ブラ? 料理?
ショッピングモールに着くと僕のスマホがなった。確認すると弥生さんからだ。
『仕事が忙しく、ご飯作りに行きたいけど行けそうないです。ごめんなさい』
気遣いの内容だった。そんな無理しなくても良いのに。そうだ。
『ウチにおいで。ご飯つくって待ってるよ。何か食べたい物ある?』
『先生の作ったビーフシチュー食べたいです』
即答だった。
『了解。作って待ってる』
良かった。機嫌は悪く無さそうだ。今夜は僕の部屋に来るのね。真央さんも文ちゃんも誘ってサプライズを仕掛けよう。
『斉藤先生お話したいことがあります。お時間ある時を教えて下さい』
『仕事頑張ります』
弥生さんと村山先生から同時にタイミングでLINEが来た。村山先生話ってなんだ?
『明後日学校の図書室へ向かいます。そこで話を聞きます』
『宜しくお願いします』
丁度いい、伊藤の進路について確認もしたかったし、明後日は学校だ。
「郁也さん。スマホ終わった?早く文の服、見に行こうよ」
待っていてくれた文ちゃんに手を引かれ、レディースショップに入る。連れて行かれた先は下着売り場だった。
「文ちゃん。ここは僕では役者不足です」
役者不足どころか変態扱いになる。真央さん早く助けて。
「そんなことないです。私の初めてのブラ選んで下さい」
「だー!そう言うのは絶対ダメだからね」
「これかな?」
文ちゃんはブラを手に取り胸に当てていた。どうすれば脱出出来る?僕はおろおろしか出来なかった。
怪しく思ったのか店員さんがやってくる。ど、どうする?逃げる。逃げる。逃げたい。逃げられない。店員来た!番座急須。
「お父様はここで暫くお待ち下さい。お嬢さんをお借りしますね」
店員は客として僕を扱ってくれた。娘に初めてのブラを準備する父親に見えたらしい。ほっとしたが、ここで待つの?女性用下着売り場。た、耐えれるかな?
「あ、いたいた。斉藤さん。うっ。文はどこ行きましたか?」
やっと真央さんと合流出来た。キョロキョロして文ちゃんはを探す。合流出来たけど、今『うっ』って言ったよね。そして彼女は僕と目線合わせない。絶対に変態ロリコンとか思われている。
「真央さん。文ちゃんは店員と一緒にいます。ここで待っているように言われたので代わりに待っていてくれませんか」
「あぁ。はい。斉藤さんはどうします?」
「とりあえず、店をでて通路で待機しています」
「わかりました。ごゆっくり」
なんとか地獄より生還した。洋服買いに来たのに下着は勘弁してくれ。二人が買い物が終わるまで待つことにする。
何もしないで待つのも時間がもったいない。今夜の献立で足りない物を書き出す。4人分だろ。弥生さんのリクエストはビーフシチュー。僕のは牛肉がバラ肉だ。レストランで入るような厚い肉は入らない。あとはトマト。ジャガイモ、人参、玉ねぎ。マッシュルーム。デミグラスソース。赤ワイン。副菜は面倒臭い。いつものガーリックトーストだ。サラダもつけよう。こんな感じかな。着飾らない。いつも通りだ。煮込む時間が少しだけ欲しいな。
「お待たせ。郁也さんにも見せてあげるね」
「文!」
文ちゃんが真央さんに怒られる。小学生なんだけど高学年の女子になると扱いづらいな。
「そういうのは男の人に見せてはダメ。次は服を買うのかい?」
きつめに注意する。あとはなかったことで。文ちゃんは地団駄を踏み騒ぎ立てる。
「文。うるさい!」
文ちゃんは真央さんに一括された。少しだけへこんでいた。このタイミングしかない。僕は別個を提案する。
「僕、ちょっとだけ別行動で良いかな?」
「ダーメ。文に付き合うって言ったじゃん」
カワイイわがまま姫め。なんでも許してしまいそうだ。
「30分頂戴。直ぐ戻ってくるからさ」
「仕方ないな~」
「大丈夫です。次はあの辺にいますから、ゆっくりしてきて下さい」
文ちゃんからしぶしぶ承諾を得る。真央さんは次に行く店の方向を指差してくれた。
僕は二人に別れを告げ、地下の食品売り場に走る。食材の買い出しだ。買い物が終わると直ぐ、自分の部屋に移動。軽く下拵えをする。鍋を火にかけじっくり煮込みたいが留守で火を使うのは危険。そこは諦め、再びモールのファッションフロアに戻った。
「郁也さんおそーい!」
真央さんに指定された店に戻ると二人は直ぐに見つかった。僕が二人を見つけた時は穏やかに楽しそうに買い物をする姉妹なのに、僕を見つけた瞬間、文ちゃん激怒なんて理不尽な。10分遅刻した僕か悪いか。
「ごめんね。ちょっと野暮用でさ思ったより時間がかかっちゃった」
「約束守らない人にはお姉ちゃんあげません」
「それは困ったな。お詫び夕食をご馳走するよ」
「やった~。お寿司お寿司」
「お寿司こないだの食べたでしょ。違うよ。真央さん少しいいかな?」
「はい」
文ちゃんに任せると計画が全て台無しになる。ここは話のわかる大人と話をしたい。
「今夜の夕食、僕の部屋で弥生さんと食べる予定なんだけど一緒にどう?」
真央さんは首を横に振る。
「遠慮します。お二人の邪魔でしょうから」
至ってまともな解答が来た。確かに二人きりならあんなことやこんなことを弥生さんにするけど。今日は偶然の出会いを大事にしたい。
「偶然出会ったからさ。サプライズ仕掛けたいんだ」
「サプライズ仕掛ける!お姉ちゃん驚かせる!」
横で話を聞いていた文ちゃんは乗り気だ。文ちゃんの様子を伺っていた真央さんは少しだけ悩んでいる。
「真央姉」
文ちゃんが声をかける。
「わかりました。ご相伴にあすがります」
「やったー」
文ちゃんの力により、立花三姉妹が僕の部屋に集まることになった。




