クロードの心情
「まさかこのまま帰るつもり?」
「そうだけど」
ティアナを家に送り届けて村長の家に帰ろうとすると、母親が止めてきた。
「そんなの駄目でしょう。護衛役なんだから一緒に泊まっていきなさい」
「は?いや、寝る場所がないだろう」
急に何を言い出すのだろうと驚いて拒否すると、エリーはクロードの話など聞かずにアルトに声をかけた。
「アルト、ちょっと村長のところまで行って、クロードもこっちに泊まることを伝えてきてちょうだい」
「わかった」
「人の話を聞いてくれ」
クロードが止める隙もなく、アルトが素早く家を出て行ってしまう。女性のティアナと一緒に泊まるのを避けるためにこちらに来たのに、クロードが一緒ではおかしなことになるだろう。そのことを2人はわかっていて行動しているのだろうか。
疑問に思っていると、エリーはさらにとんでもないことを言い出した。
「大丈夫よ。ティアナさんと一緒で」
「・・・・・」
戸惑っていると、エリーが首を傾げた。
「あら、違った?恋人なんでしょう」
「き、気づいていたのか」
「なんとなく雰囲気でね。母親の勘よ」
楽しそうに言うエリーにクロードは驚いて何も言えずにいると、そのままぐいぐい寝室へと背中を押された。
「さぁ、そうと決まればあなたの部屋はこっち」
示されたのはティアナが入っていった母の寝室だ。
「母としては嬉しいわ。あんな美人さんを連れてきてくれて」
「いや、ちょっと待って」
「それじゃ2人仲良くね」
止める暇もなく押し込まれた部屋では、突然のことに驚きの表情を浮かべているティアナがいた。
「ど、どうしたの?」
「いや、それが・・・」
気まずいクロードは視線を彷徨わせてどう説明しようか考える。
「護衛なら、ティアナを1人残して帰るのは良くないと言われて」
「うん」
頷いたティアナはその先を促すように見つめてきた。
「一緒に泊まっていけと言われた」
「・・・泊まるって、ここに?」
言葉の意味を理解したのだろう。彼女が急に慌てだした。
「な、なんで、どうして。私たちのこと、知って・・・」
「落ち着け」
慌てながら顔が赤くなっている。
恋人同士になってからも、ログの家には一緒に住んでいた。だが、一度も同じ部屋で寝るような状況になったことがなかったのだ。突然の状況に混乱するのは当然だろう。
深呼吸させてベッドに座るように促すと、その隣に座って説明をしていった。エリーには2人の関係を何も話していないことを伝えると、ティアナはとにかく驚いていた。母親の勘は侮れない。
説明が終わると2人の間に無言の時間が過ぎていく。視線を合わせることもできず黙ってしまう。
一緒に寝るべきなのか、部屋を出るべきなのか、どうするべきかと思いながら、ふと2人でいられる時間がとても久しぶりであることに気が付いた。
そう思うと寂しさと懐かしさが胸に溢れてくる。
無言のままクロードはそっとティアナの手に自分の手を重ねた。
「クロード?」
「最近、ティアナが側にいる時間がなかったと思って」
王都に戻ってから、一緒にいられる時間がないに等しかった。そのため2人でいられる時間は貴重だ。
「こうやって触れるのも久しぶりなのね」
重ねた手にティアナの手がさらに重ねられる。振り返ると優しい視線が合った。
「明日から魔石調査だし、今日はもう寝ましょう」
そう言ったティアナが頬にキスを落とした。驚いて固まるクロードをそのままにベッドに潜り込んでしまう。
「俺は、試されているのか?」
ここはクロードの実家で、母親の寝室だ。隣に恋人がいるとはいえ、何かが起こっていい状況ではない。
深呼吸を数回繰り返して落ち着いてからベッドに横になろうとして、毛布を被った塊が視界に入った。
それを見ていたら、このまま寝るのは悔しいような気がしてしまった。
せめてキスされて取り乱した心の分は仕返ししておきたい。
そう考えて毛布の塊をそのまま後ろから抱きしめる。
「クロード」
包み込むように抱きしめたことで、驚いたティアナが体ごと向きを変えてきた。それと同時に強く抱きしめて動きを封じる。
「おやすみ」
仕返しはこれだけにしようと微笑んだクロードはそのまま目を閉じた。
しばらくそのままでいると、ティアナが胸に顔を埋めてきた。さらに試されているのだろうかと思っていると、規則正しい寝息が聞こえてくる。
安心して眠ったことを信頼されていると喜ぶべきなのか、警戒心をもう少し持ってほしいと悲しむべきなのか、しばらく考えることになったクロードだった。




