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ロスト  作者: 林 晄史
始まり
6/25

洞窟

 無様に転げて、底の浅い川に落ちた。


 全身の擦り傷に染み、体のあちこちが打ち身だらけだが、骨は折れていない。

静かに起き上がり、泥を流す。


 軽く身体を動かす。問題なく動けそうだ。


 振り返った先には、木々が乱立し道なき崖があり、元いた場所は見えない。

しかしじっとしている時間はない。


 暗い方へ、険しい道の方へ、なるべく人が入れない方へ、痕跡や物音を立てないように。

慎重に大胆に、決して止まることなく、コウは進み続けた。水に濡れた体が重い。


 案内人であるリンが、コウ以外の人と接点があるのは分かっていた。

心に添えなどと言われたところで、初対面の人をそこまで信用できるわけがない。


 なのに何故、リンに他に案内した人がいないか確認しなかったのか?

無垢な赤ちゃんのように信じ切ってしまったのか?


 桜を前に涙を流したのも、笑いあったのも本心だ。

だが惨殺した人間が、何故、違和感なくいるのか……そもそも何故、思念だけで惨殺できるのか。


 そんな惨状の後に、違和感もなく、一緒にいて笑いあえているのか。

リンから離れた今、明らかにコウの心が異常だったのが分かる。


 目前に洞窟が見えた。入り口は踏み出す足場さえ分からない暗闇。

その空間にコウは躊躇いなく踏み出した。


 革靴の音が反響し、また一つ石が光る。

光源は魔法なのか、化学なのか、その石は壁に天井に床にランダムに配置されている。


 それでいて明るすぎず暗すぎず一定の明るさをもたらし続けていく。


 自力での移動はベンチの後の世界では初めてだ。


 好奇心が刺激される。

この世界の何も知らないのだ。リンの話の正否すら判断することがコウにはできない。


 どれぐらい進んだろうか?


 跳ねればぶつかる直立して歩く範囲の広さが、自分専用の場所であるかのような錯覚を起こす。

延々と続く変わらない現状に、せめて時間が知りたいと思った。


 あのベンチから今まで、しっかりと長時間起きていたことがない。

1日と認識しているが、3日どころか一週間、1年経っていたとしても分からない。


 体感には限界がある。

コウの心身に焦燥が募ってくる。


 リンとうるさいやつが恋しくなる。

コウは確かに心細くさみしいという気持ちがあるのを認めた。


 突如、視界が開けると、そこに何者かがいた。

腰まで伸びる髪は風に揺らめき、青白い光を帯びている。


 その光源は暗い室内の中央にあわく光るモノ。コウの位置からでは判別できない。


「……理解できているということよね」


 美しい女性の声だった。

ゆっくりと振り返り、こちらを見た。視線は感じるが、表情は見えない。


 さてどうしたものか。

コウは分岐点に立ったのを感じながら、視線を巡らしながら思案した。

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