魔力制御
自分の中で暴れまわる魔力を抑える方法がわからず混乱するクロードだが、今までのようにただ流される自分ではなかった。
ティアナがずっと教えてくれていた魔力の流れをコントロールする方法で、何とか体内から溢れる力を地面に流すように試みる。
すべてを魔力に集中しているため、体を動かすこともできず、剣を地面に突き刺して体を何とか支える。
魔封石が効力を失ったことに気づいたのは、胸元で小さな音がしてから数秒のことだった。自分の中で順調に流れていた魔力が急におかしくなったことに気が付くと、途端に暴走を始めてしまった。
声を出すこともできず必死に魔力を流していくが、今まで魔封石の力を借りてやって来たことをいきなり自分一人でこなすのには無理があった。
やがて体中を魔力が暴れまわり始め、周りがクロードの異変に気が付いた。それでもクロードは動くことができず、暴れる魔力を制御しようと必死になっていた。
ティアナとエリクスが何か話しているのはわかったが、声を聞き取る余裕はない。
魔力は膨れ上がる一方で、このままでは魔力が爆発して、周りに大きな被害が出ることになる。それだけは何とかしたかった。魔力が暴れた結果をクロードは何度も見てきた。破壊された建物に、多くの怪我人。その原因を作った自分。
絶望にも似た感情を味わいたくなくて、魔力を完全に封じて一生ただの騎士として生きていくのだと思っていた。
そこに手を差し出したのがティアナだった。彼女のおかげで数か月の間に魔力を安定させることができるようになったし、少し変わった方法だが魔法も使えるようになった。確実に魔法を使う喜びを少しずつ知れるようになったのだ。
「クロード!」
ティアナの叫びが聞こえたが、返事をすることも振り返ることもできず耐えることしかできない。
そんな中で、ひときわ大きく魔力の波動が体を跳ねさせた。自分では制御できない魔力が光の球となって外に放出される。それがすぐ近くまで迫ってきていたティアナめがけて放たれたことに気が付くことができなかった。その球がすべて防がれたことにも。
突然背中に衝撃が来たかと思えば、体を駆け巡っていた魔力がぷつりと切れた。
耐えていた体が急に軽くなったことで、背中を押されるままにクロードは地面に倒れこんだ。
背中に感じる重みが何なのか確かめるよりも、急に呼吸が楽になったことにクロードはほっとして、そのまましばらく起き上がれなかった。
「クロード」
重みが消えて、確かめるような声に小さく返事をすると、左手に何かを握らされた。
確認すると黒い魔封石だった。それはクロードの魔力を封じるために作られたクロード専用の魔封石だ。
もしもの時を考えてティアナが持っていてくれていることは知っていた。それを使って暴走を止めてくれたようだ。
ほっとすると、どっと疲れが体に伸し掛かるのを感じたが、それを許してくれる人はここにはいなかった。
「寝ている暇はないよ」
その声に顔を上げると、黒いローブを纏った男がこちらを見下ろしていた。
「あなたは」
「久しぶりだね。魔力が安定したと報告が上がっていたから、会うのを楽しみにしていたんだが残念。これじゃ、まだ王都に戻ってこられないね」
「リーン師匠、彼はまだ魔力操作が完全ではありません。そんなすぐには魔法騎士として登城はできませんよ」
クロードの様子を伺うようにしゃがみ込んでいたティアナが呆れたように反論すると、7賢者リーン=ラナスターは肩をすくめてその場を離れた。
「もう起きられるかしら」
リーンがエリクスの所へ行くのを確認してからティアナが手を差し出してきた。
「大丈夫だ」
自分で起き上がると、ティアナは少しの間クロードを観察するように見ていた。
「特に異常はない?」
「疲れはあるが、問題ない」
「それじゃ、魔封石を見せて」
そう言ってクロードの胸元をトントンと指で叩いた。首から下げているペンダント型の魔封石の様子を確認したいのだ。
ペンダントを取り出してみると、白い魔封石は大きなヒビが入っていた。
「魔方陣が消えているわね」
クロードの魔力が魔封石の制御を上回ったため、耐え切れなくなって壊れてしまった。
「もう使えないのか?」
「小さく形を変えれば、別の用途として利用は可能よ」
力を失っても、もう一度別の魔方陣を描いて加工すれば光の魔封石として使うことはできる。
「クロードには新しい魔封石が必要ね」
今回の戦闘で壊れてしまったことを考えれば、もっと強い魔封石が必要になる。
「材料はあるから、フォーンに帰ったらもっと強い物を作ってみるわ」
伯爵令嬢ではなく、魔封石士としての顔で、生き生きとティアナが言った。
「ルナ!」
次にどんな魔封石を作ろうかと考えているティアナに声をかけ損ねていると、別の方向から慌てた声がかかってきた。
そちらを見てみると、王子殿下が数人の護衛兵を伴ってルナリアのところまで走ってきていた。
「リンド」
婚約者の姿を見たことでほっとしたようにルナリアが呟くと、殿下は駆け寄ってきてルナリアを抱きしめた。
「あらまぁ」
そんな2人をティアナは驚いたような嬉しそうな顔で見ていた。
「ティアナを追いかけていって、なかなか戻らないと思ったら、急にラナスターが中庭で魔力を感じると言い出したから、心配になって来てみれば」
そう言って殿下が辺りを見渡す。
草花でできた垣根はクロードの魔力の波に押されてあちこち歪んでしまっている。芝も所々焦げてしまって、暗いからはっきり見えないところもあるが、明日になればもっと悲惨な状況になっている可能性がある。半分以上クロードの魔力暴走が引き起こした結果なので申し訳ない気持ちになってしまった。
ティアナを見ると、クロードの視線に気づいた彼女は人差し指を口元に当てて苦笑しただけだった。
殿下がルナリアを心配していろいろ確認していると、近くにいたリーンが状況を説明し始める。
それを黙って見ていると、エリクスがこちらに近づいてきた。
「師匠が上手く説明している間に、ここから離れたほうがいいだろう」
いつまでもここにいては、クロード達も何があったのか状況説明のために拘束されてしまう。その前にここを離れることを提案してくれた。
「後のことはこちらで処理しておく。今日はこのまま帰った方がいい」
「そうさせてもらうわ。クロード、行きましょう」
ティアナが踵を返したので、クロードもそのあとをついていく。彼女は王子殿下の婚約者として何度も城に来ていたので、中庭の構造もわかっていた。
入り組んでいる垣根を何の迷いもなく進んでいくと、細い道に出る。それをさらに進んでいき、いくつかの分かれ道を迷うことなく選択していくと、やがて城門の近くに出た。
そこから馬車止めの広場まで歩いていくと、フロース家の馬車があった。
「クロードも乗って。兄はリベルト様と一緒に戻ってくるはずだから、私たちだけ先に帰りましょう」
「騎士団はどうするんだ」
「エリクスの方で今回は見送ることを伝えてくれるはずよ」
本来ならパーティーの後で騎士団長に面会する予定になっていた。
「今のクロードだと、普通の騎士と変わりないから会っても意味がないわ」
魔力制御ができることと、今のクロードの魔法の実力を見てもらう予定でいたが、魔封石が壊れ、抑え込むための黒の魔封石を持っている今の状況では何もできない。
騎士団長と会うのは次の機会として、クロードはそのまま馬車に乗り込む。
フロース家の馬車は、何事もなかったかのように静かに城を後にした。




