二度目の襲撃
「お出ましね」
その言葉を合図にするように垣根から2人の男が姿を現した。薄暗くて見えづらいがフォーンでティアナを襲った2人組で間違いない。
「よくここまで侵入できたわね」
彼らの後ろ盾が手を回したからこそ侵入できたことは予想しているが、敢えて何も知らないふりをして驚いたように言った。相手はまだティアナがすべてを把握していることに気づいていないはずだ。
「私を捕まえるのに随分必死なのね」
腕の中にいるルナリアが微かに震えているのがわかった。彼女は今何が起こっているのか見当もつかないだろう。それでも目の前に現れた男たちが自分の味方でないことは察している。
「ティアナ様」
微かに震える声でこちらを見上げてくる顔はあまり良くない。
「大丈夫ですよ。決してこの東屋から出てはいけません」
そう言ってティアナは隠し持っていた魔封石をルナリアに握らせた。緑色の石は風属性で、身を守るための結界を張ってくれる魔封石だ。再び襲われることを想定して用意しておいた物だが、ここではルナリアに持たせておいた方がいいだろう。助けが来るまで、東屋から出なければ安全は保てる。
あとは、ティアナがここから出て男たちと対峙したほうが、より彼女の安全は高まる。
「絶対にここを動いてはいけませんよ」
もう一度念を押してから、魔封石にそっと魔力を流し込むと、東屋全体をそよ風が流れた。それほど強いものではないが結界が張られた証拠だ。それを確認して東屋から出る。
「我々と戦うつもりのようですね」
魔術師の男が感心したように声を出した。
「殿下の婚約者の安全が一番だもの。それに、この前のように簡単に捕まるつもりもないわ」
そう言い返せば、魔術師はクスクスと笑い、もう一人が剣を抜いて一歩前に出た。その様子に前に相対したときと様子が違うことが窺えた。
「何が可笑しいの?」
「この前は捕まえることを依頼されましたが、依頼が変更になったので」
ティアナはそっと左手首に右手を添えた。
「どういうこと?」
「あなたは余計な動きをしたと判断された。よって現在の王子殿下の婚約者ともども消えてもらいます」
言い終わるかどうかというところで、剣を構えた男がティアナに向かって飛びかかってきた。
咄嗟に右手で左手首を擦る。手首には金のリングがつけられていて、そのリングには青い魔封石がはめ込んであった。右手で擦ると同時に魔力を流し込むと、青い魔封石が反応してティアナの目の前に水の柱が出来上がった。
迫ってきていた男が剣を振り下ろす前に後方に跳び退く。青い魔封石は水属性の魔法を封じてある。一定の魔力を流せば攻撃する魔封石だ。戦闘用の魔封石は基本的に一定の魔力を注がないと発動できないようになっている。何もないところで突然魔法が発動して事故にならないようにするため国で定められているのだ。一方、家庭で使う魔封石は魔力を注がなくても使えるので、魔力がない人でも気軽に使える。
ティアナが準備したのはすべて戦闘用魔封石だ。魔力量は多い方なので魔封石を駆使して戦うにしても時間稼ぎは十分にできるだろう。問題は、剣士との戦闘経験が皆無であるということ。
男が剣を構えなおして間合いを図っている。
学園で魔術の勉強はしてきたし、授業で模擬戦をしたことはある。だが、相手は不慣れな学生同士。弱い魔法の掛け合い程度だ。
剣士との戦い方を知らない分、できれば早く助けが欲しいと思いながら相手の様子を伺う。
すると男が横に大きく飛び跳ねた。その後方から火球がいくつも飛んでくる。再び水の柱で壁を作って火球を受け止めると、火球と水柱が一緒に消えた。男の姿が死角になっていてわからなかったが、背後で魔術師が魔法を放ってきたのだ。
2対1の圧倒的不利に歯噛みするしかない。
「きゃっ!」
その時悲鳴が聞こえ振り返ると、さっき飛んできた火球の一つが東屋に飛んでいっていた。幸い風の魔法が弾き返してくれたので、近くの地面が抉れ、芝が焦げただけで済んだ。東屋の中にいるルナリアは無事なようで、突然の攻撃に驚いて悲鳴をあげてしまったようだ。
ほっとしたのも束の間、横から男が迫ってきて剣を横なぎにはらった。咄嗟に横に跳んでぎりぎりでかわしたが、バランスを崩して転んでしまう。
地面に倒れこんだティアナを見て男がにやりと笑う。振り上げられる剣を見て逃げようとしたが、視界に魔術師が火球を作ってこちらに打ち込もうとしているのが見えた。たとえ振り下ろされた剣を水柱でかわすことができても、同時に放たれる火球を防ぐことができない。
どちらかを選べばどちらかで傷を負うのがわかった。
それでも振り下ろされる剣に向かって、ティアナは水柱を放った。男はすぐに飛び退いて難を逃れたが、そのかわり、魔術師の火球がティアナに迫った。もう一度魔封石を使う隙を与えず飛んできた火球に、ティアナは目を固く閉じた。
しかし、いつまで経っても火球がティアナに当たることはなく、痛みが来なかったことで目を開くと、そこには黒いマントをまとったエリクスが魔法で氷の壁を作って火球をすべて相殺していた。
男がもう一度ティアナに迫ろうとしたが、垣根から飛び出してきたクロードの払った剣を避けて、さらに距離を取る。
「何をしている」
「なんで戦闘になってる」
2人が振り返ってそれぞれに言ってきた。
「えっと・・・ルナリア様が一緒だったから」
そう言えば、2人は東屋に視線を向けて、すぐに敵に視線を戻した。瞬時に状況を把握してくれたようだ。
「あそこまで行けるか?」
「うん」
エリクスの質問に答えるとクロードが頷いた。
「ここからは俺たちが引き受ける」
「お願いします」
そう言うと、ティアナは立ち上がって東屋に走り出した。それと同時にクロードは剣を持った男へ走り、エリクスは魔術師に向かって魔法を放った。




