熱情
しばらくこちらを見ていた彼女は吐息をはいた。
「……ここじゃ話しにくいのね。行きましょう」
先導されるが、逡巡するコウ。
かつて自身がしたように、いつでも惨殺される可能性はある。
「……余程の裏切りにでもあったのかしら?」
そういえばボロなんだよな、今の俺って。
「……ヒール」
ささやきと共に体が淡い光に包まれる。
温かく心地良さが全身をくるむ。眠気すらともなうこれは、一体。
「……取ってくう気なら、いつでもできる証明よ」
そう言って、彼女は歩き出した。
コウは完治した身体を確かめながら、てくてくと後をついていった。
ちらりと青い光を見てみると、青い光であるとしか認識できなかった。
「はあっ?それただの惚気じゃないの!!」
コウからかくかくしかじかを聞いた彼女は、黒髪をふり乱して言い放った。
そうなのか?
「……記憶をなくした変人を何があっても丁寧に接し続けたリン。それにほだされた変人は、状況よりもリンを信用していたのだった…おわり」
漆黒の瞳は光り輝いていてまぶしい。
「惨殺の件だけど……悪夢の類ね。夢の中でも意識を落とした事で混同したのよ」
コウは自身のポンコツ具合に呆れてヘコんだ。
とてつもなくヘコんだ。
そんなコウを目の前の黒髪ロングは優しく見守っている。
この世界の女性は女神なのだろうか?
誰もを信じる事はできないが、リンとこの黒髪ロングを疑う事はやめよう。
いろんな感情をコウは一息に吹き飛ばした。
すっきり澄んだ心いっぱいに、リンに会いたい! ただその思いがコウの胸を満たした。
「ありがとう。おかげで気持ちの整理ができた」
彼女は軽く手を振った。
「改めて自己紹介を。俺の名はコウ。分かったと思うが、何も理解できていない」
「……私はシズク。記憶を取り戻している」
シズクは挑発的に笑みを浮かべた。
「なるほど。……俺も能力を得れば記憶が戻るわけだ」
シズクとコウの差はそれしかない。
「……その方法も察しがついたようね」
「俺にとっては、だがな」
そう言って、コウはニヤリと笑った。
心が熱くなり、全身に力がみなぎる。
思いの強さに比例して止まる所をしらない高揚が、リンをコウに知覚させる。
「行ってくる。必ず戻る」
シズクは静かにうなずいた。
あれほどの情報を教えてくれたのは、協力してほしい何かがあるからか、飛び抜けたお人好しか、その両方か。
いずれにしても無碍にするつもりは全くない。
瞬時にコウは消え、静かな洞窟が戻った。




