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魔封石使いと破壊騎士  作者: ハナショウブ
いざ、王城へ
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帰省

馬車に揺られながら外の景色を眺めていると、やがて見覚えのある景色が見えてきた。

もう4か月離れてしまった城下町を見ると、懐かしい気持ちが大きいことに気づく。

「戻って来たのね」

小さく呟けば、対面に座っていたクロードも外に視線を向けた。

「俺は3年くらい前になる。とは言っても、城にいたのも数日だが」

騎士として城で勤めることになって数日、訓練の時に魔法を使ってみるように言われて暴走させてすぐに城を離れたので、彼には思い出らしい思い出はないようだ。あるのは苦しい思い出だけ。それを思うとあまり戻ってきたい場所ではないだろう。

「このまま屋敷に戻るわ。家族が待っていてくれているみたいだし」

今乗っている馬車もフロース家が手配してくれたものだ。

第1王子の頼みでパーティーに参加することになってから、クロードの魔法訓練を進めてきた。予想より遅れることになったが、一応は魔法が使えるところまでもっていくことはできた。その訓練を積み重ねていくうちに、パーティーまで3日前となった今日、ティアナは実家に戻ることになった。

朝一番にフロース家からログの屋敷に馬車が到着して、クロードと2人で乗り込んだ。王都までは半日の移動だ。その間にパーティーでの行動を話し合った。クロードはパーティーでの護衛兼パートナーとして出席することになっている。ティアナの目的は第1王子の現婚約者との仲が良好であることを見せつけることだ。そして、婚約者が妃としてしっかり役目を果たせるように、喝を入れることも忘れない。周りを気にして引きこもりがちになってしまった婚約者が、やっぱり嫌だと逃げ出されては困る。王子の隣で胸を張って立ってもらいたい。そうでなければ、王子が惚れ込んでティアナと婚約破棄までした意味がなくなる。

ティアナ自身気合を入れ直していると、馬車の速度が下がっていき、見覚えのある屋敷の前で止まった。

扉が外から開かれると、クロードが先に降りてティアナに手を差し出す。ここからは魔封石士としてではなく、伯爵令嬢としての扱いになる。それをわかっているので、彼もエスコートをしっかりしてくれる。平民育ちの彼だが、今回王都に行くことが決まってから、ログからいろいろと教えられていたようだ。魔法の訓練の合間にエスコートの方法を教わっていたのは知っている。

「ありがとう」

手を借りて降りると、屋敷の玄関に人影が見えた。

「俺はこのままフォームトン家に向かう」

「それじゃ3日後に」

クロードはログの息子が治めている屋敷にお世話になることが決まっていた。ログの計らいでパーティーに行くためのクロードの準備もフォームトン家がしてくれている。彼は王都の騎士なので、騎士の正装は支給されているが、就任日に袖を通したきりこの3年一度も着ていないという。それを荷物に押し込んで王都に来たが、騎士としての知識も不足していることを考慮して、ログの息子からこの3日でできる限り叩きこまれることになっている。その間魔法の練習はなしだ。できるだけのことは町にいる間にしてきた。ここに来るまでに新しい襲撃もなかったので、このままパーティーを無事に終らせられることを願うしかない。

「とりあえず、無理だけはしないでね」

「それはリベルトに直接言ってほしい」

リベルトとはログの息子のことだ。ログから手紙でクロードのパーティー出席に対して、いろいろと教えてほしい旨を伝えると、喜んで引き受けると返事が来たらしい。リベルトは年に1度ログの所へやってきて顔を合わせているので、クロードとも顔見知りではある。王城で文官を務める彼は、勉学に関して学生時代から優秀であったそうだ。知識も豊富にあるので、いろいろと教えてもらうには適任なのだが、この3日間で一体どれだけの知識の叩き込まれるのか、クロードはそこを心配していた。ティアナは婚約者として王城に何度も足を運んでいたが、会った記憶がないので、リベルトがどんな人物なのかわからない。

