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冬の感謝祭の話






それはその日のことだった。


「…よしっ」


場所はベルデの某所。人混みに賑わうその中で、決心した表情のコウヤが一人。



ーー既に行列に並んで一時間だった。

店の玄関から大きく伸びるその列は遠く十軒隣先まで伸びていて、そして店そのものがさほど大きく無い事から客の回転は遅々として進まない。


しかし…開店より前に(それでも行列が出来ていた!)到着して列に並んだ事で、現在、コウヤはあと数人分待てば店内に入店出来る…と言う段にはなっていた。



「………、」



冬の感謝祭…元の世界のクリスマスに相当する日。しかし人の因業はどうやら変わらないらしい。




…今日は特別な日なのだ。此処に集う者達は皆それを確信して並んでいたし、コウヤもその一人であった。



それは宿命付けられているのかも知れないし、哀しい運命であるのかも知れない。


「…………」


しかし、それがなんであれ、今、ーーコウヤが決意によって立っている事は違いなかった。



………



「…ふぅ」


結局それが一番の待ち所であったらしく、コウヤの前の人間達が消化されるまでにさらに十分を要した。


しかし、しかしーー


「ーーー」


いよいよ、遂に。


「………」


コウヤの前の一人が店内へと消えた。そして…


「お入り下さいお客様ー商品の在庫数は十分に用意しておりますので、慌てないでご購入下さい!!!!」


この日の為だけに雇われたらしいバイトの、手をラッパにしながらのその声に誘われて(いざなわれて)…一歩、店内へと踏み入れて…ーー入場。


「…っ」


瞑っていた目を開くーー前方、そして左右に広がる、元の世界のドンキを思わせるような光景。

日常がこうなのでは無い。これはこの日の為だけに創られた物だ。…高く積まれた商品の箱で構成される、何処までも続くようなジャングル。


「…ふっ」


正しく此処が戦場だ! コウヤの確信であった。


ーーそうとなれば、



「!」



「あっ!」


コウヤは駆けだした! バイトの制止を振り切って。


通路の左右の商品群ともスレスレであるが、今日この日限りは小さくなってしまった身体が何よりも有り難かった!


突っ込むように道の行き当たりに差し掛かると、シューズのグリップ力任せにコーナーを曲がり切り…そして再びがつがつと走る。


「………!!!」


…コウヤにとってこの日の目標は二つ存在している。

一つはみんなの為の。副目標としてもう一つのが自分の為の物である。


前情報を確かめるならば、二つとも年末商戦の為にメーカーの威信を懸けて開発された珠玉のアイテムである筈で、そしてセールで格段に安値となっているこの日は売れ行きが良いはずだった。残っている事を信じたいが……


「ええええいっ!!? …ああっ!?」


そしてたどり着いたプラモ売り場。

ーー年末商戦用の限定バージョン…

まずは自分の為のそれを探して…ーーチクショウ、売り切れてやがる!


理解したコウヤは即座に転回! 一躍本来の目的の、その売場へと駆け足で向かう。


「〜〜っあ!」


それはそう遠く無かったが…ーーあった!


人でごった返しているが、目当てのそれを見つけてコウヤの顔は綻んだ。


何とか陳列カートをたぐり寄せるように、人垣をかき分けて近づいて、商品名と値段、注記事項の書かれた張り紙を確認する……拙い言語の理解力でも分かる、“お一人様三個につき” ジャスト!



…鉱山街ベルデでは、子供を持つ者は多人数産み、育てている率が高い。

ーーそれを配慮してこのような制限数となっているのだろうーー



しかし、である。

コウヤの目前でその商品は見る間も無く、奪われる様にして在庫は争奪されていき……それは、大きな銀のカートの上に誇らしげに、しかしギュウギュウにたくさん詰められていた筈のがあっという間に空にならん、という程の勢いであった。



恐るべし子持ちのパワー、恐るべし親の執念!



だが、コウヤも負けるわけにはいかなかった…小さな腕を目一杯伸ばす!


