙っていたのは明白です。でも、なぜ狙われているのか、その理由がはっきりしません」
キースも同意見のようだが、襲われる理由までは見当がつかないようだ。
「ただ、ティアナの縁談が出てから動きが始まった。可能性でしかないが、原因がそこにあるのかもしれない」
「今のままでは情報が足りなさすぎるね」
2人の意見を聞いて、ログは首を横に振った。今回の攻撃が何を目的にしているのかわからない。なぜ襲撃を受けたのかもわからないし、圧倒的にこちら側の情報が足りなすぎる。
「お兄様に相談した方が良さそうね」
縁談がきっかけであるのなら、レインに相談するのが一番早いだろう。縁談の日取りは決まってしまったし、あと1ヶ月しかない。準備のことを考えると、数日後には王都に戻らなければいけなくなる。
縁談だけでも心が重くなっているというのに、ここにきて襲撃まで受けて、ティアナの心は疲弊するしかなかった。
「あ、あの」
部屋の中に重苦しい雰囲気が漂い始めると、シャイヤが部屋に顔を出した。暗い雰囲気にたじろぎながら声を出す。
「ティアナお嬢様に、お客様がいらしてます」
「お客さん、私に?」
兄が直接来たのかと思い立ち上がって、足早に玄関に向かった。すると、そこには予想外の人物が立っていた。
「そんなに焦ってどうした?」
事情を知らないエリクス=ブロディーナは、久しぶりに会った妹弟子に軽く手を持ち上げて挨拶をしてきた。
「頼まれていた魔石と師匠から手紙も預かってきた」
新しい魔封石を作るために、貴重な魔石が欲しいと7賢者リーン=ラナスターに頼んでいたことをすっかり忘れていた。
「あ、えっと・・・うん、ありがとう」
あまり心に余裕がなかったため、まったく違うことで尋ねてきたエリクスに対し、どう反応したらよいのかわからずにティアナはしどろもどろになってしまった。
「どうした?」
エリクスが首を傾げる。
「店にいると思って向かったんだが、開いている様子がなかったからこっちに来てみた。森の途中に妙な光景があったが、それと関係しているか?」
「あっ」
今日は店を開けている日だ。もう昼も過ぎようとしている時間。エリクスは開店していると思って店を訪ねてくれたらしい。だが、ティアナは不在で店自体も閉まっていたので屋敷に足を向けてくれたのだ。その途中、森の中を歩いていると争たような痕跡があった場所を発見した。魔力が使われた気配も感じたが、すべてが終わった後だったので、その場は通り過ぎてここまで来たという。
「エリクス」
ティアナがどう説明しようかと悩んでいると、後ろからクロードがやってきて声をかけた。
「クロード、久しぶりだな。魔法の方は順調か?」
「その話はあとにする。話したいことがあるから中に入ってくれ」
クロードが促すと、エリクスはティアナを見た。入るべきかどうか視線だけで確認される。それを頷いて了承すると、クロードに促されるようにリビングへと向かった。
「エリクス君。久しぶりだね」
「お久しぶりです。ログ様もお元気そうで何よりです」
リビングに戻ると、エリクスはログと挨拶を交わしていた。ティアナがログの隣に座り、その向かいにエリクスが座ることになった。キースとクロードは壁際に立って待機する形になる。
「さっそくだけど、ちょっと厄介ごとが起きてね。できれば相談に乗ってもらおうとここに呼んだんだよ」
ログはそう言って、隣国の王子からティアナに縁談が舞い込んだところから順に話始めた。途中怪しい気配を感じたところや、今日の襲撃に関してはティアナとクロードが自分たちの見たものを説明し聞かせた。縁談の話はエリクスの耳にも届いていたので特に反応はなかったが、襲撃を受けたことに関しては、話を聞いているうちにだんだんと表情が険しくなっていった。
「まだ、今回の縁談と襲撃が関係していると、はっきりした証拠はないけど、これだけ重なると関係性を疑うしかないわ」