1つため息をついてクロードが馬車に乗り込む。ゆっくり動き出した馬車を見送っていると声をかけられた。

「いつまで玄関で待っていればいいのかな?」

「出迎えは必要ないと書いておいたんですけどね」

「かわいい妹が久しぶりに帰ってくるのに、何もしないのは兄としてどうかと思ったのに」

振り返ると悲しそうな声を出しながらも、態度は全く悲しんでいないうえ、笑顔で両手を広げている兄がいた。

「おかえりティアナ」

「ただいまレインお兄様」

兄の胸に飛び込むと、力強く抱き留めてくれた。

「父さんはまだ仕事で城にいるけど、母さんが屋敷で待っているよ」

「みんなに会うのも久しぶりね」

「帰ってくると聞いて、みんなティアナを迎えるのに張り切っていたからね」

屋敷を出て4か月。いつもと変わらず受け止めてくれる兄に感謝だ。ティアナが屋敷を出ると報告したとき、両親は反対していたが、兄のレインだけはティアナの好きにしたらいいと背中を押してくれた。彼はいつも危ない物や危険なことはしっかりと教えてくれるが、それ以外は鷹揚に受け止めて好きなようにさせてくれていた。魔封石士になりたいと最初に話をしたのもレインだ。彼は最初驚いた顔をしていたが、そのあとすぐに笑ってティアナが選んだ道なら進んでみるといいと言ってくれたのだ。

屋敷の中に入ると玄関に屋敷内で働く使用人がずらりと並んでいた。皆ティアナが帰ってくるのを待っていてくれたようだ。慕われていたことに内心嬉しく思いながら挨拶をすると、一番奥に母が立っていた。

「おかえりなさい」

「お母様、ただいま戻りました」

スカートの裾を広げて挨拶をすると、苦笑した母、ディーナがティアナを抱きしめてきた。

「そんな堅苦しい挨拶は不要です。元気そうでよかったわ」

「お母様も」

抱きしめかいし、2人で笑い合うと兄も一緒に食事をする部屋へと移動した。朝食後すぐに馬車で移動したが、フォーンから王都まで半日の距離がある。昼食はシャイヤが馬車の中で食べられる軽食を用意してくれたので、クロードと一緒に食べた。それ以外は口にしていなかったので、屋敷では夕食の準備をしてくれていたようだ。

「旦那様は帰ってくるのにもう少し掛かるでしょうから、先に食べましょう」

お腹を空かせていると思ったらしく、ティアナが帰ってくる時間に合わせてすでに夕食が並べられていた。兄と母と3人でありがたくいただくことにした。

久しぶりの帰宅に、フロース家の料理長は気合を入れてくれたのか、いつもより豪華に見える料理を口に運ぶ。その味に懐かしさを感じてしまった。1人暮らしの時は簡単な料理だけを口にしていたし、ログの屋敷にいる時も、シャイヤはシンプルな料理が多かった。ログの年齢も考えて味の濃い物を控えていたし、シャイヤが平民出身なので、平民が普段から食べている料理が普通に出てきていた。ログもそれで満足していたので、貴族の豪華な料理は本当に久しぶりだった。

「美味しい」

色々な魚介類でだしを取ったであろうスープを呑み込んで呟けば、向かいに座る母は微笑んでいたし、兄は苦笑していた。

「ところでティアナ」

「なに?」

食事をしながら母が何気なく声をかけてきた。

「3日後のパーティーが終わったら、しばらくゆっくりできるのよね」

スープを救っていた手が止まる。

「パーティーが終わり次第、フォーンに戻るつもりよ」

静かに答えれば、母は困った顔をした。

「あなたに会いたいと言ってくれる殿方がいるのだけど」

「今回は殿下の願いでパーティーに出席することになったけど、本当ならまだ帰ってくる予定はなかったわ」

遠回しに断ってほしいと伝えてみる。

「婚約破棄にはなったけど、あなたを選んでくださる方がいるうちに、新しい婚約者を見つけるのは悪くないことよ」

ティアナの想いは伝わらなかったようだ。隣を見れば、レインは仕方がないとばかりに苦笑していた。これでは何も進まないと思い、ティアナは思い切って口を開いた。

「せっかくのお誘いだけど、私はやりたいことを見つけて隣町のフォーンに移り住んだの。まだ始まったばかりで、当分こちらに戻るつもりはないわ。だからすべて断ってください」

