弥生VS川田
二日酔いの夕刻。玄関前で川田に抱きつかれていた。昨日の夜とは状況が違う。今回は川田に勇気をあける番だ。黙って抱きつかれる。そんな折、お昼の食事を断った弥生さんが訪ねて来た。二日酔いを心配してくれたのであろう。
川田はすでに抱きつくのを止めていた。変な誤解にはならなそうだ。
「お邪魔します。あれ?お客さん?」
弥生さんが川田の姿を確認する。少し驚いたようだ。
「お邪魔してました。先生じゃ。私帰るね」
「おお」
川田は弥生さんに頭を下げ、彼女を交わし逃げるように玄関の外に出る。
「待って。一緒に夕食を食べませんか?」
意外にも弥生さんが川田を引き留めた。
「帰る予定でしたから、遠慮させて下さい」
川田は再び頭をさげ夕食の招待を辞退した。
「先生。私、彼女とお話したいです」
「え?川田と?川田、一緒に飯食べるか?」
弥生さんの態度に僕は釈然としなかったが、川田を夕食へ誘って見る。
「わかりました。ご一緒します」
アレ?遠慮しますじゃないの?一緒に食べるの?弥生さんに促され僕が誘ったのだか、まさか本当に食べるとは思わなかった。
川田の表情は笑顔だったが怖い。決意めいた物が感じられる。
女二人、キッチンに立つ。僕はその間、シャワーを浴びることにする。酔いを覚まし冷静に考える時間が欲しかった。
弥生さんは川田と何の話をしたいんだ?僕と川田の関係を疑っている?疑うって何をだー。川田は生徒だぞ。僕はそんなに信用がないのか?
対する川田。何故残る?帰ればいいじゃないか?いつもの川田ならあっさり引いたはず。残ったて居心地悪いだろ。わざと?弥生さんと僕の中を裂くのが目的?もう。わからない!
風呂から上がりキッチンの様子を伺う。二人は和気あいあいとしていた。姉妹にも見える。悪い雰囲気ではない。ここは流れに任せることにした。
僕は一冊の本を手にする。僕の好きな作家の本だ。先日、弥生さんの家へお邪魔した時に借りていた。大事な本のはずだが彼女は快く貸してくれた。
本を読みながら時よりキッチンをチラ見する。問題は無さそうだ。本に集中しよう。
「出来ました。テーブルの上、片付けますね」
笑顔の弥生さんが食卓の準備を始めようとする。
「それぐらい僕がやるよ」
「そうですか。お願いします」
僕がテーブルの上を片付けると、キッチンへと戻って行った。代わりに川田がおかずを持って来た。肉じゃがとほうれん草のおひたしだ。
「先生、なんですか。あのひと。私、絶対に勝てないじゃないですか」
小声で川田が僕に話かける。言葉のトゲとは違い顔はあっさりしていた。
「そうだな。彼女はいい人だな」
「のろけますか」
「ああ、のろける」
「あーあ。終わったかな」
「葵ちゃん。次もお願い」
「はーい」
川田は弥生さんに呼ばれ、キッチンへ戻る。代わりにご飯をよそい、弥生さんがやって来た。
「いい子ですね」
「川田か。いい子だな」
「姿も中身が昔の私にそっくりでびっくりしました」
「昔の弥生?」
聞き返したつもりだか、弥生さんには聞こえなかったのか、キッチンへと戻って行った。
最後は二人揃って、味噌汁と鳥のササミとサラダなどを持って来た。
「先生準備出来ましたどうぞ」
「では、いただきます」
なかなか豪勢な夕食になった。二人の視線が僕に集まる。まずは一口味噌汁を飲む。味噌汁の具はしじみだった。
「美味しい」
「良かったです。二日酔いにはしじみの味噌汁とよく言いますから」
続いて肉じゃがを突っつく。これも絶品。こないだの味なしカレーを作った人間とは思えない出来だった。
「これ、全部、弥生が作ったたの?」
「いえ、葵ちゃんにも手伝ってもらいました」
「違います、ほぼ弥生さんが作りました。私はサラダをちょろっと手伝っただけ。これが男性の胃袋をつかむってやつでしょか?」
弥生さんは照れ笑う。うん。いい。僕はひたすら箸を動かす。純和風の料理。病気食ぽい感じも否めないが、こないだのカレーとは雲泥の差だ。
「おかわりも、たくさんありますよ」
「肉じゃがだな」
「はい」
弥生さんは僕から皿を受けとるとキッチンへ戻って行った。川田は恨めしそうに食卓を睨む。
「どうした?」
「うー。ほぼ、お母さんだ。完璧過ぎてぐぅの音もでない」
「仕方ないだろ。川田は高校生だ。料理なんてほぼしないだろ?」
「先生って実はマザコンだったりします?」
「ブッ!」
吹いた。ロリコン疑惑の次はマザコンかよ。
「僕は正常です。適正年齢の人が好きです」
「そうですか。弥生。弥生か」
「その件、弥生さんには言うなよ」
僕が川田に見て抱きついた者は弥生さんではなく弥生だ。正直弥生さんには知られたくない。
「教師と生徒で何、こそこそ話してるかな?」
弥生さんが肉じゃがを盛りこちらへ戻って来た。僕はへらへらし誤魔化そうとしたが川田は違った。
「いつ、ご結婚予定ですか?」
川田の力強い言葉は僕たち二人をフリーズさせるのに十分な破壊力を持っていた。