ティアナがそう締めくくると、エリクスは出されたお茶をひと口飲んで、隣の置いていた袋と、懐から2通の手紙を取り出してティアナに差し出した。
「こっちは魔石が入っている。こっちの手紙は師匠から。もう1通は王子殿下からだ」
2通の手紙にはそれぞれ王子と7賢者リーンが使用している封蝋が押してあった。
「殿下から?」
「中を読んでみろ」
こんな時になぜ王子殿下からなのか、首を傾げると読むように促された。
その場で手紙を開封し読み進める。
「これって・・・」
書いてあった内容に驚きながらエリクスを見ると、彼は口元に笑みを浮かべた。
「師匠からの手紙も似たような内容だ。今回の縁談話を耳にした2人が色々と調査に乗り出していた」
ティアナは横にいるログに手紙を渡した。ログも内容を読むと驚いた顔をする。
「ティアナ嬢の縁談には裏があるということですね」
縁談話が持ち上がると、すぐに王子とリーンの所にもその話が届いた。隣国の王族のことなので情報は早く届いたらしい。そこにティアナが絡んでいること。このまま結婚すれば国を出ることになることを知って最初に動いたのはリーンだった。すぐに国王にティアナが隣国に嫁がなくていい方法を相談しに行ったようだ。そのあとすぐ、リンド王子がやってきて、同じようにティアナが今回の縁談に巻き込まれない方法を模索し始めた。
すぐに隣国の王子の調査が行われ、そこでいろいろな情報を手に入れたらしい。その情報をもとに、ティアナが今回の縁談を断れるように動いてくれていた。
王子殿下の手紙には、自分との婚約破棄をきっかけに、ティアナが穏やかな生活をできていないことを謝罪するところから始まっていた。2人が婚約破棄したとき、ティアナは王子に条件を出していた。婚約破棄後の後始末はすべて王子がすること。王都を離れるティアナが静かに暮らせるようにすること。魔封石士として新しい人生を歩もうと決めた時の条件だった。しかし、2か月前にどうすることもできない事態になった王子から、助けてほしい旨の手紙が届き、ティアナは仕方なく王都に戻った。今回のことも、婚約破棄から発生した事案になると考え、王子自ら動くことにしたらしい。
第3王子とその周辺の情報も手紙には書かれていた。内容を読むと、今回の襲撃が関係していると確信できる情報だった。
もう1通のリーンからの手紙も読んでみたが、同じように隣国の情報が書かれていた。こちらには他にも新しい魔石に関しての内容も書かれていたが、これは後でゆっくり確認してもいいだろう。
「ただ、今は情報だけで証拠は何もない。縁談を断るためにも、はっきりとした証拠を確保したほうがいいだろう」
「そうね。これだけじゃ、王子に黙って国に帰ってもらうのは難しいと思うわ」
集められた情報からいろいろ繋がるものはあるが、はっきり提示できる証拠がない。引き続き王子も情報収集に努めるようだが、あまり時間がない。
「このことは一度戻って殿下と師匠に伝えておく。それまではティアナはここから動かない方がいいだろう」
森に囲まれた屋敷は精霊の保護下にある。襲撃者たちはティアナが屋敷に逃げ込んだと予想してここに来る可能性もあったが、おそらく精霊がそれを阻んでくれているだろう。今のところ怪しい気配も攻撃を受けた様子もない。
「お店は・・・しばらく休みになるわね」
せっかく再開できたのに再び休業になってしまった。増えてきたお客が離れていくだろうことを残念に思いながらも、ティアナはエリクスの指示に従うことにした。
「今日は疲れただろう。昼食を準備するから、そのあとはゆっくり休みなさい」
昼はとっくに過ぎてしまっていたが、いろいろなことが起こりすぎてすっかり忘れていた。ログの言葉に頷いて、今はゆっくり休むことにした。




