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2話「武装錬成ってこんな術」

――レヴァンス山道、ガンデル渓谷――

馬車に揺られ揺られてうたた寝の中、意識が戻るにつれてアクロン宿場町までのなだらかな道のりとは違い、激しい揺れがシオンの寝ぼけた頭に響いて来た。

振動によって覚醒が近付くと、ノアとマッシュとレイナが楽しく話している声が聞こえてくる。

「うちの師匠はお寝坊さんなので朝はお世話しないと駄目なんですよ」

「そうでしょうね……それよりノアさんはいいんですか……?抱き着かれて動け無さそうですけど……あと涎も……」

「いつもの事なので大丈夫です!」

「いつもの事!?」

三人の会話に聞き耳を立てつつゆっくりと目を覚ます。

「ん、んん……今どこら辺……?」

「あ、師匠、おはようございます!今はガンデル渓谷に入ったところです!」

ノアから現在地を聞いて寝ぼけた頭を搔き、こんな所で起きてしまったかとため息が出る。

レヴァンス山道はキャメロディア側である南からルバンス川、ガンデル渓谷、アーゴン森林、サブウェル坑道の四区画に別れている。ルバンス川と宿場町から近く舗装され短い区間の為、特に何も思うことは無い。サブウェル坑道もデュランド側の宿場町と炭鉱夫達の協力もあり、道は整っており魔物の心配も無い。問題はガンデル渓谷とアーゴン森林で道中の整備がされていない。特にガンデル渓谷は崖や大岩で視界が悪く、石が混ざった地面は馬車ですら渡る者ですら体力を奪っていく。

それ以上に厄介なのが盗賊と魔物の存在だっだ。盗賊はまだいい。危険地帯に出向かされる様な団員は下っ端が多い為、実力なんぞたかが知れている。

問題は魔物の方である。ガンデル渓谷にはロックゴーレムやグレムリンなど、アーゴン森林にはサーペントやゴブリンなどの厄介な魔物が多く、時折ドレウス山岳やゼレス岳から降りてくるオーガやグリフォンと言った更に危険極まりない魔物すら現れる為、運が悪ければ様子見の野営で三日も潰す場合があると有名な場所だった。

若い冒険者達がどれ程知っているか知らないが、何もない事を祈るしかなかった。

「うわあぁぁぁ!ま、まずい!グレムリンの群れだ!護衛!助けてくれぇ!」

人間、不都合というのは来るなと思えば来るらしい。

御者の悲鳴を皮切りに若い冒険者達と共に箱馬車の外に出る。渓谷の岩肌に覆われた道には誰かが落としたであろう岩が目の前にあり道を塞がれていた。誰の仕業かと考えてすぐ、キキキッと下卑た笑い声がして上を見上げる。背中に翼を持ち、石と木で作った武器を手にしたゴブリンに近い醜い人型の魔物、グレムリンが目視で六体飛び待っていた。お粗末とは言え武器を作るほどの知能があるグレムリンは落石で岩を落として馬車の食料を奪おうと画策している様だ。

そうはさせまいと御者の助けに応じてマッシュとレイナが馬車を降りる。もう一台の方からは槍使いも降りてきて三人は戦闘の体勢に入る。

「うっす、任せてくださいっす!レイナ、雷魔術で落としてくれ!俺とアルトで落としたやつを仕留める!」

「はい、撃ち落とします……!」

マッシュの号令に合わせてレイナが杖に魔力を集中させて魔法陣を出す。魔法陣から伝わった魔力が杖の先に集まって雷の魔力球を作り、グレムリンに向けて発射する。

しかし弾速は遅く、グレムリン達もにやけ面のまま易々と避ける。見ていたシオンもやっぱり新米の冒険者かと落胆して肩を落とす。

「弾けて……」

レイナの魔術はグレムリン達やシオンにとってそれぞれ別の意味で誤算だった。放った魔力球は空中で留まり、レイナの合図と共に弾けてグレムリン達に感電していく。レイナは無鉄砲に魔術を撃ち無残に外したわけでは無く、端から全体に攻撃するためわざと避けさせたのだと気づきシオンも感心する。

