キース=ランダー
キースがやってきてからの3日間、クロードは居心地の悪い日々を過ごしていた。
彼は到着した次の日からティアナのそばにいるようになったが、クロードはそれを特に気にしていなかった。それが彼の任務なのだから特段気にする必要もなかったのだ。
だが、そんな彼の視線がいつもクロードに注がれていることが気になっていた。しかも睨むような鋭い視線だ。
何かしたわけではないが、彼はクロードを嫌っているような気がする。
気になって声をかけようとすると、視線が逃げていく。それの繰り返しだ。
はっきり言ってうんざりしている。
「クロード?」
名前を呼ばれて顔を上げた。今日は店が休みだったので、ティアナと庭で魔法の特訓をすることになっていた。護衛をするようになって練習ができていなかったので、久しぶりに魔法の精度をティアナが見てみたいということになったのだ。
相変わらず体から魔法が離せないクロードだが、ティアナから見れば何か変化が起きているのかもしれない。そんな期待をしながら庭に出てきた。
なぜかキースも外に出てきて、その視線はクロードに突き刺さっている。それを敢えて無視してティアナと向かい合った。
「じゃあ、お願い」
頷いたクロードは手のひらに光の球を出現させる。
「離してみて」
言われるがまま光球を浮かせようとするが、手から離れた瞬間、空気に溶け込むように消えてしまった。
「変わりないわね」
光球が消えた空間を見つめながらティアナが感想を漏らす。
「他の属性も一緒?」
今クロードが扱えるのは光以外に水と風の魔法も制御できる。
「どれを使っても結果は一緒だ」
水の球や風の渦を手のひらに乗せることはできるが、離れた瞬間消えてしまう。
「それじゃ、今日は別の方法を試しましょう」
ぱんと手を叩いて気持ちを切り替えるようにティアナが声を上げた。
「2つ同時に別々の魔法は使えないかしら」
「2つ同時?」
「光球と一緒に水の球を出せる?それができれば、明かりを確保したまま、違う魔法も使えるようになるし」
「・・・やったことなかったな」
ティアナに言われて初めてそのことに気がついた。
今までは魔法を生み出して制御することばかりで、その魔法を放つ方法を模索していた。別の魔法を同時に使うことなど考えていなかった。
「いろいろな方面から訓練すれば、魔法を放つ方法もわかるかもしれないでしょう。ほかの属性も試したいけど、まだ魔石が届いてないから」
王都に行った時にクロード用の魔石も買う予定ではあったが、ちょうどよい物が見つからなかった。そこでティアナは、7賢者リーンに新しい魔石を用意できないかと手紙を出していた。その返事はまだ来ていないが、おそらく今用意をしているところだと思っている。
「新しい魔封石が出来上がったら、その時はそれを試すとして、今は別属性同士を同時に使えるか試しましょう」
魔封石自体も混合石なので、同時に魔法を使える仕組みになっているようだ。魔方陣を魔石に描くときに、他の属性魔法と反発しないように工夫してある。これをするには安定的かつ細やかな魔力操作が必要になるらしい。
クロードは知らないが、密かにリーンのところで修行していた時、彼女は混合石の扱い方も教わっていたし、何個か作ってみたことがあった。
魔封石自体に問題はないので、後はクロードが上手く使いこなせるかどうかだ。
「光よ」
さっそく右手に光球を生み出す。
「左に水の球を作ってみて」
ティアナの指示でクロードが左手をかざす。
「水よ」
すると、左手に乗るように水の球が生まれた。が、すぐに壊れて左手を濡らす。それと同時に右手の光球も消滅した。
「まだ2つ同時の魔力操作が安定していないのね」
2つの魔法を同時に生み出すことができたことにはティアナも感心していた。だが、片方の魔力を安定させると、もう片方の意識が削がれて不安定になってしまい、結局両方を保てなくなった。今は水の球が壊れたことでバランスを崩した魔力が光の球も壊してしまった。
「訓練すれば同時魔法もできるようになりそうね」
今の一瞬ですべてを判断できないが、おおよその予測はできたらしいティアナが前向きな言葉を言う。
「これができるようになれば、魔法を放つことも可能なのか?」
「そこまではわからないけど、試してみる価値はあると思うわ。それに複数同時に使えるようになった方が、きっと便利になるわよ」
自分の両手を見つめながら呟くクロードに、ティアナは明るい声で返した。クロードの魔法がどの方向に向いていくのかわからないが、少しずつ前に進んでいると思いたい。
「それじゃ、もう一度やってみましょう」
「お嬢様」
ここからは訓練あるのみと思っていると、急にティアナの後ろから声をかけられた。
視線を向けるとキースが近くまで来ていて、その顔は渋い表情だ。
「キース?」
「魔法騎士だと聞いていましたが、ここまで魔法が使えないとは。どこに破壊騎士の噂がついてきたんでしょう」
ティアナが首を傾げて問いかけると、キースはクロードを睨むようにして率直な感想を漏らしてきた。魔力暴走によって周りを破壊したことでついた破壊騎士の名。クロード自身が欲しがった名ではないが、その名から威力の強い魔法が使えると思われていたようだ。
実際のクロードは、魔力を暴走させないように訓練をして、初歩の魔法からゆっくりと進んでいる。すでに国の魔法騎士として所属していたので、キースはどこか期待をしていたのかもしれない。
「クロードは魔力の制御が上手くできなくて、魔力を暴走させたのよ。魔力量は多いから、訓練さえ積めば、もっと強い魔法も使えるようになるわ」
急に強い魔法を使っても、制御することができずに暴走させる恐れがある。魔封石の力も借りて制御しているが、将来的には自分の力だけで魔法を使いこなせるようにならなければいけない。
ティアナの説明に、キースは納得がいかない様子だった。
「こんな初歩的な魔法で躓いているのに、国の魔法騎士だなんて。恥でしかないと思います」
「キース・・・」
敵意を向けるようにキースが吐き捨てたことに、ティアナは驚いて固まった。
クロードはそんな2人を静かに見守ることにした。
「そんな言い方」
「はっきりさせておくべきではありませんか。こんな騎士がいることは、他の魔法騎士にとっても良くない。私が国の魔法騎士ならば、彼を魔法騎士として認めることはできません」
ここ数日の鋭い視線の意味がようやく理解できた。
彼はクロードを魔法騎士として認めていなかった。それなのに魔法騎士としてティアナの護衛をしていることが気に入らなかったのだろう。
「・・・わかった」
そう言ってクロードは前に進んで、キースの正面に立つと1つの提案をした。
「そんなに言うなら、俺の実力をあなた自身で見極めるといい」
原因がわかれば対処のしようもある。クロードを認めないのであれば、今の彼の実力を知ってもらうのが一番早いだろう。
「クロード」
心配するティアナに頷いて、クロードはもう一度言った。
「この場で勝負しよう」
「・・・わかった」
彼の提案にキースは鋭い視線を向けたまま了承した。




