魔法騎士
目の前の光景にクロードは自然と体が動いていた。
ティアナに斬りかかろうとする男に向かって、剣を横に振り抜くと、男はさらに後方へと逃げた。
飛んできていた火球はエリクスが氷の壁で相殺し、2人は地面に倒れているティアナを叱るように低い声を出していた。
「何をしている」
「なんで戦闘になっている」
2人の声にティアナは気まずそうに視線を泳がせる。
「えっと・・・ルナリア様が一緒だったから」
東屋に視線を向ける。それは一瞬のことだったが、そこにルナリアが青い顔をして立っているのが見えた。それだけでティアナがルナリアを守るために東屋から出てしまったことを理解した。本来なら、彼女一人が東屋に立て籠って敵の攻撃に耐えている間に合流するつもりだったが、予想外の人間に予定を変更していたようだ。
「あそこまで行けるか?」
「うん」
エリクスの質問にティアナが頷いて立ち上がる。クロードは頷くと剣を構えなおした。
「ここからは俺たちが引き受ける」
「お願いします」
ティアナが東屋に向かって走り出すのと、クロードが男に向かって走り出すのは一緒だった。エリクスは魔術師の様子を見ながら魔法をいつでも放てるように構えている。
横に剣を振り払う。男は視線を低くして回避すると、立ち上がる勢いに任せて剣を振り上げた。
後方に跳んで避けると、男がさらに迫ってきて剣を突き付けた。自分の剣で突き付けてきた剣先の軌道を変える。鋼の擦れ合う音が響いた。
押し返すと男は簡単にクロードから距離を取った。だが、男は後方に着地すると同時にこちらに何か投げてきた。暗い中でも星明りを反射して輝くそれは、赤い魔封石。
空中に放たれた石は、魔力を帯びて石から3つの炎球に変わるとクロードに襲い掛かった。1回使いきりの魔封石で、石自体を投げつけて魔法を発動させられる物を隠し持っていたようだ。
横に転がるようにして2つの火球を回避したが、最後の一つはクロードに向かって飛んできてしまった。
「クロード!」
後方から鋭い声が飛んできた。それは焦った声というより、どこか励まされているような背中を押す声に聞こえたのは気のせいだったかもしれない。
クロードは持っている剣に意識を集中させて、迫ってきた火球に剣を振り抜いた。
「馬鹿め、普通の剣で魔法に対抗できるはずがない」
男はあざ笑うように言ったが、次の瞬間、驚愕の表情をして固まった。
クロードに迫ってきていた火球は、剣の一振りで二つに分かれて威力を失い、地面を僅かに抉って消えていった。
「なにが・・・」
男が固まっている隙をクロードは逃がさず、一気に男に迫ると、防御も反撃もできない男の腹に蹴りを入れた。
くの字に曲がって息を止めた男は、そのまま後方に吹っ飛んで地面を転がるとピクリとも動かなくなった。
戦闘不能になったことを確認して、持っている剣を一振りする。すると振り払われて剣が淡い光の粒子をまき散らして空気に溶け込んでいく。剣自体も淡く光に包まれて輝いているのがわかる。
あまり自身がなかったが、どうやらクロードの意思通りに魔力が反応してくれたようだった。
フォーンでの修行中、結局魔法を体から離すと、魔力を失って消えてしまうのは治らなかった。その代わり、ティアナは体から魔力を離さないで魔法を使う方法を教えてくれた。それが、自分の手にする武器に魔力をまとわせて、相手の魔法を相殺するものだった。
魔力を安定させることはできるようになったが、ずっと剣に魔力を安定的に注ぐのは大変だ。魔力量は多いが、持続力がないため、王都に来るまでの残り時間はすべて魔法剣を作るための時間になった。
魔術師対策に魔法剣を覚えたが、魔術師ではない相手が魔封石を使ってきても対応できるようになったので、戦闘要員としては以前より使える範囲が広くなっただろう。本来の魔法騎士とは違うが、これはこれで魔法騎士クロードが出来上がった。
男の方が片付いたので魔術師の方を見ると、ちょうどエリクスが繰り出された魔法を自分の魔法ですべて相殺し、光の網を作り出すと魔術師に被せて動きを封じているところだった。本人は苦労した様子を見せていないので、すべて簡単に済ませてしまったのだろう。
「片付いたか」
魔術師が動けないで地面に倒れたのを確認すると、エリクスはクロードを振り返って何気なく言った。
頷くと、倒れている男にも光の網が覆いかぶさり、拘束が施された。
「彼らはこちらで引き取る。王城での騒ぎがどういう処分になるのか、わからせる必要があるしな」
魔術師の結界内にいるため、外の人々には現状が届いていない。パーティーは何の問題もなく進んでいるはずだ。結果的に王子殿下の婚約者も巻き込んでしまった。相当重い罰が下されるだろう。
「後は頼む」
剣を鞘に戻すと東屋に向かう。すべての戦いが終わったことを察知して、東屋の風の結界は解かれていた。
「大丈夫か?」
念のための確認をすると、中にいたティアナは蒼い顔をしたルナリアを抱えるようにして立っていた。
「ルナリア様、もう大丈夫ですよ」
クロードに頷いたティアナは、抱えるルナリアの背中を摩りながら戦闘が終わったことを伝えた。
「すぐに部屋に戻って休みましょう」
「はい」
顔色は悪いがはっきりした声で彼女が頷いた。
ティアナに支えられたまま東屋を出るのを見て、クロードは2人の後を追うように歩き出した。
「何をしている!」
その叫び声は突然だった。クロードが声の方を振りけると、エリクスが驚いた様子で後方に大きく飛び跳ねたのが見えた。着地と同時に両手を前にかざして呪文を唱える。
手をかざしている方に視線を移せば、光の網に覆われて動けなくなっていたはずの魔術師が、光の網を被ったまま立ち上がり、胸の前にこぶし大を赤い石を持っていた。
「あんな大きさの魔封石、一体どこで」
エリクスの声にティアナも振り返っていたようで、魔術師が持っている赤い石を凝視して呟いていた。
「こんなところで捕まるくらいなら」
魔術師が魔封石に魔力を流し込んだのか、手の中で赤い石が光を放つと同時に巨大な火柱が魔術師を覆った。炎に包まれた魔術師は姿を消し、立ち上がった炎は空中で2つに分かれると炎を纏った大蛇に変貌した。
大蛇の1つはエリクスに向かって、もう1つはクロード達に向かって口を大きく開けて呑み込むように迫ってきた。
エリクスに向かった大蛇は、彼に迫る前に発動した水の網で体を覆われ、そのまま締め付けられて小さくなって消えていった。もう一方の大蛇はクロード達に迫ったが、ティアナはルナリアを自分に引き寄せると、風の魔封石で結界を張って攻撃を防ごうとした。それを確認するとクロードは大蛇をぎりぎりで避けて、その体に光の剣を突き刺した。ざわりと炎の体が震えるのを感じると、突き刺した剣を振り上げて大蛇の顔と胴体を切り離した。
頭は勢いのまま前に転がっていったが、ティアナの張った結界に弾かれて砕けた。胴体はその場に落ちてしまったが、エリクスがすぐに水魔法で体を覆ったため地面を燃やさずに済んだ。
魔術師がいた場所を見たが、そこには何も残っておらず、自分を犠牲にして最後の攻撃を仕掛けてきたのだと察することができた。
これで終わったのだとほっとした瞬間、彼の胸元で小さく何かが割れる音が聞こえ、クロードは体を大きく震えさせた。




