家庭訪問
誤字報告ありがとうございます。
今後とも宜しくお願いします。
夕食を終えた。流石に川田を引っ張り過ぎだと考え、帰すことにする。これから大人の楽しみだ。三大欲の一つが僕を突き動かす。
「じゃ、川田、気をつけて帰れよ」
「はい。ご馳走様でした」
「待って川田さん。私も帰ります。途中まで送りますよ」
「え?」
食卓を片付けていた弥生さんが帰り支度を終え、僕の後ろに立っていた。帰るって行ったね。帰るの?
「弥生さん。先生が豆鉄砲を受けたような顔してますよ。いいんですか?」
「先生すみません。私も明日仕事ですので帰ります」
「ああ、そうだね。気をつけて」
川田の『いつ、ご結婚の予定ですか?』問い以降、弥生さんは不機嫌だった。僕はその問いにハッキリ答えられなかった。『時期がきたら』とお茶を濁したのだ。弥生さんはそわそわしながら解答を待っていたが、その答えを聞くと落胆したようだ。
川田が帰ってからイチャついて機嫌を取ろうとしたが、目論見があっさりと崩れさった。仕方がない。自分の蒔いた種だ。今日は諦めよう。二人は帰って行った。
ざわついた空間が静かになる。自分の部屋がえらく広く感じられた。このとき一人が恐ろしく寂しく感じた。
嵐のような出来事が去った次の日。川田の家にやって来ていた。チャイムを鳴らすと出迎えてくれたのは川田の母だった。
「わざわざ休日に来ていただいてすみません」
「いえ、僕の場合は早々と夏休みになってしまい、担任の責務を果たせませんでしたから」
「何をいっています。先生は生徒を暴漢から守った英雄ですよ。さ、中にどうぞ」
「失礼します」
川田の母の案内でリビングに通される。そこには父と娘が対面に座り睨みあいをしていた。
「先生、バカ娘がバカなこと言い出して申し訳ない」
川田の父は僕に気づくと直ぐに立ち上がり、挨拶をして来た。川田も立ち上がり僕にお辞儀をする。
「お嬢さんはとても優秀です。自分の人生設計をしっかり考えています」
「成績は優秀だ。だが人生については未熟者だ」
「それらについて、しっかり話し合いましょう」
僕が川田の隣に座り母親は参加せず。こうして川田の進路について話し合いが始められた。
手始めに川田の演説が始める。僕ら二人で作り上げた完璧な志望動機の文章だ。
「ふん。口は立派だ。だが現実は違う。葵が頭がいいのは知っているが、体力がなく手先は不器用だ。獣医師は体力、技術、追加するとすれば精神力。それらが必要になる。お前には全部ないだろ」
あっさり父親の反論に遭う。だが正論だ。
「うるさい!それでも獣医師になるんだ!」
川田がキレる。それだと平行線しか辿らない。ここからが僕の出番だ。
「葵さん。落ち着いてください。お父さんの言うのは尤もです」
「せ、先生」
味方に裏切られたような顔でこちらを見る。今にも泣き出しそうだ。
「そうでしょ。先生」
父親は満足げ。
「葵さんは学生です。現時点で全てが足りないのは当たり前です。体力、技術については大学へ行ってからで問題ないと考えてます。精神力はありますよ。僕をこの場まで連れて来ましたから」
思わぬ反撃に父親はたじろぐ。反撃の糸口を掴みたそうだ。
「しかし、先生」
「お父さんは葵さんが可愛いですよね」
「あ、あぁ」
「ですが彼女は一人の人間です。いつまでもお父さんの守りは必要ありません。一人立ちする娘を笑顔で送り出してあげませんか?」
「か、勝手にしろ」
父親は席を立ち何処かへ行ってしまった。これは交渉成功したのか?入れ替わりで母親がこちらへやって来た。
「なんか、怒ってましたけど、気になさらないで下さい。あの人いつも、ああですから。葵の進路については私に任せると言ってくれました」
母親の言葉にホッと肩を下ろす。
「お母さん。それはどういうこと?」
川田が恐る恐る母親に内容を確認する。
「葵、頑張って。お父さんも、お母さんは応援するよ」
「お母さん。ありがとう」
抱き合う親子。うん。これで解決。あとは家に帰って資料作りだな。うちのクラスで進路に問題ありそうなのは、伊藤だけになった。
そう言えば伊藤の奴、村山先生とどういう関係だ?あの駅前の服装はデートの待ち合わせだよな?それとも僕のように進路指導か?一度、村山先生に確認する必要があるな。待てよ?川田と伊藤。幼馴染みだったな。
「それでは僕はお暇致します」
「ありがとうございました」
「先生。ん!」
母親に見送られる。川田は親指を立てグッドと答える。
「あ、そうだ。伊藤の家ってこの辺か?」
「昴の家?近くだよ。なんで?」
「あいつの進路も中途半端なんだ」
「おー。昴の家にも家庭訪問。私、案内するよ」
川田はニタニタしながら自分の靴を履いた。
「ただの表敬訪問だ。アイツの場合、目標が定まってない」
「はぁ。昴だしね」
川田の案内で伊藤の家に向かうことにした。




