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機甲見聞録1.0  作者: もにもに+マウンテンヘッド
後ろ払いなマイニング・アクト
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後ろ払いなマイニング・アクト 後編


     * * *





「坑道の中に逃げ込んだ!?」


少ししての、駐機場。


集められたコウヤと第16班のヴァリアント乗り達を前に、トーマスは対策会議を開いていた。


「相手の目的は何です?」


「分からん。しかし追っていた軍警察の言い分だと、盗難されたヴァリアントに乗り込んでいるそうだ」


そういう事であって、街で軍警察の追跡から逃げていた彼らは進退窮まって運河向こうのここまで来てしまい、そして第三サイトの坑道に飛び込んだのが先ほどの事だった。


「ヴァリアント泥棒が、ヤキが回って逃げてきた…と」


「かもしれん」


うーむ、と唸る様な沈黙が落ちる。


「…当該の坑道からの鉱夫達の避難は終わっているのでしょうか」


静かなジェイドの問いに、


「ああ、人質に取られるような心配は無い。なので軍警察のヴァリアント隊の到着を待たず、我々が奴を取り押さえようと思う」


「出来るのかよ?」


「出来るさ。何しろこっちには警察のヴァリアントも比べものにならない、無敵の〈パラディン〉様がいるんだからな!」


ロックだった。


「俺かい!?」


「まあそれもあるが、早く手を打たないと坑道内部で何をされるかが分からないと言うのがある。

…奴さんが逃げ込んだ坑道には引火性の有毒ガスが出ている箇所もあって、ヴァリアントを乗り捨てた相手が最悪の場合もあると思われる。俺たちの職場で死体を回収する様な事は嫌だろう?」


「まあ、そうだけどさ」


それには同意出来るコウヤだが、


「まあ、そうなりゃ俺に任せてくれ。久々のヴァリアント戦は腕が鳴るっ」


「そういやロック、昔のお前は乱闘の常習犯だったな。暴れる度に手を焼かせてくれた…」


「言いっこ無しだろデューイ、可愛い後輩の前で無様な真似はしないさ」


キザに決めたロックである…が、



「可愛い後輩って、誰だよ」


「「「「「………」」」」」


そのコウヤの言葉に一瞬の間が落ちて、


「「「「「…わっはっはっはっはっはっはっ!!!!!」」」」」


「な、なんだよーっ!」


「まあいいさ、ちゃっちゃとやって、定時通りに終礼と行こうぜ」


「そうだなっ」


「助けるなんて微塵も思わないけど、ホットドッグの敵はとっちゃる!」


そのコウヤの台詞に、見守る大人達の目線はさらに微笑ましげな物になった。


     * * *




所変わって、坑道の中…


であるが今コウヤ達がいるのは、相手が逃げていった坑道その物ではなく、その下を通る第二サイトの坑道であった。


「〜♪♪〜♪〜♪♪〜♪〜」


只今コウヤの脳内では、GUNHED#1のテーマがヘビーローテーションで流れっぱなしである。


《イカしたBGMじゃねーか、なんて言うんだ?》


「ガンヘッドのサントラ…つっても分からないか。まあ、分からないなら分からないで良いよ」


《なんだそりゃ?》


ご機嫌に鼻歌を再開したコウヤに頭を捻るロック。


他にはサムも居るのだが、しかし此処には他の三人はいない。


…デューイとヘレン、ジェイドは頭上の第三サイトの坑道を前進していて、現在、相手達を奥へと追い込んでいる真っ最中なのである。


こうして追いつめていってその後どうするかと言うと、先ずコウヤ達はここからしばらく奥にある、この坑道から上の坑道に通じるリフトを使って上昇。

そうして相手達の前方へと現れて、前後から挟み撃ちにする…という算段であった。


《まあいいさ。テーマソング付きたあ、あやかりたい!》


「それ全滅フラグだっての」


まあその小説版ではバーニィは生き残ったが?