「へぇ、魔力のコントロールが出来てるのか……優秀だねぇ」

感電したグレムリン達はショックで翼を動かせず地面に激突する。地面に打ち付けられ呼吸できなかったり、受け身を失敗して腕や足を折ったりした個体がいる。

それを近接職の二人は見逃さなかった。呻いてるグレムリン達にマッシュとアルトと呼ばれている槍使いが止めを刺していく。汚い悲鳴と共に濁った黒に近い血が噴き出してグレムリン達が討伐されていく。抵抗しようと落とされダメージを負った体でアルトに不意打ちをするも、マッシュの見事な一閃が不意打ちをしようとしたグレムリンの武器を弾き、そのままアルトの槍が振りかざされグレムリンの身体を真っ二つにする。

「やりぃ!ナイスアルト!」

「いや、何てことない。そもそもレイナの魔術ありきだよ」

「お二人とも、お疲れ様です。マリー、そっちは大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですぅ!」

後ろからマリーと呼ばれたヒーラーの女の子は魔防壁で商人と馬車を守っていた。マリーはグレムリンが倒され周囲を確認すると魔防壁を解き、三人の方へと駆け寄り無事を確認する。

Dランク冒険者パーティーが現状確認をしてる中、シオンの不安は一先ず払拭される。三人の連携は悪くなくマッシュはリーダーとして周りを見ているし、アルトの槍使いやレイナの魔術を見ても本当にDランクかと思うほどの訓練された実力と的確な判断力だった。

「師匠、私達何もしなくて良さそうですね!」

ノアが先輩風を吹かせたいのか、上からの物言いで四人を判断する。そんな事言える立場か?と内心で思ったが流石にノアの方が実力で優っているため言い返すことも無く肯定の意を持って頭を撫でる。

「いやはや、よかったよかった……お前さんらを雇って正解じゃわい……さて、ここにいて別の魔物が来たら堪らん……先を急ぐとしようか」

一安心した御者は嬉しそうな冒険者達を乗せ、再び馬車を進めて行く。


ガンデル渓谷を抜けアーゴン森林の境目に到着したあたりで商人や客であるシオン達の身体を労わり、昼食も兼ねた小休憩を取る事になった。休憩地点は見晴らしがよく、近くには綺麗な水が流れる川もあり魔物や人の気配が無い為、御者と商人も安心して馬車から降りてストレッチをしていた。

その反面、目の前に広がるアーゴン森林は入る前から鬱蒼としてるのが分かり、時折魔物の鳴き声らしき怪音が木霊している。これからここに入っていくとなると、馬車に乗っていた者は少しでも気分を落としてしまう。

そんな面倒臭い地獄を目の前にシオンは何故か涎で汚れていたノアの頭を川の水で洗い流す。仰向けになり石を枕代わりにして髪だけ川に浸けバシャバシャと洗ってあげる。

「あぁぁぁ……気持ちいいですぅぅぅ……」

ノアがひんやりと冷たい川の水で癒されている。気持ち良さから声は震え、顔が満面の笑みで蕩けていた。

一方で、若い冒険者組はそれぞれの仕事に取り掛かる。マッシュとアルトは周囲の警戒のため見張りに入っており、レイナとマリーは昼食のため簡易的な調理キットを組み立てている。

ノアの頭を洗い終わったシオンはマッシュに近寄る。

「見張り?頑張ってるねぇ」

「シオンさん、どもっす!今レイナとマリーが昼飯作ってるんで、待っててくださいっす!」

「そうなんだ。ノア、火に当たって髪乾かして来なよ」

ノアが元気な返事をしそのままレイナ達の所へと向かう。

「ふぅ……さてと、マッシュ君、ちょっとお話しいいかい?」

「はい。いいっすよ。どうしましたか?」

シオンはマッシュの近くに寄って話す。

「冒険者になったのはジャックス盗賊団だけ?」

「え?うーん……まぁ、そっすね……元々は違ったんすよ」

「へぇ」

マッシュから明るい雰囲気が無くなり遠い目をしていた。

「元々は単純に、親父が冒険者だったんで憧れで冒険者になりたくて、十二の時にアンセルト剣術訓練所に、親のツテで入れてもらったんすよ」

聞いた事がある施設の名前が出る。アンセルト剣術訓練所はウラノエス大陸の東側、職人の国で有名なサンヴェルク王国にある文字通り剣士を育成する施設である。所長であるヴェイク・アンセルトは優秀な剣士であり、サンヴェルク王国の王宮騎士の経験もある美丈夫だ。シオンもヴェイクから剣術を教わった事があり、それなりの交流関係を持っている。

