縁談の手紙
魔法の練習は夕食の時間が近くなってきた頃に、キースが庭に出てきて知らせてくれるまで続いた。
結局2つ同時の魔法は、思っていた以上に進まなかった。
2種類の属性魔法を生み出すことはできるようになったが、片方の魔力を注視すると、もう片方の魔法が安定せずに消えてしまう。まだ不安定な状態の魔法しかできなかった。
「両方に同じだけの魔力を注いで安定させるようになれば合格よ」
少ない魔力で小さな魔法を使っているのだが、同じだけの魔力を注ぐというのが難しい。
「練習するしか方法がないわね」
今日の様子を見ていたティアナの感想はそれだった。
これからの新しい課題ができたことで、クロードは失敗続きでもやる気だけはあった。
今まで魔法を使うこと自体諦めていたのが、彼女のおかげで特殊ではあるが魔法を使うことができるようになった。それを考えると、ここで落ち込んでも仕方がない。
キースと護衛を交代できる体制なので、空き時間に訓練をしようと決めた。
夕食の時間になるということで2人はすぐに屋敷に戻った。
「クロード」
屋敷に入ったところで、待っていたキースに声をかけられた。
一瞬2人を見たティアナだったが、何も言わずにキッチンへと向かった。どうやらシャイヤの手伝いをしに行ったようだ。
「なんだ?」
ティアナの姿が見えなくなってからキースに向き直ると、彼はしばらく視線を彷徨わせてから口を開いた。
「今日の勝負で君が護衛に就くことは認める。だが、私はその中途半端な魔法の使い方で、同じ魔法騎士としては認められない」
ティアナに宥められてしぶしぶ認めてくれていたが、やはり認められない部分はあったらしい。
クロードも自分の魔法の実力は理解している。このままでは他の魔法騎士にさえ認めてもらえない可能性は高い。
「わかった」
それだけ言うと、クロードはダイニングへと足を向けた。
そこにはすでに料理が並べられていて、後は全員が座るだけになっていた。だが、その席に座ることなく、ティアナが複雑な表情を浮かべて立っていた。食事が全部用意されていたことで、こちらに移動してきていたようだ。その手には手紙が広げられていた。
「どうした?」
声をかけると、渋い表情でこちらを振り返った。
「さっき届いたお兄様からの手紙。ログ様が早い方がいいだろうって、今渡されたの」
すでに席についているログを見れば、大きく頷いた。
食事を済ませてからゆっくり読める内容なら、今渡す必要はなかったが、おそらく内容は隣国の王子との縁談だろう。それを考えてログもすぐに渡してくれたようだ。
「日程が決まったのか?」
問いかけると、彼女は複雑な表情のまま頷いた。
「1か月後に。その前にはお屋敷に戻らないと」
1か月後、隣国の第3王子がやってくることになった。場所はフロース家。
半年後にこの国の王子の結婚式が行われる。そこに隣国の王族も数名参加することになったが、その中に第3王子もいるらしい。その結婚式の前にブロファリトにやってきて、ティアナとの顔合わせをしたいと考えたようだ。
本来なら王族は城で受け入れるべきだが、王子はフロース家で顔を合わせたいと言ってきたらしい。
順調に決まれば、結婚式の前にティアナを正式な婚約者にしたい考えのようだ。レインの手紙にはそこまで書いてあった。
表情が曇っていくティアナにクロードは何か声を掛けたかったが、何を言えばいいのかわからず黙っていることしかできなかった。
「さて、まずは食事を済ませてしまおうか。今後のことはそのあと考えるとしよう」
重くなっていく空気を追い払うようにログが声を掛けてきた。
「そうですね」
気を取り直したティアナが椅子に座る。何も言えなかったクロードも無言で座った。
後からやって来たキースも与えられた席に座ると食事は始まった。
時折見せるティアナの寂しそうな横顔を気にしながら、クロードはこれから先どうなっていくのか、見えない不安と苦しい気持ちを心の奥にしまい込んで、できるだけ表情を変えることなく食事をしていった。




