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ノエルとの一幕






「ただいまーっす」


ある日の昼下がり、鉱山の勤務を終え帰ってきたコウヤである…が、


「うーん?」


…猫の足跡亭のホールを見渡してみてもアリシアがいない。


そんな時、カウンターの向こうにいるレイチェルがコウヤに気付いて、


「アリシアちゃんなら福引き回しに行ったわよー」


「なんだそりゃ」


福引きのガラガラを回す事はアリシアの好きなことの中でも上位に入る。

そのため、いつもアリシアはふくびきけんを手に入れる為に買い物はベルデの商店街で済ませているのだ。


……しかし、


「今日もトイレのストックが潤うかなっと」


「そういえば今日こそは当たりを取る! って気合入れてたわね」


「あいつ、トイレットペーパー以上の景品持って帰った事無いもんな。まあ、いつも通りだろ」


…余談を続けさせて貰うと、貰ってくるのはいつもトイレットペーパーばかりであった。


そんな訳だったが、ともかく遊び相手が居ない。


「ふーむ…」


少々つまらないという事で考えに唸るコウヤだった。


「どうやって時間潰すかなあ」


なんなら接客中のレイチェルの手伝いでもしようかと、愛用のエプロンを取りに階段を上り掛けた…その時


「おじゃましまーす!」


がたん、と扉が開かれて、ドア鈴がからんころんと鳴る中響いた明るい声である。


「おお!」


「今日も来たよ!」


…振り返るとノエルがいた。


「悪い、今日はおやつ作れてないんだ」


「へっちゃらだよっ。コウヤの側にいれるのが一番なんだもん♪」


「そうは言っても、本当に大丈夫か?」


「大丈夫大丈夫ー♪」


そう返したノエルが数歩歩を進めたその時、


「おっ?」


…ぐぅ〜っ、っと大きなお腹の鳴る音が。


「…あっ…」


自身の腹の音にノエルは顔を真っ赤にした。


「…」


無言で悪い表情になるコウヤである。


「あ、あはは…」


「まあ待ってな。パスタでも作ってやる…って、そういえば」


ふと思い出したコウヤ。ジャケットの内ポケットに紙袋に包まれて入っていた、おやつ用に買っておいたそれを取り出して、


「あっ、ベルデのホットドッグだあ!」


「そうだぞー」


前回の鉱山探検の際にノエルも食べたことのある味であった。


「はいよ」


「うわはああ…!」


半分こにしたホットドッグの半分をノエルにあげて、


「それじゃあ、いただきます!」


はぐ、と大きく一口を食べたノエル。そしてその時、ぱきん、と粗挽きのソーセージが割れる食感が響いた。


「ほいひ〜っ!」


「もぐ、あそこのスタンドの奴旨いんだよな、んぐ」


そんなこんなで数口で食べ終わり、


「ごちそうさまでしたあ!」


「おそまつさんっと」


腹を満たす事の出来たノエルとコウヤである。


「これから何しようかなあ?」


ケチャップでべとべとになったノエルの口周りを、取り出したポケットティッシュで優しく拭きながらコウヤが聞く。


「コウヤと一緒に遊ぶ!」


溌剌と答えたノエルだった。


「じゃあ何して遊びたい?」


「えっとねー…」


んー、とノエルは考え込み、


「えとねー、…おいしゃさんごっこ!」


「それはあかん」


「?」


…ーー幼女とのおいしゃさんごっこ。


危険な香りを感じて全力で回避するコウヤである。


「ま、まあそれはともかくとして、ウノでもやるかウノでも」


「うー…」


そのコウヤの提案にノエルは不満げのようで?


「どっどうした。ウノだぞ。俺が唯一勝てるカードゲームだぞ?」


「だってコウヤ弱いんだもんー」


「ぐさっ!」


その言葉の持つ威力に仰け反るコウヤだった。


「だいじょうぶ?」


「うう……薄々自分でも気づいていた事をストレートに言われたから、これはダメージがでかい」


…中々に深手と言えた。


「それじゃあおまじないしてあげる!」


「んっ?」


そう言って、ノエルはとりあえず抱きつく!


「おいおい…」


「昔姉様に教えて貰ったの。大切な人とのおまじない…」


さらにぎゅっ、と抱きしめてきたノエルである。


「コウヤーっ…♪」


「お、おい」


両腕でコウヤの肩を抱きしめてきて、そして自身の胸元にくっつけた頭をくりくりとしてくるその様子に、人懐っこい犬の様な、とコウヤは思ってしまった。


「えへへへ」


「ったく…」


スキンシップが過ぎるノエルだった。


その情景を、レイチェルと客達はによによと見ている。


ーーそんな時である。


「ん?」


がたんと鳴ったドア鈴の後、…扉が閉まる音が聞こえない。


どさり、と言う音に玄関を見てみると、そこにはトイレットペーパーの満載された袋を落として、夫の逢い引きの現場を偶然目撃した新婦のような顔のアリシアが呆然と立っていたのだった。


「「…あ」」


「……」


…一拍の間。


そしてアリシアの前髪がはらりと揺れて、


「……むううううううううううううううううーーーーーーーー〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!」


「わっ、何するアリシア。ちょっ、やめろ! 普通に痛い!!」


猛烈な勢いで突進したアリシアはノエルとコウヤの間をがばっと引き離すと、そこに自分の身体を割り込ませた後、コウヤをたこ殴りにし始めた!


「ぐえ、ぎゃあ!」


「あわわわ」


されるがままにしか無いコウヤと、何時にないエッジの利いたアリシアの行動に慄くノエル。


「すっごいの引いちゃったから大急ぎで戻ってきたのに、あなたって人はあーっ!!!!!」


景品でそれを手に入れた大喜びの感情がそのまま怒りにとなって、とにかく激怒するアリシアだ。


客もレイチェルも、呆気に取られてそれを見ている。


「あらあら」


最後にレイチェルはうふふと笑って、今まさに第二ラウンドへ移ろうとしているアリシアの一人総合格闘技大会の観戦を続行したのだった。


     * * *


スキンシップ(意味深)

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