「アンセルト……サンヴェルクにある所かい?」

「はい、そっす……知ってるんすね?」

「まぁ、知り合いがいてね」

「へぇ、そうなんすね……ともかく、俺はそこに四年間いたんすよ……親父に国の兵士でも傭兵でも冒険者にでもなれる様にって……めちゃくちゃ厳しい所だったんすけど、俺としては楽しかったっす……」

話が進むにつれてマッシュの声に張りが無くなってくる。

「でも、四年後に、故郷の村に帰ったら……村は廃村になってました……ジャックス盗賊団にやられて、家族も友達も……」

「もしかして……アンバル村の事?」

辛い出来事を語るマッシュが涙を堪える様に俯く。

シオンもアンバルの村だった場所に盗賊団の検挙を依頼された事があるため当然知っていた。

アンバルの村はウラノエス大陸の西側にあった村である。去年、ジャックス盗賊団の被害に遭ったせいで廃村となり、有名だった蚕産業は綺麗さっぱりに燃え果ててしまった。

「そうだったんだね……」

辛い思いをしたであろうマッシュを見て、シオンも思うところがありマッシュの背中をさする。

優しさに宛てられたからか、マッシュは静かに涙を流した。親の死に目すら見れなかった辛さを思えば当然と言えるだろう。

「すんません……そっからは、憧れてた冒険者になった感じっす……」

マッシュが涙を拭い取り、真っ直ぐ向いた明るい表情に戻る。それを見たシオンも安心したのかマッシュから手を離して空を見上げる。

「そっか……もしかしたら近い将来、盗賊団を襲撃する作戦がギルド協会で上がるかもしれない……」

「そ、そうなんですか!?」

「噂だけどね」

あくまで噂ではある。デイビスが言うにはジャックス盗賊団の出す被害は年々酷くなっていき、拠点を見つけ次第で襲撃作戦を予定している、と話だけで実際は被害だけがどんどん重なっていってるらしい。

「だから、それまでにもっと上のランクに行って、討伐部隊に選ばれる様にしとかないとね」

「は、はい!俺、もっと頑張ります!」

激励の意を持って、マッシュの肩を拳で軽く小突く。

そう言われたマッシュは涙の跡など嘘の様に笑顔で返事をする。


「何だよ、大声出して……てか見張りは?まさかサボってた訳じゃないよな?」

後ろから呆れた表情の黒髪の青年、アルトが近寄ってくる。

座り込んで話していた為、マッシュをサボりだと思われていた様だ。それに付き合わせてたのもあり、シオンもアルトから睨まれてしまう。

「あ、わりぃ、ちょっと話しててな!どうかしたか?」

「はぁ……そろそろ昼飯だ、集まってくれ」

「おう、分かった!シオンさん行きましょうか」

マッシュ達に頷き昼食の方へと進む。箱馬車に揺られていただけとは言え腹は空く。

昼飯に在り付けようと足を進めると、腕を組み立ち竦むアルトに睨まれる。

「えっと、何か用かな?」

「ん?どうしたんだアルト?」

動かないアルトを気にしたのかマッシュが振り向き声をかける。

少し重たい空気の中、アルトがゆっくりと口を開く。

「マッシュ達から聞きました……Aランク、なんですよね?」

思っていたより直球な疑問がアルトから飛んでくる。確かにアルトから見れば明らかな軽装で武器も持たずにAランクですと言うには、余りにも説得力が無さ過ぎた。

マッシュも小声で失礼だろと止めに入るが、アルトは振り払い立て続けに質問を投げかける。

「俺は姉も兄も冒険者で、兄に関してはあんたと同じAランクです……失礼なのは承知ですが、冒険者としては細いし、何より防具らしい防具は服の下の鎖帷子だけですよね?とてもじゃないですが、信用ならなくて……」

