それから
自慢の化粧も燃えて消し炭同然のその姿は、滑稽さこそあれど、醜さを引き立てる最高の絵の具であるらしい。
「…うげーっ」
引っ立てられる盗賊の頭を見て、コウヤは思わずゲロゲロっとなったのだ。
「な、なんだい失礼なガキだね、! ちょっと、ちょっと離しなさいよ! ちょっと!!」
…あんな奴に逆にチョメチョメされるなど悪夢でしか無い。
喚き散らすその声がどんどんと遠ざかって行くのを、そっぽを向いたコウヤは我関せずで聞き流していたのだった。
ーー全てが終わって、冬の空が暮れかけた頃。
「まさかとは思ってたけど、貴方達すごかったのね?」
ヴァリアントから降りたレイラは、集まったコウヤ達を指してそう言った。
「軍も動くはずよ。“紋章の勇者”…万物を司る精霊達によって祝福されし者。てっきり御伽話の存在だと思ってたわ」
「私だって半信半疑だったけど、此処にいるノエルさんの存在がそれを証明してます。そして彼女がそうだと言うことは…」
「おおっーとビークワイエット! これ以上の詮索は控えて下さい」
「「…」」
「今はまだそうだと決まった訳ではないのです。…今は」
…二人を遮ったターシャの眼には、静かな意志が見えていた。
「なんだあ?」
「なんだろうね?」
コウヤの言葉に頷いたアリシアであった。
「いえ? ノエル様を含め、コウヤさん達はまだ大丈夫な事です。安心していて下さい!」
微笑みを返しつつ、仲の良い姉妹みたいに、ノエルを包むように立ちながら言ったターシャである。
「ターシャ?」
それに当人のノエルはよく分からない様子であった。
「なんでもいいさ、ノエルがすごいんだって事しか俺はわかんねえや」
「そうだねー」
「…うん」
コウヤもアリシアもリリスも、ひとまずはそれで納得と言う事だった。
…そして、
「そんな事より、さ」
コウヤはそう言い掛けて、
「あの時一度襲ったのに、なんであんたはフェリアを助けたんだろうなあ。…なあ、そうだろう。〈黒騎士〉?」
「「えっ?」」
驚いたアリシアとノエル。
「……」
リリスもその人物を見ている。
…
……
「…」
…コウヤの目はレイラを見据えていた。
………
「…」
「沈黙は金、じゃ通らないぜ」
「…あの時、私はフェリアを連れ去るつもりでいた。泥棒の上前をかっさらう、て言えば分かるかな?」
眼鏡の奥のレイラの目は、よく分からない。
「それでどうするつもりだったんだ?」
「フェリアを連れて逃げれるところまで逃げて…それ以上は考えてなかった」
「誰かに助けて貰うとかは」
「誰もアテになんて出来なかったわよ。何が目的で、誰が、どれだけ関わっているのか。…私は今ですら計画の全体は掴めて無いのですから」
陰謀の歯車に巻き込まれたレイラは、…余りにも無力だったのだ。
「…、」
続けて口を開け掛けたコウヤだったが、
「それ以上はやめてくださいっ」
「ん?」
掛けられたその声に振り向いた時…コウヤは、着座した〈バレン〉のコクピットから、目覚めたらしいフェリアが出てくるのを見たのだった。
「おお、フェリア!」
「「フェリアちゃん!!」」
無事そうなその姿に、喜びに湧くコウヤとアリシア、ノエル。
「みなさんありがとうございました。おかげで間一髪です!」
「それ言うなら、危機一髪だろー?」
「あはは、そうかもしれません…」
髪を掻きながら返してくれるフェリアを見て、コウヤもいつもの調子に戻る事が出来たのだ。
「…フェリア」
それをレイラは、遠くから見ていた。
「……レイラっ、ありがとうございました!」
「なによ、私は裏切り者よ? 今更主従のつもりなんか」
「いえ、それでもお礼だけは言っておきたいんです。…本当に」
「やめて!」
「!」
「…ごめんなさい」
「…」
「…もう、お別れなのよ」
「……レイラ」
…レイラは、フェリアから離れるつもりでいた。
どんな理由であれ、一度フェリアを裏切った自分が彼女の側に居れる資格はもう無いと思っているのだ。
それは彼女なりのけじめであったし、自身への当然の報いとも考えている。
「…ぁ」
それでも、フェリアのレイラを見る瞳は…
「……」
「…いけませんね、謝るのは私の方なんですよ。ずっと、レイラに辛い思いをさせていたのですから」
口を開いて、フェリアは、
「? 何を言って、」
「……私、乗り物にも強いみたいですっ」
「!」
…気付いてしまったレイラ。
「まさか、あなた」
「全部、聞いてました」
「……あ」
「私、本当に駄目な子ですね。私が理由でレイラを悩ませていたのに、ずっと想ってくれてたのに…力になれなかった」
「フェリア」
「全部、私の思いこみだったんです。何一つ力になれない癖して、勝手に分かったつもりになっていて、…思いこんでただけなんです。……」
「…フェリアっ」
「………ぐす、ひっぐ、れいらぁ」
「…」
「…泣かないで、駄目なのは私の方」
「…レイラ」
「だって、約束だから、貴方を護ることは約束なんですもの。ーー貴女との約束。約束を守るために…私は、でもっ」
「私も思い出しました…約束、」
「!」
「レイラ!」
「“ずっと傍にいてほしい”!」
「だめよ、だめなのよ…」
「これ以上側に居ると、貴女を愛しすぎてしまう…」
「いいんです。…いいんですよレイラ」
そして二人は…一緒になった。
フェリアがレイラを抱きしめて…それはいつまでもの、再びの絆の始まりだった。
「…お、おう」
たじろぐコウヤである。
というのも、今の二人からは…何というか禁断の香りがするのだ。
それは…そう、百合の様な。
「? ?」
よく分かってないけどニコニコ顔のアリシアであった。
……日は暮れきって、西には、そびえる山脈をシルエットにして太陽が最後の輝きを放っている。
白い山峰に夕日の輝きがきらきらと照り返していて、それは中々の絶景だった。
そんな折り、気付いた様にコウヤへ向き返ると、フェリアは、
「コウヤさん、レイラと私を助けてくれてありがとうございましたっ」
「え? ああ、まあ良いって事よ。事件は終わって、みんな無事だった! それでいいやな、うん」
「はい! …それでですね、私も、ほんの少しお礼がしたいんです」
「? 礼なら今言って…」
不意に、コウヤの口へフェリアのそれが、塞ぐように重ねられたのがその時だった。
「…!?」
「「「!!!??」」」
「ほえー」
………
……事件はお姫様のキスで終わるのだ。
………
「…男の人にするのはこれが初めてです。私のファースト・キスですよ?」
「え、あ、ああ。ありがとう?」
余りのことに分かってないのか、コウヤは尚も呆然としている。
そして一拍置いて、
「こ、コウヤーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
怒髪天のアリシアに、
「…う、うーっ……」
真っ赤になってボン、と頭から煙が噴いたリリス。
(…ボクもコウヤとしてみたいなあ、でもなんでだろ?)
その思いを胸に仕舞って、笑顔のノエル。
「あ、あ、あ、…フェリア、貴女はねえっ!」
レイラはハンカチでも噛み千切らんばかりの剣幕であった。
「「「むーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
「え、えへへ、役得っつうかなんつうか、…えっ、ちょっと、皆さん? ちょっと待ってって、待って、待ってっっ、アッーー!!!!!!!!?」
「…ふふっ♪」
そんな光景で、フェリアはくすくすと笑って見たのだ。
〈了〉




