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白い手

(仕事の知り合いOさんの話)



 Oさんが就職してすぐのころの話。

 Oさんは、引っ越してきたばかりのアパートで、妙だなと思ったことがあった。

 隣のアパートの、Oさんの部屋からよく見える向かいの部屋のベランダに、いつも青いタオルケットが干してある。カーテンが閉まりっぱなしで、住人の姿を見たことはない。他の洗濯物が干されていることもなく、人が住んでいないのではと思った。

 ある日、夜中にふと窓の外を見たら、向かいの部屋の青いタオルケットの表面に白いものが動いているのに気づいた。白い細い手が二本、タオルケットの後ろから伸び、タオルケットをさわさわと撫で、感触を楽しんでいるように見えた。なんとなく子供かなと感じ、そのときは微笑ましく思ったが、その後も夜に限って白い手だけがタオルケットを撫でているのを何度も見かけた。

 気持ち悪いと思いながら、その部屋を見るのをやめられなかった。

 

 住んで半年ほど経ったころ、向かいの部屋のベランダから青いタオルケットが消えていた。部屋のカーテンが開いており、室内で引越し屋が作業しているのが見えた。


 Oさんは、わざわざ隣のアパートの一階に住んでいる大家を訪ね、青いタオルケットについて聞いてみたという。


 大家の老婆は喜々として語った。


「ほんとは言わないのよ。特別よ。あの部屋、子供の虐待死があって、それから子供の幽霊が出るなんて噂が出てね。うちの主人が閃いて、その子が好きだったっていう青いタオルケットを供養のためにベランダにかけてみたらおさまったのよ。でも、二年ぶりに新しい住人が入るからね。タオルケットは外すことにしたの。ああ誤解しないでね。今度住む人にはちゃんと話して安くしてあげてるんだから。最近は告知とか厳しいのよ。」


 Oさんは、その日、どうしても気になって、また夜中に外を見ていた。

 向かいの部屋は明かりがついているが、カーテンで中は見えない。ベランダにはもう青いタオルケットはない。そのベランダに男の子が立っていた。裸で肌の真っ白な男の子が、部屋の中を向いて窓を一定のペースで叩いていた。ぞっとしながらも目を離せずにいると、男の子がふと窓を叩くのをやめた。その首がゆっくりとOさんの方を振り返るかのように回ってくる。

 Oさんは、倒れこむように窓から離れたという。

 それから、Oさんはもう夜中に外を見るのはやめた。


 Oさんが、その部屋の事件のことを調べて知ったことには、その部屋に住んでいた子供は青いタオルケットにぐるぐる巻きにされてベランダで放置されて亡くなったのだという。


 Oさんは思った。白い手は、タオルケットを撫でていたんじゃなくて、苦しくてもがいたんじゃないか、青いタオルケットは供養のためではなく子供の幽霊を避ける目的だったのではないか。

 

 しばらくすると、新しい住人がかけたのだろうか、ベランダの端に青いタオルケットがかけられるようになった。

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