「おいアルト!マジで失礼だって!」

自分のせいで冒険者パーティーが揉め事を起こす事を懸念してシオンも二人を軽く宥める。

「まぁまぁ、仕方ないさ。こんな格好してるんだ。冒険者カードだけじゃ疑問にも思うよ、普通」

自分で言ってて虚しい気持ちになる。この手の疑問を投げかけられる度にちゃんとそれらしい装いをしとうよ考えるも、自分の戦闘スタイルを崩してまでちゃんとしなければならないのか悩みに悩んでいる。

二人の表情を見ても、疑問の持ち主であるアルトはともかく、マッシュですら実はそう思ってましたと言わんばかりに目線を逸らす。

「でもまぁ、今見せて万が一君達を怪我させたらマズいし、いつか見せてあげるよ。冒険者やってたらその内見せれると思うし」

「……そうですか……失礼しました。昼飯行きましょう……」

微塵も納得がいってない表情のまま、アルトは踵を返して昼食へと向かう。

どうしたものかと悩みながらもシオンも歩き出し、マリーに餌付けされているノア達の元に向かう。


昼食をとり終えた一行は再び馬車に乗りアーゴン森林に入る。

アーゴン森林に入れば箱馬車の小窓から見えるのは鬱蒼とした木々ばかりだった。

馬車はマッシュに変わりマリーが乗っている。馬車中はノアのおかげで空気が柔らかく、初対面とは思えない程仲良く話していた。

「マリーさんとレイナさん、お料理上手でした……師匠の野営って大体は保存食か、獲ってきたお肉やお魚を焼くだけなので特に工夫にしないですもん」

「ノア、余計な事は言わなくていいよ?」

自分の弟子とは言えなんと失礼なと突っ込みを入れる。

話を聞いていたマリーは堪らず噴き出して、レイナも顔に手を当てて身体を小さく震わせる。

「ふふ、仲がよろしいのですね。かと言って野営中のご飯ですし、あんなものですよ。宿屋の厨房を借りたり出来ればもっとすごいのが出来ますよ?」

「もっとすごいの!?食べてみたいですぅ……」

期待に満ちた表情のノアが満面の笑顔で頬を抑え蕩ける。それを見てレイナもマリーも顔を緩めて暖かい時間が過ぎる。

しかし、突然外から女の叫び声が聞こえてくる。

「…て!ジャ……賊団が、ち……て!」

甲高い叫び声は馬車内からは聞こえづらく、冒険者達は馬車を降りる。

「落ち着てください。本当なら、私たちが匿いますから」

アルトとマッシュが既に降りて女性の身柄を案じていた。

女性の身形はボロボロの麻の服を着用しており、いくつかの殴り跡や切り傷などの乱暴にされた形跡がある。赤い髪は乱れ、身体は震えていた。

「あ、シオンさん……この人、ジャックス盗賊団にやられたらしいんすよ……マリー、回復頼めるか?」

「はい、ただいま向かいます!」

マリーが女性に駆け寄り、女性を馬車を背もたれにして回復魔法の準備を始める。アルトやマッシュは警戒を強めレイナも魔力探知の魔術を広げる。

そんな中、シオンは妙な違和感を感じた。被害を受けたはずの女性は、ジャックス盗賊団にやられたと言う割には妙に元気そうだ。肩で息をしているのも演技臭く、緊張から安堵にかけてくる逃げ切れた感が無い。シオンが女性から感じたのはむしろ――獲物を捕まえた感じだった。

シオンは女性が動きそうなのを見極めて、回復魔術に集中していたマリーを掴んで怪しい女から引き離す。

「へっ?きゃぁ!?」

予感は的中した。女性は太腿から隠しナイフを取り出してマリーを攻撃した。ナイフはギリギリマリーに当たる事無く空を切る。

「ほらね、やっぱり……よくやる手口だよ、ジャックス盗賊団……!」

女性はしくじった表情の後、勢いよく口笛を吹く。それを合図に茂みや木の上、来た道から次々と黒いバンダナを巻き武器を持った無法者が飛び出してくる。恐らくレイナの魔術探知を発動する前から待ち伏せていたのだろう。

