魔封石選び
クロードの魔力診断をしてから3日が過ぎて、ティアナの客がログの屋敷にやってきた。
「エリクス」
「久しぶりだな」
客間に行くと、エリクスが出されたお茶を飲みながらティアナを待っていた。
「頼まれた物を持ってきた」
「思ったより早く揃ったのね」
「師匠の所に在庫がいくつかあったから、そこから見繕ってきた」
「さすが7賢者。ほしい魔石はそろえてあるから助かるわ」
クロードの魔力診断をした後すぐに、ティアナは7賢者リーンに手紙を出していた。そこにはクロードのための魔封石を作るにあたって、必要になる魔封石の元となる魔石を届けてほしい旨を書いておいた。
「普通の魔石だと、クロードの魔力に耐えられないから、できるだけ頑丈な物がほしかったの」
「まさか、本当に魔封石を作ることになるとは思ってなかった」
届けてもらった魔石は袋の中にすべて入っていたので、それを1つ1つ確認していると、エリクスが感心したように言ってきた。
「少しは心を開いてくれた証拠だと思うわ。魔力診断も最初は渋っていたけど、暴走させずに診断をしたら、すごく驚いていたし」
あの後しばらくクロードは放心状態ではあったが、ティアナからの魔封石を作る過程の説明はちゃんと聞いているようだった。この後も魔封石を作ってはクロードに試してもらうため、協力をしてもらわなければいけない。
「それで、ティアナから見た彼はどうなんだ?」
ちょうど良さそうな石を見つけて取り出し、光にかざしているとエリクスが興味深そうに尋ねてきた。魔力を暴走させてログの所に預けられてから、クロードの今の魔力の現状が気になるようだ。
「魔力封じの魔封石が効果を発揮してくれているから、魔力を使ったことはないみたい。3年以上そのままだったけど、特に異常はなかったわ」
「久しぶりに魔力を流しても問題なかったのか」
「魔力を使えばやっぱり暴走しそうになるみたいだけど、そこは上手く流して魔力診断したから大丈夫よ。でも、彼自身が使いこなすには無理があるみたい」
魔力診断でクロードは魔力を使ったが、すぐに力をコントロールできなくなって暴走しかけた。それをティアナが受け流して暴走しないようにしたので大事にならなかった。
「相変わらずすごいことをやってのけるな」
ティアナの説明を聞いてエリクスはため息をついていた。
「そんなに難しいことはしてないけど」
首を傾げるティアナに彼は半眼になりながら口を開く。
「他人の暴走しかけている魔力をコントロールすることは、魔力操作に長けた人間でないとできないんだぞ」
基本的に自分が持っている魔力を適切に使いこなせるのは本人だけだ。他人が魔力をコントロールするためにはそれ相応の魔力操作ができる力がないとできない。相手の魔力を受け入れ、受け流し、同調しながら操っていく。それは普通の魔術師がほいほいできる技ではない。魔術師より魔封石士の方が魔力操作に長けているとはいえ、他人の魔力を操作できる人間はそういない。ティアナはそれを簡単にやってのける技量を備えているのだ。しかも、今回はクロード自身がコントロールできない魔力を本人に代わって操作している。そのことにエリクスは驚いているのだ。
ティアナだって最初から他人の魔力を操作できていたわけではない。彼女の才能を見つけ出し、訓練させてくれたのは、エリクスの師匠である7賢者リーン=ラナスターなのだ。彼がいなければ、ティアナでもクロードの力をコントロールすることはできなかっただろう。
「うちの師匠はとんでもない原石を見つけたもんだな」
ため息をつくエリクスにティアナは苦笑するしかなかった。
そんな会話をしながら、他の石もチェックして、3つの魔石を机に並べる。
1つは透明な石。1つはわずかに黄色い石。もう1つは白い石だ。
「まずはこの黄色い石を使ってみるわ」
魔石には魔力の属性によって石の色が変わる。最初に使おうと思った石は黄色で、地の属性を含んでいる。クロードの魔力を安定させるために、魔力診断でやったことを応用して魔力を大地に流すことを考えて選んだ。
「他の2つは?」
透明な石は魔力を与えることで他の色に染まれる特殊な石だ。そして白は光属性の魔石だ。
「彼の魔力には光属性が含まれていたから、もしかしたら使えるかもしれない。透明なのは、最終的に作る魔封石用」
まずはクロードの魔力を安定的に循環させられるようにしたかった。そうすることで彼自身が魔力の安定したときの感覚を養えるようにしたい。魔法を使えるようにするのはその次の話だ。
「今は魔封石で魔力を完全に抑え込んでいるけど、本来は石を持たなくても日常生活は問題なく送れるみたい。すぐに魔力の感覚はわかると思うわ」
もともとクロードは魔法騎士になる前、力を抑え込む魔封石を持たずに日常生活は送っていた。すぐ近くに魔術師が一緒に生活していたが、それでも力を使おうとしなければ暴走することはなかった。ただ、何かの拍子に暴走させてしまうことを懸念して、力を抑え込む魔封石を与えられている。
「その次はこの白い石を使ってみる」
白は光属性の石だ。クロードの魔力は各属性の力を感じながらも、その中に光を感じるものだった。一番安定して魔力を使うには光属性を主体とした魔封石が良いと考えた。
「うまくいくといいが・・・」
エリクスの不安はよくわかる。今まで一度もまともに魔力を使えこなせてこなかったクロードが、たった1つの魔封石で魔法を使えるようになるのか、使えてもどれくらいの力を発揮させられるか、途中で暴走しないかなど、不安要素はたくさんある。
「やってみないとわからないわ。でも、パーティーに参加するぎりぎりまで挑戦してみる」
7賢者リーンの手紙にも魔封石を作ることを優先する旨を書いていた。そうなった経緯も簡単に説明しておいたのでエリクスもわかっているはずだ。
「俺も仕事があるから警護をしてやれないし、この屋敷にいれば大丈夫だと思うが、念のため屋敷を出ないようにしろ。なるべくクロードが側にいるような状況にもしておいたほうがいい」
ティアナの心配をしてくれているのはわかるが、彼はリーンの弟子であり、師匠の下でこなさなければいけない仕事が山ほどあるはずだ。妃教育で城にいた頃、よく書類を抱えて歩いているのを見たことがある。
「そんなに心配しなくても、大丈夫よ」
次の襲撃に備えてできる準備はすでにやっている。この間のようなことにはもうならないだろう。
「それと、今回の襲撃はどこかの貴族が関わっているだろから、そこはこっちで調べておく」
襲撃ではティアナを傷つけようとしたわけではなく、どこかに連れて行こうとしていた。おそらく彼女自身を必要とする誰かがいるのだろう。それは今回の第1王子の新しい婚約者につながっているように思っている。
「そっちは任せるわ」
調べるなら貴族が住んでいる王都の方がいいだろう。調査は任せて、ティアナは自分に与えられた仕事をこなすことにした。
「魔封石が出来上がったら知らせてくれ。師匠も新しい石が気になっているようだし」
「わかったわ」
魔石を都合してくれたのだ。出来上がった時には必ず知らせるつもりでいた。
話が終わるとエリクスはすぐに王都に帰っていき、彼を見送ったティアナは、すぐに魔封石作りに取り掛かることにした。