「〜〜っ!」


三色で信号機の様になっているその商品との距離は……近い様で果てなく遠い。


それを囲む人垣の四方八方から、拷問装置の如く繰り出されピストンする腕々によってずたずたにコウヤの腕は打撲され、痛めつけられる…が、


「おおおおっ!!!」


雄叫び一閃! さらに精一杯伸ばしたコウヤの指先が、…遂に届いた!!


「せえりゃあっ!!」


掴んだのならばーー後は。伸ばした腕を上方へと引き上げて、フックからその一着をひったくって…まずは一つ目の赤いのをゲット!


「いよっしゃあっ!!!!!」


叫び、喜び、そしてもう一度、コウヤは腕を繰り出して…そして、











「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!」











…ーー少年の叫びが今、轟いた。




     * * *




「………」


「あっ、コウヤ!」



帰ってきた猫の足跡亭…




「まったくもー! なにしてたのさっ」


「えへへ、ボクたちコウヤと一緒に食べた……けふんけふん、お祝いしたくってね?」


「……待ってた」



しかし果たしてアリシア達三人娘はと言うと、そんな言葉もなんとやらでテーブル上に勢ぞろいしたごちそう達の前から離れずフォークとナイフを手に既に臨戦の用意だった。



…今日は特別な日だ。嘗ての聖人の生誕を祝うこの日に於いて、ルクドニアの世界はごちそうを食べたり習わしに肖ってプレゼントをあげたり…とにかくお祝い感一色になるのだ!


そんな訳で猫の足跡亭も、この日を祝う鉱夫とか達で賑わっていて(ご多分に漏れず恋人達の祝日でもある今日に於いてなんで独り身で宿屋に居るのか、というのは……命が惜しければ詮索しない方がよろしい)、そんな彼らの為にレイチェルが用意した特別メニューの絶品のごちそうはさらに千客万来を体現していて……まあ何がどうだ、と言うと、ここもそうした情景の一部となっているという事である。



しかし、しかし、



「……コウヤ?」


「ほえ?」…ん?」






「……………」


戦士コウヤはドア鈴もとうに鳴り終えたその直下で、戦いの終わりを無言で噛みしめていたのだ。












「「ねえっ!!!」」………」


「むっ!?」



そんな少年の黄昏所に踏み入ったアリシア、ノエル、リリスの三人。



「むー、おかしなコウヤ」


「ボクもうおなかぺこぺこだよう」


「…はやく、食べよう」


「わあかった分かった……」


コウヤはと言うと片手をひらひらとさせながら、ーーしかし表情は静かに喜んでいるーーそんな所でもう片方の腕で抱えていた茶色の大きな紙袋を床に下ろして、






「でもその前にっ」


「「「えっ」」」




丁寧に紙袋から取り出した物……それは、









「ほひひ、サンタさんぢゃよ」



「「「あっ!!!!」」」




透明な薄手のビニールに包まれたそれ……ひらひらの小さなドレスがバトン付きで三色。


いわゆるなりきりセット。


…これは今年の魔法少女モノの年末商戦アイテムだ。



「ほえー?」


「ああああーっ!!! アニメ見てるーっ!!」


「…嬉しい」


三人の反応はその様な物である。



衣装を見てみると、赤、黄、青…の三色。


そして衣装の各所に散りばめられている金糸のレースが、主人公達のパワーアップ形態を意味している…らしかった。


(番組の方はというと、今週からいよいよ最終局面らしい)





「「うわーい!!!!!!」」……わーいっ」


はしゃぐ三人。そして…






「………」


……コウヤはリメンバーする。自分が幼き頃の、親たちが与えてくれたプレゼントの記憶を。











初めて自分が買って欲しいとねだったのは、ボンボンに載っていた、対象年齢から大きく離れたリアルスケールのプラモデルだったっけ。











「………、」


そして実感するのだ。自分がプレゼントを与える側になった事を。







「さっそく着てみよう!」


「うん!」「…んっ」


微睡みに耽っていたコウヤだったが、そんな内に話は進んでいたらしく三人はあっという間に着替え終えて、


「「「あなただーけをwatchng'you!」」」



おまけにアニメの主題歌を歌ってみたりして……











「…………にひっ」






そんな少女達に、コウヤは笑顔を捧げたのであった。






     * * *


みんなもお父さんお母さんに感謝しよう!

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