悪夢は続く 救済者
頭が痛い。飲み過ぎだ。昨日のことを落ち着いて考える。冷静になろう。弥生は今、幸せになろうとしている。それで良いではないか。僕には弥生さんがいる。それぞれ違う道で幸せになれば良いのだ。頭からその予定だったじゃないか。そういい聞かせる。
体が重い。今日はリハビリの予定だ。ひとっ風呂浴びて病院に向かう。早速、医者に注意される。
「まだ、怪我が完治している訳ではないです。お酒はほどほどに。今日はリハビリなしで帰って下さい」
仕方なく帰路に着く。弥生さんより昼食の誘いがあるが断った。今、そんな気分には馴れななかった。
『すいません。二日酔いでリハビリも中止になりました。ご飯もごめん。今日は大人しく帰ります』
『大丈夫ですか?残念です。また今度』と返信があった。
自宅に着く。手には缶ビールがあった。一本をイッキ飲みし床に着いた。
チャイムがなる。出迎えると文ちゃんが立っていた。
「文ちゃんどうした?」
彼女はまっすぐ僕を見つめる。
「ママがね。知らない人と結婚するんだって」
「ママって誰?」
「弥生お姉ちゃんのことだよ」
「弥生さんは僕と付き合ってるよ。知ってる人だよ」
「私、死んじゃた」
「え?」
「生まれてこれなかった」
「お祖母ちゃんに殺されたんだって」
文ちゃんの首がすとーんっと地面に落ちる。横に転がる生首が言葉を発する。
「次はちゃんと生んでね」
「うぉおお」
悪夢を見た。最悪な目覚めだ。そもそもなぜ文ちゃん?文ちゃんは今回の件には関わりがない。沢田が妙なこと言うから。僕の子供イコール文ちゃんになったか?
ママは弥生さんではなく弥生だろう。昨日のことを意識し過ぎだ。弥生が妊娠して子供をおろしたなんて話しは聞いていない。なぜそんな夢を見る。弥生のお父さんの話しだと、彼女は独り暮らしを満喫している様子だ。だから子供はいない。
いないから気になるのか。あの時、妊娠していて秘密裏に処理された。僕の子供がいた?それは本人でなければ知るよしもない。
『会うな』と言われたのだ。確かめようがない。違う。確かめる必要はないのだ。
忘れよう。ビールに手が伸びる。缶の蓋を開ける前にチャイムがなる。
「どなたですか?」
「川田です」
川田が訪問して来た。正直今は会いたくない。彼女は弥生に似過ぎだ。
「どうぞ」
川田を招き入れる。平静を保つように見せる。僕は教師。
「先生、そのお酒臭いです」
川田より先制パンチをもらう。
「ああ、すまない。どうした川田」
「良かった。先生、昨日おかしかったから」
「昨日?」
「覚えてないんですか?」
「すまない」
昨日のことはほぼ覚えていない。
「弥生、弥生って叫んで大変でしたよ」
指摘され徐々に記憶が甦る。弥生が訪ねて来てくれた。でも川田の話からすると。来たのは川田だ。
「私は葵です。弥生さんの代わりに抱くなんて最低です」
弥生を思い川田を抱き締めた記憶を思い出す。最低野郎だ。え?ちょっと待て、そのあと僕は川田と最後までしてる?
「すまない、そのあと僕はどうした?」
恐る恐る川田に確認を取る。
「そのまま私に寄りかかって寝てしまいました。ベットに運ぶの大変でしたよ」
少し安心する。間違いは起こして無さそうだ。
「そうか、ありがとう」
「先生、何か悲しいことが合ったんですよね。私でよければ慰めます。弥生と読んでもいいです。今日は色々覚悟もして来ました」
川田の誘惑。彼女は目をつぶりその時を待つ。昨日のと今日で僕の心の落ち着きが違う。酔っていても分別はつく。
「ばーか。何、訳のわからないこと言っている。生徒に手を出すワケないだろ」
川田の頭に軽くデコピンを食らわせた。
「痛ったー。先生ひどいです」
「お前が変な冗談を言うからだ。今日は何のようだ」
「明日の家庭訪問の打ち合わせです」
おでこを押さえながら川田は訪問の理由を話してくれた。明日、川田の家に行き彼女の希望を両親に伝え、説得しなくてはならない。職場放棄するわけにはいかないのだ。
「でも、僕はあくまでもフォローだぞ。川田自身がしっかり伝えないと」
「わかってます。ですのでここで練習をさせて下さい」
「わかった」
水を飲み頭をスッキリさせる。シャワーでも浴びた方が良いのだか時間がない。これから川田の演説を聞くために集中しよう。
「ど、どうですか?」
何度かの直しの後、最後の演説となる。
「完璧だ。これなら僕も上手く話を持って行けそうた」
「ありがとう、ございます。あー疲れた」
川田はソファーに体を崩し寄りかかる。
「お疲れ様」
「先生、本当に何があったんですか?今はいつもの先生ですけど、昨日と今日の始めの頃は異常でした」
「あぁ。ちょっとね。大人の事情」
川田に言えるわけない。
「んーと。先生の彼女と喧嘩したんですか?」
「いや」
「ついに別れたんですか?」
「いや」
「ぶー。付け入れないじゃないですか。私は大人しく帰ります」
「おう。気をつけて帰れよ」
「はーい」
「川田。ありがとうな」
玄関先まで川田を送る。
「先生明日は宜しくお願いします」
「あぁ。頑張ろう」
「今日は私がエネルギーもらっていいですか?」
「かまわないけど?何」
「十秒チャージャ」
川田は僕に抱きつく。昨日の逆だ。僕も調子に乗り川田の頭を撫でる。
「ピンポーン」
玄関のチャイムが鳴る。
「川田離れろ。誰か来た。はーい。今開けまーす」
ドアを開けるとそこには弥生さんが立っていた。