話を戻すと、前方を行くヴァリアント〈リンクス〉に乗り込んでいるのがロック。

そしてこの〈シロガネ〉の隣を歩行しているのがサムの乗る〈サンダー・キャット〉だ


両機とも作業用の機体であり、戦闘能力は皆無に等しい…が、


《ふっふっふっ…》


《へっへっへっ…》


とにかくもまあ、二人は燃えていたのだった。


(大丈夫かねえ…)


まあ相手は作業用ヴァリアントが二機、この〈パラディン〉型たる〈シロガネ〉の敵ではない。

いざとなったら自分一人で何とかするつもりのコウヤであったが。…そして、


《リフトだ!》


ホール状に大きく開けた場所が横手に現れて、その奥に目当てのリフトはあったのだ。



《乗り込んだか?》


《何が悲しくて、野郎三人で満員のエレベーターに乗らにゃあならんのか…ジェイドさ〜ん!》


《置いてくぞオイ!?》


「はああ…」


まあそんなのも挟みつつ、リフトで上昇。


ーーモーターの作動する轟音に揺られながら、たっぷり一分。


《ビンゴ!》


「おおっ」


低重音と共にリフトが上がり切ると、そこから少し先の、横坑同士の合流地点に、相手達のその姿を認める事が出来たのである。


ーーまだ気付かれた様子ではない。


「う〜…」


一瞬溜めて、


「わんっ!!」


《!》《!》


吼えた〈シロガネ〉に、こちらに気付いた二機はたじろいだ。


《大人しく降伏しなっ!》


《ベルデの鉱夫は怒らせると怖いぜえ!!》


続いて一斉に構えた仲間達に、目前の二機は可愛いくらいに慌てふためいている様だった。…しかし、


《あっ!》


次の瞬間には分岐路の先へと一機が逃げていって…もう一機は居残ってこちらを牽制している。


《チクショウ、逃がすかあっ!!》


逃げた一機を追いかけるサム。しかし目前の一機が、その直前で立ちはだかろうとした。


…だが、


「どーすこい!」


《!》


同時に飛び出していたコウヤ、相手に体当たりを浴びせた!


《サンキュウ!》


「にっ」


こうしてサムは、もう一機を追いかけていく事が出来たのだ。


「さあーて、どう動いてくれるかな?」


《…》


再び距離を取って…にらみ合う、緊迫の瞬間である。


「…、」


《……、》


こちらから見て相手の後ろのデューイ達と示し合わせて、次の瞬間にはコウヤ達は一斉に飛びかからん、というタイミングだった。


《…》


しかし、すると相手は、見たことも無い構えを取った。そして…


《ぐわっ!?》


「くっ」


弾かれた様に動くと、拳法の様な動きで攻撃を浴びせてきた!


《なんだコイツは!!?》


「コイツ、やけに手慣れてるっ!? ーー…!」


次の瞬間には〈シロガネ〉にも攻撃が見舞われて、コウヤも下がるしか無かったのだ。


《…ーーーー!》


まるで、嗤っているようだった。高笑いを上げている様でもあった。


その圧倒的な勢いでこちらを制さん、とばかりだった相手。ーーしかし、である。


「てやあっ!」


《!》


コウヤが食らい付いたのだ!


「これなら行ける!」


《〜〜!》


〈パラディン〉の性能のまま、このまま撃破出来そうだ、とコウヤ。


しかしそう思ったのも僅かな瞬間で…二、三手組み合うと、相手は、


「お、おい!」


逃げて行った。


「あっちにはサムが居るぞ!」


《だったら話は早い、挟み撃ちだ!》


「おう!」


そうしてコウヤ達は、坑道の奥へと向かっていった。




………




男は混乱の中に居た。


何故〈パラディン〉型がここに居る! もっともな反応である。

                        ・・

相手が相手だ。出力任せに押さえ込まれては、自分の手品も通用はしまい。…そう考えて、男は逃げの一手であった。


このまま進めば相棒と合流できる。そうなれば仕切り直しだ。

一体の作業用ヴァリアントがその中間にいるが、まあ敵ではない。なんとでもなるさーー



そう思いかけた時、男の視界の前方に、その〈サンダー・キャット〉の姿が見えた。


《……−ーーー!!…》


高笑いを上げた男である。


そして突っ込む勢いのまま、男は戦闘機動コンバット・マニューバの内に捉えようとした…



が、


《ほお》


放たれた動きをサムは手慣れた機動で回避すると、彼も同様のコンバット・マニューバを見舞ったのだ!