「な、なんだこいつら!?」

「か、囲まれました……!」

「ひ、ひぃぃぃ……!」

マッシュ達と御者は囲まれ、シオンとノア、マリーと商人達も別に囲まれる。

ざっと見渡し人数を確認する。盗賊団の数は囮の女を合わせて目だけで十八人はいる。恐らく射手がまだ隠れていると考えると二十人はいるだろう。

シオンにとってこれは予想外だった。この程度の馬車強盗に対して二十人近く動員する事など、いくら最大規模の盗賊団とは言え、貴族の屋敷を襲撃する作戦の類と同じ人員を割くのは奇妙だった。

目の前に見える囲まれている若い冒険者達の身を案じながら取り敢えずこっちはこっちで守る事にする。

「おいテメェ!さっきはそのガキ殺せそうだったのに余計な真似してくれたなぁ?お前も死んどくかぁ?おぉん!?」

囮役の女が睨みを利かせてシオンを恫喝する。先ほどの弱々しさが嘘の様に目を見開き青筋を立てている。

向こうの団員は冒険者達を囲んで下卑た笑いを浮かべているのに対し、こちらを囲んでいる団員は脅迫している女が叫んでいる間は黙っていた。

マリーを回復役と見極め真っ先に手をかける為に自ら囮役に出た優秀な判断能力と、演技や化粧で相手を欺こうとする小賢しい策を見るに、この女は下っ端では無さそうだ。

「えっと、ごめん?いや、それも違うけど……あんたがこいつらをまとめてる人?見逃して欲しいんだけど、駄目?」

無駄な交渉と分かっていながら盗賊団に諦める様に促す。囲んでいた盗賊団はこいつマジか?と言わんばかりの困惑した表情を見せる。

一方で怒りに満ちた女は違った。さらに怒りに満ちた表情を浮かべ顔を紅くした後、沸点の限界を迎えたのか、力みが無くなり真顔に戻る。

「……そうかそうか、死にたいらしいな?腑抜けた事言いやがって……このマーニ様が根性入れてやるよ……覚悟しな!」

言い放つや否や、持っていた短剣を突き付けてきた。商人を落ち着かせようとして取った余裕を見せた態度はマーニの琴線に触れ、逆に商人や御者を怖がらせる結果となった。本当に余計な事をするべきではないと昨日から思っていたはずなのに、自分も成長しないなと思わず内心で呆れる。

「おいお前ら!そっちのガキどもは殺しときな!護衛で金にもならないカスどもだからね!」

「か、カスどもだぁ……ふざけんじゃねぇ!カスはテメェらだろうがぁ!」

マッシュの不意打ちに近い斬撃を皮切りに盗賊団との乱戦が始まる。

「たく、威勢だけいいな冒険者とか言うのは……まかいいさ、頭に血が昇っちまったが、このカス野郎以外は金目の物を置いてったら許してやるよ。お前は殺すけどな」

当然と言えば当然だがマーニからの殺意を全て一直線に受ける。明らかにシオンにだけ向ける視線だけ違い、周りの団員も続く様に構える。逃げれるような隙間は無くどうやっても迎え撃つしかない。

「うーん参ったね……」

「何が参っただよ、取り敢えず死にな!」

有無を言わさないマーニによる鋭い踏み込みがシオンを襲う。一先ず躱せる為躱したが、シオンには一つ懸念があった。

ここで暴れてもいいが、商人達を守れるだろうか?

