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ロスト  作者: 林 晄史
始まり

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7/25

熱情

 しばらくこちらを見ていた彼女は吐息をはいた。


「……ここじゃ話しにくいのね。行きましょう」


 先導されるが、逡巡するコウ。

かつて自身がしたように、いつでも惨殺される可能性はある。


「……余程の裏切りにでもあったのかしら?」


 そういえばボロなんだよな、今の俺って。


「……ヒール」


 ささやきと共に体が淡い光に包まれる。

温かく心地良さが全身をくるむ。眠気すらともなうこれは、一体。


「……取ってくう気なら、いつでもできる証明よ」


 そう言って、彼女は歩き出した。

コウは完治した身体を確かめながら、てくてくと後をついていった。


 ちらりと青い光を見てみると、青い光であるとしか認識できなかった。


「はあっ?それただの惚気じゃないの!!」


 コウからかくかくしかじかを聞いた彼女は、黒髪をふり乱して言い放った。


 そうなのか?


「……記憶をなくした変人を何があっても丁寧に接し続けたリン。それにほだされた変人は、状況よりもリンを信用していたのだった…おわり」


 漆黒の瞳は光り輝いていてまぶしい。


「惨殺の件だけど……悪夢の類ね。夢の中でも意識を落とした事で混同したのよ」


 コウは自身のポンコツ具合に呆れてヘコんだ。

とてつもなくヘコんだ。


 そんなコウを目の前の黒髪ロングは優しく見守っている。

この世界の女性は女神なのだろうか?


 誰もを信じる事はできないが、リンとこの黒髪ロングを疑う事はやめよう。


 いろんな感情をコウは一息に吹き飛ばした。

すっきり澄んだ心いっぱいに、リンに会いたい! ただその思いがコウの胸を満たした。


「ありがとう。おかげで気持ちの整理ができた」


 彼女は軽く手を振った。


「改めて自己紹介を。俺の名はコウ。分かったと思うが、何も理解できていない」


「……私はシズク。記憶を取り戻している」


 シズクは挑発的に笑みを浮かべた。


「なるほど。……俺も能力を得れば記憶が戻るわけだ」


 シズクとコウの差はそれしかない。


「……その方法も察しがついたようね」


「俺にとっては、だがな」


 そう言って、コウはニヤリと笑った。


 心が熱くなり、全身に力がみなぎる。

思いの強さに比例して止まる所をしらない高揚が、リンをコウに知覚させる。


「行ってくる。必ず戻る」


 シズクは静かにうなずいた。

あれほどの情報を教えてくれたのは、協力してほしい何かがあるからか、飛び抜けたお人好しか、その両方か。


 いずれにしても無碍にするつもりは全くない。

瞬時にコウは消え、静かな洞窟が戻った。

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