《さ、作業用ヴァリアントの動きじゃない!? ーーぎゃあっ!》


すれ違い様にたたき込まれるように放たれたその一撃に、弾かれるように転がり打ち付けられるしか無かった男は、そのままに機外へと放り出されてしまったのだ。


《その動き…ーー確かめたい事がある」


何を思ったのか、サムも機外へと出ると男の元へ駆け降りた。

そして男の首を掴むと、身動き出来ない様に制圧した!


ーーしかし次の刹那、


「坊ちゃん、坊ちゃんじゃないですかい!」


「!」


…サムは驚いた様だった。


「…誇り高い暗殺教団の戦士が今やこそ泥か。落ちぶれたもんだな」


「坊ちゃんこそ何をしてたんですかい!? 三年前に俺たちから飛び出していって、それから行方知れずだったのが、どうして」


「俺は見聞を広めていた。…あの中では見えなかった事が見えて、色々経験する事が出来た」


「さ、サミュエ…」


「その名前で呼ぶな!」


さらに強く、地面へと男の首を打ち据えた。


「俺はここでの暮らしが気に入ってるんだ。それが厄介を持ち込んでくれて…よくも俺の仲間にちょっかい出してくれたじゃないか、ああ?」


「ひ、ひぃ…」


「運が悪かったと、あの世で後悔するんだな」


そうしてサムが、男の首を折ろうとした…



「サあムっ」



「!」





…コウヤであった。


「捕まえたのかっ」


「あ、ああ。」


「そうか、良かった」


コウヤはほっ、と一息吐いた様だった。


「ぼ、坊ちゃん」


「…俺の守護天使に免じて赦してやるよ」


男を見下ろす瞳は、


「ーー運が良かったな」


どこまでも、闇の色だった。




………





残された相手は後一機!


コウヤの脳内BGMが、劇場版一作目の“箱船突入”に切り替わる。


《お、おい。突出するなコウヤ!》


「へっへーん、俺一人で片づけてやる♪」


機体を走らせながら、ロックの心配に威勢良くそう返したコウヤ。


この分ならおやつを作る頃には猫の足跡亭に帰れているだろう、…そんな具合にコウヤは浮かれていたのである。


「さあて、どこに居るかな?」


そして坑道の最奥層にたどり着いて、歩を進めながら辺りを伺っていくと…その時、


《ーー!》


「おおっと!」


横合いの影からそのヴァリアントが飛び出してきて、コウヤの〈シロガネ〉にハンマー・ナックルの攻撃を浴びせてきた!


ーーしかし、


「ヴァリアントは心で動かすんだっ!」


怯む様なコウヤでは無い。広げた両の手でその腕を受け止めると、返す勢いで押し出した!!


《〜〜!?》


「へっへーんっだ!」


そして背後の坑道の壁へと相手が激突して、その反動で前方へと転倒!

崩れた土砂がその背部に掛かる中…ハッチが開いた。

ヴァリアントが擱座した事で、相手は機体から出てきたのだった。


「…女の子!?」


ーーこちらを忌々しげに睨み付けるその人物は、少女というべき年頃の者であったのだ。


しかし次の瞬間には、


「わわわっと!」


「〜〜!!」


コウヤの〈シロガネ〉に向かい、滅茶苦茶に魔法の攻撃を放ってきたのである。


「このお、こいつっ、怒るぞっ!」


「〜〜〜!!!」


尚も怯まず、魔法を放ってくる相手にタジタジのコウヤであった。


…とにかくもこれでお終いだ。


コウヤが取り押さえる為に一歩進んだその時。ふと、足下の要注意、を表すオレンジ色の立て看板が目に付いた。


ーーそういえば此処は、


「! ガスが…」


制止する間も無く、相手が火炎魔法を唱えて、


「あっ」






ーー爆発が起きた!






