余談2
「弟子を取ることにした」
「は?」
突然の発言にエリクスは呆然とするしかなかった。
「師匠。7賢者の弟子は1人しか認められていませんよ。私は師匠の弟子ではなかったのですか?」
「僕の弟子はエリクスだよ」
確認を取ると、あっさり認められた。
「ですが、今弟子を取ると」
「うん、言った」
頭が痛くなりそうだ。
「一体、何がどうなっているのか説明してもらえるんでしょうね」
「もちろん。弟子を取ると言ったけど、正式な弟子ではないよ」
余計に混乱する。
「数日前に、魔力操作に長けた少女と会ったんだ」
師匠のリーンは、数日前に温室で出会った少女の話をし始めた。彼女の能力を放っておくにはあまりにももったいないと考えたリーンは、内緒で彼女を自分の弟子として魔封石作りの修業をさせようとしている。
「本来なら7賢者の中に魔封石士がいればよかったんだけど、魔法に関しての7賢者は私しかいないから、彼女の能力を開花させるにはこっそり弟子にするのが一番いい方法だった」
「他の魔術師や魔封石士では駄目なのですか?」
話を聞いただけでは、その少女がどこまでの力を持っているのかわからないが、わざわざリーンが教える必要があるのだろうか。
「彼女の立場上、他の魔術師に預けることができないからね」
そこでエリクスは温室で会った少女が、この国の第1王子の婚約者に決まった相手だと知らされた。
「結婚してしまえば、妃殿下になるから魔封石作りはできなくなるだろうね。だから、婚約者でまだ身動きの取れる今の期間だけ、魔封石士として勉強させてあげたい」
妃になれば、自由になる時間はほとんどないだろう。自分のために使う時間がなければ、魔封石を作ることはできなくなる。魔封石士になりたい夢を諦める少女のわずかな時間を、リーンは好きなことをするために使わせてあげたいと思っているようだ。
「それにやっぱりもったいない。あれだけの能力があるなら、いつか魔封石を作れる環境を整えてあげたいとも考えているよ」
温室で会ったときは1つの魔封石を見せてもらったが、その魔封石の出来がとてもよかったらしい。
「今度紹介するから、仲良くやってね」
軽い言葉にエリクスはどう返事をしたらいいのかわからず、とりあえず頷いておいた。
それから数日後、リーンは宣言通りにティアナを連れてきた。
「初めまして。ティアナ=フロースです」
「リーン=ラナスターの弟子で、エリクス=ブロディーナだ」
「少しの間ですけど、よろしくお願いします」
ティアナはエリクスに対して頭を下げてきた。自分よりも年下に見えた少女は、3年後に王子と結婚すれば妃殿下として上の立場になる。もっと堂々としていればいいのにと、その時は思ってしまった。
「基本的なことは魔法学園で習っているから、ここでは応用的なことを教えていくよ。僕が教えられないときはエリクスに聞くといい」
「わかりました」
数年間の兄妹弟子になったが、ティアナは基本的に妃教育に時間を取られて、顔を合わせるのは僅かな時間だけだった。それでも、彼女は魔法や魔封石に関してまっすぐに教えを乞うてきた。
そんな彼女だから、エリクスも妹のように接していたし、ティアナも懐いてくれていたと思う。
「そういえば、師匠に出会ったときに見せた魔封石はどんな物だったんだ?」
「気配を消せる魔封石よ。誰の邪魔も入らないで、自由な時間が使えたらいいなと思って作ってみたの」
「それ、師匠が欲しいと言ってなかったか?」
「後で同じ物を作ってほしいとは言われているけど」
「絶対に作らなくていい!そんなのがあったら、いつでも師匠が姿を消しかねない」
「そんな大げさじゃない?」
打ち解けた会話ができるようになるのに、そんなに時間はかからなかった。
その関係があと1年で終わる頃、突然ティアナは王子殿下に婚約破棄され、王都を出ていくことになるとは、その時のエリクスは夢にも思っていなかった。そして、魔封石士となったティアナとの付き合いが始まっていくことも考えていなかった。




