新しい使命
後日、ティアナを襲った生き残りの騎士を問い詰めると、とある伯爵家の名が浮上した。
伯爵はティアナが婚約者だった頃、フロース家に取り入って城の中での上の役職を目指していたらしいが、ティアナが婚約破棄されたことで、その目論見が消えてしまった。
その後ルナリアが婚約者になったが、ベルメシャ伯爵との接点がなかったため、ルナリアを蹴落としてもう一度ティアナに婚約者になってほしいと画策していたらしい。
ルナリアが引きこもるようになったのをチャンスととらえ、ティアナを探し出して連れてくる予定が失敗した。
それどころか、パーティーに姿を見せたティアナは王子殿下とルナリアの仲を応援する立場を示し、伯爵は別の方法を取ることにした。
それがティアナとルナリア2人を消し去り、伯爵に近しい新しい婚約者を立てることだった。
ものすごく安易な考えではあったが、それだけ伯爵も追い込まれていたのだろう。
だが、それも失敗に終わり捕まった騎士から伯爵の名が出たことで、あっさり捕まることになった。
「処分は今後下されるが、とりあえずは今回の襲撃事件は解決した」
犯人が捕まったことを報告するために、エリクスがフォーンに来たのはつい先ほどで、ログの屋敷でティータイムを楽しんでいた時間だった。
城でのパーティーから帰ったティアナは、次の日にはフォーンに戻ってきていた。あまり屋敷にとどまると家族が色々な手を使ってティアナを屋敷に居させようとすることを予想して、すぐにこちらに帰ってきた。
フォーンに戻るなり店も再開し、今日は休日だったのでログの屋敷に来ていたところを、エリクスが尋ねてきた。ログと一緒に報告を聞いていた。
「これで王子殿下の婚約者騒動は幕引きだろう」
襲撃にはルナリアも巻き込まれてしまったが、あの騒動はパーティー会場にいた他の貴族に気づかれることなく、駆け付けた王子とリーンによって片付けられた。
パーティー参加者たちは、ティアナと王子殿下が円満に婚約解消したことと、ルナリアの味方にティアナが付いたことを確認した。これで今後ルナリアに対する周りの態度は、将来の妃殿下としての立場で対応していくだろう。
「ところで、クロードの方はどうなっている?」
パーティーの話が終わると、エリクスはこの場に同席しているもう一人を見た。
今回の騒動にはクロードも協力してくれたので、事の顛末を聞きたいだろうと、ログが同席を許していた。ログの後ろで黙って話を聞いていたクロードは、何も言わずにティアナに視線を向ける。
光の魔封石が壊れて、一度魔力を封じていた。
「新しい魔封石を渡したから、また魔法修行を再開したわ」
新しい魔封石さえあれば、クロードの魔法はまた使えるようになる。
ティアナはフォーンに戻ってきて、すぐにクロードの魔封石を作り始めた。
「今は他属性の魔法も使えるような混合魔封石にしてみたの」
最後に手元に残っていた透明な魔石は、中に描かれる魔方陣の属性によって適応できる特殊な魔石だ。どの属性にも所属していない分、いくつかの属性を混ぜることができる。
クロードには、光属性の魔封石を渡していたが、今回は他の属性魔法の練習も兼ねて、混合魔封石を作ってみた。
フォーンに戻ってきて数日の間に作ったが、完成したのは昨日。
今日の午前中はその石を使って新しい魔法の練習をしてみた。
相変わらず体から離れると魔法が効力を失うのは同じだが、剣にまとわせる魔法は種類が増えたし、前の魔封石より強化してあるので、簡単には壊れないはずだ。
クロードの魔力はティアナよりずっと多いので、今回の魔封石も彼の力に耐えられなくなる可能性はあるが、その前にさらに強い魔封石を作ることになるだろう。
そのことを考えると、クロードとはまだしばらくの付き合いになる。
「新しい魔封石で魔法が使えるようになったら、また王都に行く予定よ。今度こそ騎士団長に会わないと」
パーティーの後に騎士団長と面会して、クロードの魔法騎士としての実力を見てもらう予定だったが、魔封石が壊れたことでそれが叶わなかった。新しい魔封石に馴染んだら、今度こそ騎士団長に会いに行く。
そこで認めてもらえれば、クロードも城で騎士として働くことができるだろう。
「そのことなんだが」
エリクスが急に口ごもる。
「どうかしたの?」
「今回のクロードの働きは騎士団長にも伝えた。それに殿下の方から陛下にも伝わっている」
今回の騒動は国王にも報告がされている。
王子殿下の元婚約者であるティアナが狙われたことは知っていたが、妃殿下になるルナリアも巻き込まれたことに国王は衝撃を受けたようだった。
「ベルメシャ伯爵令嬢は、今後城で生活を続けていくから、危険な目に合うことはない。それよりも陛下が気にしているのはティアナの方だ」
「私?」
国王陛下には、王子殿下の婚約者時代に何度か会っている。将来の義娘として可愛がってもらった記憶の方が多い。だが、婚約破棄になってすぐに王都を離れ、自分はすでに過去の人間として一切王城に関わることをしなかった。陛下もそのことは気づいているだろうし、パーティーの時に簡単な挨拶はしたが、特に気になることはなかった。