はっきりと口調で最後は敬語にして自分の意思の硬さを表現した。

「そうは言っても、このままでは適齢期を逃してしまうわ」

「母さん」

まだ食いつこうとしたディーナだったが、レインが口を挟んだ。

「ティアナは婚約者になってから2年間ずっと頑張って来たんだ。婚約破棄されて自由の身になった今、好きなようにさせてあげてほしい」

レインはティアナが屋敷を出ると告げても反対しなかった。兄なりにずっとティアナのことを見守っていてくれたのだろう。親の気持ちもわからなくはないが、ティアナにとって、今は魔封石士として魔封石に関わっている方が、ずっと自然でいられる。

「ここを出てから4か月経ったけど、向こうでそれなりに充実した日々を過ごしているわ。詳しいことは言えないけど、魔封石作りも順調にやっているのよ」

ティアナが作る魔封石は、個人的に注文された物を作ることだ。まだ、個人ではクロードの魔封石しか作っていないが、家族と言えど軽く話していい内容ではない。特にクロードの魔封石は、魔力暴走してしまう彼のための特別な石を作っている。魔封石自体は危険ではないが、魔力暴走をする可能性のある騎士を相手にしていると知られれば心配されたうえに、屋敷に連れ戻されてしまう。

色々と隠したうえで、自分が楽しく日常生活を送っているのだと伝えた。

「それなら、もう少し連絡をくれないかしら」

縁談を断られて残念そうにしていた母だが、ポツリと寂しそうに呟いた。

「ここを出て行ってから、手紙の1つも来てないわ」

「え?でも」

手紙なら兄宛てに書いていた。それを読んだレインからティアナの状況は聞いていると思っていた。隣を見れば、レインは肩をすくめた。

「母さんは、ティアナから直接手紙が欲しいんだよ。出て行ってから寂しいと感じることが多くなったらしい」

反対していた両親には手紙を書かず、賛成してくれたレインにのみ手紙を書いていた。状況が分かれば大丈夫だろうと考えていたティアナは驚いてしまった。両親は彼女がいなくなったことを寂しく思ってくれていたようだ。

「ごめんなさい。これからはちゃんと手紙を出すわ」

心配され、寂しく思われていたことに申し訳なさを感じた。ティアナが戻ってくることを知って、ディーナはティアナが思っている以上に喜んでいたのだろう。これからは兄と両親のそれぞれに手紙を書こうと決めた。

「失礼いたします」

食事も終わりに近づいてきた頃、侍女が部屋に入ってきた。

「旦那様がお帰りになりました」

報告とともに部屋に父であるアルフィード=フロースが入ってきた。

「あなた、お帰りなさい。お出迎えできず申し訳ありません」

ディーナが立ち上がり謝ると、父は片手を上げてそれを制した。

「構わない。ティアナが帰って来たんだ。積る話もあっただろう」

「お父様、お久しぶりです」

ティアナも立ち上がって挨拶をすると、アルフィードは1つ頷いてティアナに近づいた。

「元気そうだな」

「おかげさまで」

「3日後のパーティーのことは聞いている。準備もすべて整えてあるから、心配しなくていい」

「はい」

「食事が終わったら、私の執務室に来なさい」

「わかりました」

淡々とした会話が終わると、父はすぐに部屋を出て行った。その後ろ姿はどこか疲れているように感じられた。今までの父なら、もっと穏やかにティアナに接してくれていたが、今日の父は何かを抱えて緊張しているように感じた。それは兄も一緒だったようで、食事の途中ではあったが、執務室に行くように勧めてきた。

「きっとパーティーのことで何か話したいことがあるんだと思う。王子殿下の近況も知っておきたいだろう?」

「そうね。そうするわ」

2人を残して、ティアナはそのまま部屋を出て行った。


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