「があっ」


一瞬の衝撃波に、直後立ち広がる火炎、爆風が炎の息吹となって〈シロガネ〉を襲う!!


「…‥‥っ‥…!」


《コウヤ!》


「大丈夫! でも奴は…」


刹那、さらに広がる火勢を前に、コウヤは一瞬、迷う。


(……!)


まるで、炎の中に居るような感覚だった。


スクリーンとなっているコクピット内の全面に映し出されるその光景は、こちらがヴァリアントの中にいると言うのに甚だ恐ろしいばかりで、コウヤの心の中には、炎への恐怖がさざ波の様に立っては消える…


「…あ」


火勢の向こうには、この状況を引き起こした原因たる相手の姿も居た。


ーー彼女も炎に恐怖している様だった。


そして、命の灯火が弱まる様に、その姿が陽炎に掻き消えていって……


(……、っ)


立ちすくむしか、なかった。


この瞬間、コウヤは無力だったのだ。



(…どうする…)


自分は、何も出来ない。


そう思いかけた時…


「……っ」



過ぎったのは、あの時のリリスの姿だ。


リリスが入部して、初めての鉱山体験。坑道で火災が起きて、自分も一緒に救助をしたあの事件。


あの時の彼女は勇気に溢れていた。今になってそう思う。


彼女には魔法と言う力があった。あの時はみんなも居た。だから自分もやれた。


今の自分はひとりぼっちだ…








そこまで思ってふと思う。



ーーはたしてそうだろうか。


「…、」


自分には力がある。


そう、今この瞬間、コウヤは一人じゃない!


ーー手を握りしめて、機体の、相棒の感触を確かめる。



…落ち着け、冷静になれコウヤ。目前の状況はなんだ。ヴァリアントが炎如きでやられる筈が無いじゃないか。


一歩だけ踏み込んで、そしてコウヤは力を込めた。…救い出す。それだけの事だ。





(シロガネ…俺に、勇気をっ)






「ジェロニモーっ!」



迷いを振り切って、コウヤは突入した!



     * * *






しばらくして、煤まみれになった〈シロガネ〉の姿が、皆の待つ坑道の入り口にあった。


「…ふうう」


なんとか間に合って、コウヤは少女を救助する事が出来たのだ。


「〜〜!!」


「おっ、あっ、おっ」


コウヤがその手から降ろすと、少女は地上で待っていた男の元に駆け寄って、そこで糸が切れた様に大泣きに泣き始めた。


「なんだったのかね」


「…さーな」


何か込み入った事情があったようだが、それはコウヤ達の預かり知らない事であった。


「それはともかく、だ。お前っ、心配したんだぞっ」


「そーだそーだ!」


「ごめんよ、みんなっ」


そのコウヤの表情はしかし、悪びれの無い物であって、


「…ごめんで済むかっ」


「全く…」


「まあその辺でやめておいてやれ、俺たちも終業の時間だ。おうちに帰るんだぞっと」


「なんだよ子供扱いしてー!」


「子供じゃねーか」


「「「「あははははははっ!!!!!」」」」


「ちくしょーっ!?」


とにはかくあれ、今日も賑やかくこの日の勤務を終えたコウヤであった。











………











ーー帰宅して、猫の足跡亭。


「…」


「み、ミーちゃんがやったんだもん」


開いたままの扉の前で、コウヤは呆然としていた。


と言うのも無惨までに部屋の中は…子猫のミーが荒らしたのである。


「……」


「こ、コウヤ?」


…尚も沈黙は続く。


ミーは余程暴れ回ったのだろう。

…子猫ながら元気はすこぶる良かった様で、床に転がった〈パラディン〉のプラモなんかは首と胴が泣き別れとなっている程だった。


〈パラディン〉のプラモの箱の美麗なボックス・アートも、爪とぎに使われたのかボロボロになっていて、しかも小さな歯の痕まである。


「…おまえーっ!!!!」


「ミーちゃんがやったんだもん!?」




後悔後に立たず。


そして二人を見ていたミーは興味なさそうに、にゃあおん、と一鳴きしてみた。


〈了〉

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