迷いは遅れを生むことも知ってるし、何より人数が人数。ここまで囲まれて無事で済まそうとは思ってない。

シオンがぼんやりと葛藤している中、マッシュ達の方で動きがあった。

「はぁ、はぁ……」

「くっそ、いてぇ……!」

「ふ、二人とも……申し訳ございません……魔力が……」

十数人に囲まれていたマッシュ達の方を見る。

盗賊が八人程倒れていたが、それ以上にマッシュ達が辛い状況になっていた。マッシュは地面に突いた剣を支えにし、アルトはわき腹から血を流しながらも魔力が尽きそうなレイナを庇っていた。やはり予想外なこの人数に手を焼いている様だ。

「あーぁ、どうしたもんか……」

手を出すべきかと悩んでいると後ろから服を引かれる。後ろに顔だけ振り替えると不安そうな商人達とマリー、そして師匠を期待をしてくれている弟子の眼差しがあった。

「師匠、やりましょうよ?私が皆を守るので、師匠はその分、あの人たちをやっつけてください!」

こっちの気も知らないで、と少しだけ思うも絶望的な状況。皆を守るためには仕方ないかと腹を括り、ノアに笑顔で返す。

「まったく……分かったよ、任せたよノア」

「はい!」

愛弟子の笑顔を後ろに、決断が付いた足を前に出す。

「はっ!なんだい、やる気か?手ぶらのくせにアタシ達に勝とうってか?えぇっ!?」

ナイフを突きつけたまま挑発が続く。それを見てマッシュ達の相手をしていた盗賊達もこちらに向かってきて相対する人数が増える。

「手ぶら?大丈夫だよ、今から作るから」

何言ってんだこいつと盗賊達から困惑の声が漏れ出る。

傷を受け苦境のマッシュ達からも心配の表情が浮かび上がる。

そんな窮地に似た状況の中、人を守る為、師匠の戦いが見れると期待している愛弟子の為に武器を作る。

――多数戦、イメージするのは手数。舞い踊る様な刃。

錬金術を展開し、自分の魔力を媒体に高性能な武器を錬金する。青い稲妻に似た光の中から、シオンの手に双対の剣が精製されていく。

「な、なんだ、テメェ……何してんだ!?」

異様な光景にマーニが叫ぶ。他の盗賊や商人、御者、ノアを除く冒険者たちまで異質過ぎる光に唖然としていた。

光が止むとシオンの手には蒼く輝く二対の双剣を手にし構える。

錬金術は本来どれだけ高度な物でも、媒体にした素材より多くの物質が出来ることは無い。しかし、シオンの有り余る魔力をシオンは無理矢理体内で圧縮。それの圧縮された魔力を媒体に品評会で出せばA+のランクが付く様な武器を無理矢理錬金した。

「す、すげぇ……」

「ぶ、武器を……出した……?」

圧倒的に神々しく珍しい術に盗賊や冒険者は目を引かれる。ノアに至ってはすごいでしょうと自分の手柄の様に誇らしげにしている。

「ちっ……武器を出したからなんだ!こっちにはまだこんだけ人がいるんだ!やっちまいな!」

マーニの圧のある号令と共に盗賊が襲い掛かってくる。

しかしシオンも当然、この技術の為だけに四年間修業していた訳では無い。武器の扱いに長けた人間に稽古をつけてもらう為、わざわざ大陸を渡り雑用から何までして誠意をみせつけ、ようやく様々な武器の技術を習得した。

そして双剣の技術も、しっかりと教わり身に付けたものの一つだ。足腰を利用して盗賊の攻撃を掻い潜る様に捌いて進む。一人一人を手早く、それでいて的確に急所を外して刃で切り刻んで仕留めていく。

木の上から飛んでくる矢も撃ち落とし、下っ端盗賊達に格の違いを見せつける。

「なっ!?こいつ……!」

「大丈夫、死にはしないよ。超痛いけど」

盗賊十人を動けなくし、人数で圧倒できなかった苛立ちを隠しきれないマーニの方を見て勝ち誇る。

「このぉ……舐めるなぁ!」

再び怒りに満ちたマーニが他の盗賊とは比にならないナイフ捌きを浴びせてくる。こちらは双剣で相手をしているのに、ナイフ一本でこちらに反撃の隙を与えない怒涛の連撃はシオンにとっても少し焦りを感じた。

