勝負
「大丈夫なの?キースは国の魔法騎士ではないけど、フロース家で雇っているお兄様付きの魔法騎士よ。腕は確かなのよ」
ティアナが物心つく頃に、キースは兄の魔法騎士として護衛をしていた。いつも真面目で剣の修業も魔法の訓練も欠かすことなくやっていたことを知っている。そのおかげで国の魔法騎士に引けを取らない実力を持っている。
クロードの実力も知ってはいるが、彼は特殊な魔法の使い方をする。2人が真剣勝負をするとなれば、圧倒的に不利になるはず。
「ここで認められないと、この先も敵視されたまま護衛をすることになる」
「それはそれで困るけど」
気まずい空気で数日を過ごすのはあまり好ましくない。
「実力を示せればそれでいい」
クロードは簡単に言うが、かなり難しいだろう。
「見ているなら、なるべく屋敷の近くにいたほうがいい」
建物を壊すわけにはいかないので、避けて戦うつもりでいるようだ。
ティアナが移動すると、2人は庭の中央で剣を抜いた。訓練の場合は刃を潰した模擬剣を使うのだが、ここにはそんなものはないので、お互い真剣だ。それが余計にティアナの不安を募らせる。
クロードが認められて、2人の関係が穏やかになってくれるのが1番いいのだが、そのために怪我をしてほしくない。何よりこの勝負の原因はティアナの護衛をすることが始まりのようなものだ。
不安な気持ちで2人を見ていると、互いに剣を構えた。それを合図に急に戦闘は始まった。
キースが飛び出し振り下ろした剣をクロードが受け流す。切り返しで横に払われた剣先をクロードが後方に跳んで避けると、キースがすかさず左手をかざした。
「炎よ」
短い声に反応するように炎の塊が出現し、クロードに向かって飛んでいく。
迫る炎にクロードは小さく何かを言ったが、ティアナのいる場所までは聞こえなかった。それでも、彼が何をしようとしているのかわかる。
炎が目の前に迫ると、彼の剣が縦に斬り降ろされる。すると、炎が左右に別れ消えていく。
それを見たキースが驚きで目を見開いたが、それも一瞬のこと。すぐに新しい炎を生み出すとクロードに向かって放った。
だが、クロードは何の躊躇いもなく前に走り、近づいてきた炎をすべて斬り捨てていった。すべての炎が切り落とされた時には、キースの目の前まで来ていた。
横に払われるクロードの剣を、キースが受け止める。
「わっ」
それと同時にキースが声を上げ大きく後方に跳んだ。
それを逃さないようにクロードがさらに迫る。キースが咄嗟に剣を振るったが、次の瞬間には剣が空中に飛び、弧を描いて地面に突き刺さった。残ったのは武器を失ったキースと、その喉元に剣先を突き付けたクロードだった。
「続けるか?」
静かな問いかけに、悔しそうな表情をしながらもキースは降参を示した。
クロードが剣を退くのを確認して、勝負がついたことにほっとしたティアナは2人のもとに駆け寄った。
「これで認めるだろう」
クロードの確認に、まだ納得していないのか複雑な表情を見せるキース。
「キース」
ティアナが嗜めるように名前を呼ぶと、彼はしぶしぶ頷いた。
「これ以降の争いごとはなしよ」
2人ともティアナの護衛だ。どちらにも怪我はしてほしくない。確認するように言うと、2人とも了承してくれた。
「それじゃ、クロードは魔法訓練をやり直しましょう」
ぱんと手を叩いて気持ちを切り替えると、当初の予定だったクロードの魔法の練習を再開することにした。
「私は少し休んできます」
キースはそう言って屋敷に戻っていく。その後ろ姿が寂しそうに見えたのは気のせいではなかったかもしれない。
「そういえばさっき、何をしたの?」
キースが屋敷の中に消えたのを確認してから、クロードに向き直った。
先ほどの戦闘で、クロードと剣を交えた瞬間、キースが声を上げて飛び退いた。ティアナにはわからなかったが、2人の間で何かが起こったのだろう。
「炎を斬るために風の魔法を使った。そのままで剣を重ねたら、相手にそのまま風の威力が伸し掛かったようだ」
炎の球を斬っていたクロードは、剣に風の魔法をかけていた。その風の剣とキースの普通の剣が交わった瞬間に、突風となってキースに押し寄せたそうだ。遠くから見るとわからなかったが、キースには相当な風が迫ったのだろう。
クロードも初めてやったことなので、どんなふうになるのかわからなかったらしい。
「クロードの場合は、触れ合うことで魔法を放った時と同じだけの威力を相手に与えられるのかもしれないわ」
こんな魔法騎士は他にいないので、すべてが手探りだ。
もっと強い魔法を使えるようになれば、より強力にダメージを与えることも可能になるかもしれない。
「今は少しずつ使える力を強くしていきましょう。繊細な魔力操作ができるようになれば、魔法を放つこともできるようになるかもしれないし」
それを目標に、今は練習を重ねていくしかない。
「それじゃ、2つ同時に魔法を使ってみましょう」
練習時間は限られている。気を取り直して声をかけると、クロードもやる気を示すように力強く頷いてくれた。




