魔封石店を開始
ドアが開くと同時にドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
手元の作業をしていたティアナは顔を上げてにこやか言った。
ドアのところにひとりの少女が立っていて、ティアナと目が合うと恐る恐る尋ねてきた。
「台所で使う火起こしの魔封石ありますか?」
母親のお使いなのだろう。どこか不安げにする少女にティアナは棚から数本の棒が入った箱を持ってきてできるだけ優しく教えてあげた。
「ありますよ。ここにある中から選んでくれる」
箱の中から細く硬い木の棒の先端に小さな赤い石がついている物を少女はひとつ取った。
「これ」
差し出された棒を受け取り金額を言うと、少女が腰に下げていた小さな袋から銅貨を2枚取り出したのを受け取った。
「火元には気をつけてね」
そう言って棒を渡すと、少女は頷いて店から出て行った。ひとりになったティアナは静かになった店内で苦笑してしまう。
「まだまだ馴染めてないなぁ。というか、受け入れられてない感じかな」
ここに店を構えて3ヶ月になるが、客足はまばらだ。王都から離れた小さな街ではあるが人もそれなりにいるし、魔封石の店は数が少ないのでお客も来てくれると思っていたが、予想より客足は少ない。
「そう上手くはいかないか」
ひとつ息をついて再びカウンターの内側に入り椅子に座って、途中の作業を再開する。
目の前には青い小さな石が数個と布袋がひとつ置かれている。青い石はもともとひとつの手のひらサイズの石だっだが、石に水の魔力を込めて小指サイズまで砕いた物だ。それを袋に詰めて水の中に入れておけば、魔封石の力で数日水がきれいなままになる。魔封石の大きさや込める魔力の質などで水をきれいにできる時間は変わるが、今作っているのは5日間大丈夫なやつだ。
砕いた石ひとつひとつが魔力を持ってちゃんと機能するかの確認をしていると再び店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
顔を上げるとそこには初老の男性と、その後ろに無表情の青年が立っていた。
「ログ様、お久しぶりです」
「元気そうだね、ティアナ嬢」
にこにこと微笑む男性はログ=フォームトン。ティアナがここに店を出すことになった時、いろいろと助けてくれた人だ。
笑顔で頷いてからログの後ろに視線を向ける。
「クロードも」
「・・・あぁ」
表情を変えることなく青年、クロード=アイリッシュが頷く。素っ気ない返事は相変わらずで苦笑するしかない。
「今日は何をお探しですか」
カウンターから出て尋ねると、ログは店に入って左側にある棚を見た。そこにはティアナが作った魔封石が並べられている。
「明かりの魔封石はあるかな?最近部屋のランプの調子が悪くてね」
「それなら、こちらにいくつか」
ティアナは棚からオレンジ色の石を取る。光の魔力を閉じ込めた石は専用のランプに取り付けて使用する物だ。
「ひとつ貰おうか」
「かしこまりました。2ニールです」
そう言うと、クロードが懐から袋を出して銅貨2枚を渡してきた。それを受け取りながら、ティアナは彼をじっと見つめてから声をかけた。
「クロード、あの」
「用はすんだ。外で待ってる」
彼は背中を向けて店を出ていってしまった。
「すぐに逃げなくても」
愛想がないのはいつものことだが、少しこちらの話を聞いてほしいと思いながらため息をつくと、ログが笑い声をあげた。
「まぁ仕方がない。少しずつ心を開くのを待つしかないでしょう。私も彼とまともに話ができたのは2ヶ月か3ヶ月くらいかかったかな?」
「もう3ヶ月経ちましたよ」
街に来て最初にログとクロードに会っている。そこから3ヶ月が経とうとしているが、顔を合わせてもいつも素っ気ない。彼に頼み事をしたのは会ってすぐだったがそれがいけなかったのか。いろいろ話したいこともあるが、なかなか進まない。
「気長に待ちましょう。急ぐ必要もないでしょう」
「確かにそうですね」
ここに店を出した以上、もう王都に戻る予定はない。ここで自分の出来ることをやっていくしかないのだ。