気遣ってもらうようなことが思い至らず首を傾げると、エリクスがため息をついた。
「殿下とは円満に婚約解消している。陛下としては良好な関係を気づいたままのティアナは今でも娘のように思っているんだろう。だから、今回の騒動で危ない目に合ったことを心配しているんだ」
「あぁ、なるほど」
危ない目にはあったが、クロードやエリクスの助けもあって無事だったので、そこまで気にしていなかった。表情にそれが出たのだろう。エリクスが呆れた視線を送ってきた。
視線が合うと、彼は1つ咳払いをして気を取り直した。
「そこで、ログ=フォームトンとクロード=アイリッシュに王命が下った」
その言葉を受けて名前を呼ばれた2人が視線を正す。
エリクスは立ち上がると、持ってきていた書面を2人に見えるように渡した。
「本日より、ログ=フォームトンにはティアナの保護のため屋敷の提供をしてもらいます。クロード=アイリッシュには魔法騎士としてティアナの護衛の任についてもらう」
「承知しました」
2人が応じると、ティアナは書面を見せてもらった。
「私の意見はないの?」
「王命だ。それに、このことは師匠も賛成している」
国王だけではなく、7賢者のリーンまでティアナの安全を考えての提案をしていたようだ。
書面を読む限り、今後ティアナの護衛にクロードが付くこと。生活拠点をログの屋敷にして、不自由のない生活を提供することが書かれている。ここにはティアナの生活に関する意見を反映してくれたものはない。
魔封石士として実績を積みながら、1人で静かに生活していくことを考えていたティアナからすると、予定外のことになる。
魔封石士をやめるように書いてあるわけではないので、このまま続けることは問題ないようだ。
今回の騒動でティアナの役目は終わったのだから、これ以上厄介ごとはないと思うが、国王からすれば、貴族令嬢が1人で小さな町に住んでいることが心配なのだろう。
「私がここで文句を言っても変わらないのでしょう」
エリクスが苦笑しながら頷く。
「わかりました。この屋敷でお世話になります」
ため息をつきながら了承すると、エリクスはすぐに王都に帰っていった。
「もうしばらくここで生活することになりましたね」
ログと並んで玄関で見送りをしていると、彼はどこか楽しそうに言ってきた。
「もう一人娘ができたようで、楽しみが増えたよ」
「迷惑をかけてしまってすみません。そう言ってもらえることがありがたいです」
「寝泊りがこちらになるのなら、もう少し荷物を持ってくる必要があるでしょう。クロードを使うといい」
「わかりました」
屋敷の中に戻っていくログを見送ってから、ティアナは庭へと足を向けた。
そこにはクロードが新しい魔封石を持って魔力制御に意識を集中している最中だった。
僅かな水の波動を感じ、今は水属性の制御をしているようだ。
魔法属性は人それぞれで得意とする属性が違ってくる。誰もが一番相性の良い属性を探してそれを強くしようとするのだが、クロードの場合、光属性と一番相性が良いが、それ以外の属性も決して悪いわけではない。そのため、すべての属性に対応できるように訓練することにしたのだ。
そうなると、すべての属性に対応した魔封石をティアナが作らなければいけない。それは簡単なことではない。今渡している魔封石も光と水と風の属性に対応させている。
午前中に風魔法を使ってみたが、今は水魔法を試したようだ。
水魔法も安定した魔力がクロードを包み込んでいる。
後は体から離れても魔力が安定してくれればいいのだが、今はまだ無理だろう。
ティアナの視線に気が付いて、クロードが水魔法をやめるとこちらを向いた。
「帰ったのか」
「ええ、何事もなければ、しばらくは来ないつもりみたい」
今回の騒動の決着がついたのだから、エリクスが来る用事がない。しばらくは落ち着いた生活が戻ってくるだろう。
「騎士団長との面会もしばらく先になりそうね」
魔法騎士として実力を見せるつもりでいたが延期になってしまった。次に面会できる時が来たら、もっと魔法を磨いた姿を見てもらえるように修業あるのみだ。そのためにはティアナの魔封石作りも力を入れなければ。
「その間は、ティアナの護衛の任務が増えたがな」
「ふふ、この先穏やかな生活しかないと思うけど、よろしくお願いします」
いつの間にかクロードはティアナを名前で呼ぶようになった。それは貴族令嬢ではなく。1人の魔封石士として扱ってくれていることだと思っているので嬉しいことでもある。
「クロード」
彼のそばまで歩いていき名前を呼べば、しっかりと視線を合わせてくれる。
「改めて、これからもよろしく」
護衛する者、される者ではあるが、魔法騎士と魔封石士としても新しい日々が待っているだろう。
手を差し出せば、すぐに手を握り返してくれた。
「こちらこそ」
穏やかな顔で彼が返してくれた。