「うわ、やるね本当に……こっちは一応二刀流だよ……?」

「てめぇ……なんなんだよ……アタシのナイフが、当たらねぇって……」

お互いに焦りが出ていた。決定打は無いのに集中力だけが削られていく。一歩でもしくじればそれで決着だろう。

「おいお前!これを見ろ!」

構えたままの睨み合いの最中、後ろからの声に気が取られ振り向く。

目線の先にはボロボロながら動ける盗賊達がアルトとマッシュを倒し、レイナを人質に取っていた。どうやらこっちの戦闘に気が取られ不意打ちをかまされたらしい。

「あ……ぐっ……」

魔力が尽きかけ、意識が薄れているレイナが呻きながら抵抗しているが、腕力に歴然とした差があり引き剥がせないでいる。

「あっ、汚いぞ!」

「はっ、ざまぁねぇな……!動くなよ?今から心臓にブスリとメッタ刺しで殺してやるからな……」

動けなくなったのをいい事に、マーニが罵詈雑言を浴びせながら歩み寄ってくる。

自分が動けば当然レイナは首を切られて死ぬだろう。地に伏して倒れてるマッシュ達も動こうとするが、出血が思ったより酷いのか蹲ったまま手を伸ばすだけで動けないでいた。

だが師匠として信頼している。弟子が守るのでと言ったら何も言わず降参のフリだけしてばいいと。

シオンは大人しく魔力で作った武器を消滅させ、両手を上げる。

「はっはっはっ!大人しくなったか?今更おせぇよ!死にな!!」

ナイフを振り下ろそうとした瞬間、馬車の陰から勢いよく人が飛ぶ。棒術を使って宙を舞うノアはレイナを掴んでる盗賊達の中心に降り立ち、棒術を用いて一瞬で制圧してレイナを助ける。

「はぁぁぁ!よっと!」

盗賊が悲鳴を上げながら倒れていく。一人に関しては頭頂部に棒が当たって明らかに砕けた音がしたが大丈夫か?

「なっ!?テメェら!何不意打ち食らってんだ雑魚!」

マーニの意識がシオンで無く向こうに向いた瞬間、短剣を瞬時に錬成しマーニのうなじに突きつける。

「形勢逆転。どうよ?」

「……ムカつくねぇ……いいさ、引いてやるよ……クソが」

「引けるの?」

マーニを逃がすまいと身体を押さえようとする。

しかし、そこは大規模で長生きしている盗賊団だった。木の上に潜伏していた射手がシオンに何かを投げてきた。それに反応し、シオンは思わず後ろにステップで躱す。

投げ付けられたそれは地面にぶつかると、粉塵と共に煙を上げ目くらましとなる。

「煙幕か……!ノアー!皆なは大丈夫か!?」

「はーい!マッシュさん達は大丈夫です!」

煙幕が徐々に晴れていくと既にマーニの姿は無く、他の盗賊の気配も無かった。倒れた盗賊を見捨てて動ける盗賊だけで逃げた様だ。

「……ふぅ、マリーちゃん。マッシュ君とアルト君の治療お願い」

「はい!」

周囲を警戒し安全を確保しマッシュ達を馬車に運ぶ。マリーにマッシュ達の治療をお願いし、シオンは倒れてる盗賊達を近くの木に縛り付ける。

「ノア、手伝ってくれ」

「はい!」

ノアと一緒に合計二十人、武装らしい物を取り外して次々に木へと縛り付ける。本来なら縛って憲兵の屯所まで連れていくのが一番だが、二台あるとはいえこちらも馬車に余裕が無く、屯所に連絡を入れて逮捕してもらう為である。移動手段が無い時に冒険者達がよくする手法だ。


