おふろのはなし
「おふろに入ろう」
「いきなりどうした」
昼下がりの猫の足跡亭。
今日も今日とて皆で集まっていたのだが、アリシアがそう切り出したのがその時だった。
「おふろ?」
「…んぅ」
「そうなの」
「はーあ」
尚も話は続きそうだ、とコウヤ。
「“裸の付き合い”という言葉が遠く東洋のことわざにあるように、ここは一つ、部員同士の親睦を深める為に必要なのではと私は思ったのです!」
「おおーっ!」
「…」
「へえーっ」
要するに只の思いつきである。
「……、」
ここでリリス、“嫌”を示すように身じろぎ一回。
「ん?」「あれっ?」
それにコウヤとノエルが食いついた!
「リリスちゃんおふろ嫌いなの?」
「…浄化魔法でなんとかなる」
「ほーお?」
その言葉を聞いたコウヤ、悪い表情になった。
「よしっ、俺も賛成する!」
「ボクもーっ!!」
「…え゛っ」
コウヤとノエルの表明に、かわいそうな位狼狽えるリリス。
「それじゃあ決まりだね!」
「「おーう!!」」
「…うーっ」
…尚もリリスは不満そうであったが。
* * *
「おっふろーっ!!!」
「おふろーっ!!」…うーうっ」
早速やってきた四人。
猫の足跡亭の風呂とは、建物の裏手の川を望む露天風呂である。
運が悪いとくたくたに汚れまくった鉱夫や冒険者の入浴によって泥色になってしまってたりするのだが、この日は運良く綺麗なままであった。
「…、」
逃げようとしたリリスだが、
「待ーて」
「……」
コウヤに捕まってしまった。
「〜〜!」
「にーげーるーなーっ!」
じたばたするリリスに食らいつくコウヤ。
「洗いっこしようノエルちゃん!」
「じゃあボクはコウヤを洗う!」
「待て待て、まずは髪を洗ってからだ」
「分かったー!」
リリスを観念させて、コウヤはノエルの洗髪へ早速取りかかったのである。
…が、
「おーっ…」
髪を洗ってもらっている間、対面で、しかも椅子に座っているので丁度コウヤの股間のそれを見る形となったノエルは…
「あっコラ! バッチいモノを気にするんじゃありません!!」
「? きたないの?」
「そうじゃないけど!! とにかく君は女の子だからねえっ!?」
「おもしろーい!!」
「やっやめっさわっ触るんじゃっあっあっひゃんっ変な気分になっちゃう、んっ…アッ」
「あははっ!」
コウヤの反応を見てさらに面白がるノエルであった。
…一方のアリシアは、
「これで…」
一拍置いて、
「よしっと」
…アリシアは愛用のシャンプーハットを装備していた。
「これで安心だよっ」
そう言って、アリシアは洗髪に着手したのである。
そしてその頃、
「仕返しだーっ!!」
「きゃあーっ!」
ざばーっとシャワーを浴びせて、ノエルの頭の泡を洗い流したコウヤ。
「このこのこのーっ」
「えへーっ」
ざばざばと洗い流してやって、最後に手櫛をすいて整えたのである。
「おっ?」
…そんな時、目に付いたのは、
「…」
お湯の出るシャワーを持ったまま、立ち尽くしているリリスの姿。
「全く、しょうがねえなー」
「コウヤ?」
そう言うとコウヤはノエルから離れて、
「そらよっと」
「あっ」
リリスの手からシャワーをひったくると、
「ほら、座りな」
「…んぅ」
促されるまま、渋々と椅子に座ったリリス。
「こうされんの嫌か」
「…ルクレシア以外だと、」
「ん?」
「……ルクレシア以外だと、あなたが初めて」
「そうか…眼え閉じときなっ」
「あっ、きゃっ」
リリスの髪をお湯で濡らしていくコウヤ。
「案外平気そうじゃん」
「…お湯が、苦手」
「そうなのかあ…シャンプー行くぞー」
「わっ…わっ」
「にしし」
丁寧にリリスの髪を洗うコウヤである。
「いいなー」
「ほおほお」
羨むノエルにアリシアはなぜだか得意げで?
「順調に裸の付き合いを深めていて…私の意図通りだあね!」
「意図だぞアリシア」
イズイットミストーク。
それから、お前の頭も洗ってやろうか、自分でするから良いーっ!! とやり取りが続いて、
「もうこれで終わりだもんねっ」
最後に洗い流すと、きゅぽんとシャンプーハットを取ってアリシアの洗髪は終わった様だった。
「もうちょっとで終わるぞー」
「…んん」
リリスの洗髪も後ちょっとで終わりと言う所であり、
「そーれそれよっと」
「んんっ」
最後にそれだけ洗い流して、リリスの分も終了であった。
「さあて、最後は俺かい?」
そうして一人残ったコウヤが椅子に座り、髪を洗おうとした時…
「ん?」
急に視界に肌色が。
「…」
顔を上げると…
「「…にしし」」…むう」
悪い表情になった三人が待ちかまえていた。
「な、なんだ」
「ふふーん!」「洗いっこだもん♪」「…やられたらやり返す」
そう言いながら三人はにじり寄って…
「あっこら、やっやめ、アッーっ!!!!」
新たなおもちゃを発見した三人によって、風呂場の嬌声はしばらく止みそうになかったのである。