「よぉし、こんなもんか……」

盗賊全員が文字通りお縄になり、治療されてるマッシュ達の所へ足を運ぶ。

「大丈夫そう?」

馬車の中を覗き込むとマッシュとアルトが鎧を脱ぎ、マリーに包帯を巻かれていた。出血で消えかけた意識はポーションで持ち直したらしく、なんとか重症で済んだ様だ。

「あぁ、シオンさん……すんません……頑張るって意気込んだくせに、倒れちゃって……」

「いいよいいよ。今回の盗賊は中々強かったし。僕も結構追い詰められたし」

落ち込むマッシュを励ます。マッシュは自分の未熟さを憂いているのか小声で誤ったきり俯いてしまう。

その横でわき腹に大怪我を負ったアルトがシオンを見る。

「アルト君も大丈夫だったかい?結構深そうだけど?」

「いえ、結構酷いですが、何とか……その、ありがとうございます……そして、俺もすいませんでした……強そうに見えないとか言ったのに、助けてもらって……」

思ったよりも素直な言葉がアルトの口から流れ出る。どうやらシオンの言葉と実力をしっかりと受け取ってくれたらしい。

「いいよ、若いとそう言うもんさ……レイナちゃんの方に行ってくるね」

「はい、了解っす……」

馬車を降りてレイナの乗っている馬車の方へ向かう。

馬車にはカーテンが敷かれておりゆっくりと開けて覗き見る。

「レイナちゃん、大丈夫?」

馬車の中ではレイナが下着姿で包帯を巻いていた。二人に比べると小さい切り傷と浅く刺さった矢が一ヶ所だけとまだ軽傷で、マリーが男子達の治療が終わるまでの応急処置をしていたのだろう。

「きゃぁ!?し、シオンさん……!?と、閉じてください……!」

急にカーテンを開けた為、レイナが顔を紅くして服で体を隠す。

シオンも冷静に考え、下着姿の可能性があるのに易々とカーテンを開け、ましてや開きっぱなしとは何事かと思考を巡らせる。

「あ、あぁ!ごめん、ごめんね……終わったら言ってね」

ささっとカーテンを閉じて馬車の外で待つ事に。年頃の女の子相手に本当に何をしているのか……


「はい、レイナさんも大丈夫です。炎症にならない様に明日の朝付け替えましょうか」

「ありがとうございます、マリーさん」

マリーによるレイナの治療が終了する。魔力切れもポーションで補い事なきを得た。

ポーションは錬金術師が素材を調合して醸造した液状の薬だ。基本的には薬草や木の実などの植物から作るが、中には魔物の素材から醸造する必要なものまである。飲めば効能が現れる為、あまりに便利な代物だなと錬金術師のシオンですら思う。

「シオンさんとノアさんもありがとうございました……助けてもらわなかったら、今頃どうなっていたか……」

マッシュ達と同じ様に頭を下げて礼を言われる。

「いいよいいよ。相手はなんでか本気だったし……」

「そうですよね……でも何故よりによって今日なんでしょうか……?」

レイナからの疑問に思わずシオンも考え込む。

「商人を運んでいるとは言え、その……大声では言えませんが、あの商人二人は所謂、商会の末端です……有名人と言うわけでもないですし、御者さんからも何も聞かされてません……」

「そうなんだよね。それが分かんないんだ」

実際こんな危険地帯にわざわざ二十人越えの待ち伏せなど聞いた事が無い。明らかに計画的な実行だと思うがこの馬車に目ぼしい物があるとは思えない。

謎が多く残る中、御者からの声が聞こえる。

「皆さん、ご無事ですかい?いやぁ特にあんた。若いのに助かったよシオンさん」

御者から称賛として腕を叩かれる。地味に痛くて少し不快だった。

「あぁ……いえ、どうも」

「謙遜しなさんな、流石はAランクだ……他の冒険者も頑張っていたが、やっぱ格が違うね。うち専属の用心棒なんてどうだい?」

「遠慮しときます」

御者からの誘いをやんわりと即答する。自分の生き方を探すために冒険者になったのにこれでは意味が無い。

「そうか、惜しいな……さて、そろそろ出発しようとも思う。あっちの男冒険者二人と商人さんは大丈夫らしいからな。お嬢さん達が大丈夫なら出発するよ」

マリーがレイナの身体の無事を確認し終えるとこちらを向いて大きくうなづく。

「私達も確認次第また連絡しますので少々お待ちください」

「うむ、分かった」


シオンは縛り上げた盗賊達の確認を終えると、盗賊を木の枝で突いていたノアを馬車に乗せる。

「御者さん、大丈夫です」

「はいよ。それじゃ再出発と向かいましょうか!」

御者が手綱を引き、馬が嘶く。

太陽の日が橙色に染まりかける中、次の目的地である宿場町であるハルマットに向かう為、馬車が再び動き出した。

頼むからハルマットの宿場町まではゆっくりさせてくれ、とシオンは願うばかりだった。




次回に続く

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