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機甲見聞録1.0  作者: もにもに+マウンテンヘッド
後ろ払いなマイニング・アクト
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後ろ払いなマイニング・アクト 前編







ある日のこと。


「…ふっふっふ」

                               ・・

正午も間近と言う頃、自室に籠もった小田桐コウヤは、出来上がったそれを手に充実の笑みを浮かべていた。


手に握られている“それ”とは…1/48(ヨンパチ)スケールの、〈パラディン〉のプラモデルだ。


ディフォルメされた人間のシルエットがバンザイをしている図柄がトレードマークの、あるメーカーから出ている物なのだが、


「…むふふっ」


的確なプロポーションに高精度の成形技術。そして間接部にはポリキャップを使用している事による高いアクション性…と、まるで元の世界のガンプラを思わせる出来に、思わずコウヤもにまにまが止まらない。



…コウヤが座る机の周りには、放り出したままのプラモの箱や部品を切り出した後のランナーが散乱していて、その事から、この少年がこまめな片づけが苦手なのだと言う事が伺える。


まあそんな事は今のコウヤの頭には無かった。

窓からの光に手の中のそれをかざして、影を浮かばせて立体を堪能してみたり…


「……」


口で小さくドドン、DOKDOK、ゴゴゴゴゴ…と効果音を付けながらポーズを付けて遊ぶ、所謂“ブンドド”をしてみたり。


「………、」


楽しい、止められない!


この世界でもプラモ道楽が出来る事を、コウヤは神に感謝していた。



ただいじっていて一つ難があるとするならば、このパラディンはリントウェール軍の正式カラーである薄緑を基調とした成形色である為、自身の〈シロガネ〉の白色では無い、と言う事位か。


しかしそれも次の休みには解決する。少々値は張るが、有害な成分や嫌な臭いが全くゼロに近い、新しい模型用塗料の噂を知ったのでそれを購入するのだ!


だが、馴染みの店の主人が問屋のデッドストックを確保してくれた、ゾ○ド・ゴ○ュラ…げふんげふん。大きなボディーに背びれが特徴である恐竜型の、その組み立て式玩具シリーズのシンボル的な存在のキットも早い内に引き取りたい。

この街の玩具店であるショップ・マッダー(茜)には本当にご贔屓にさせて貰っていた…


「…」


そう思いかけて、部屋を見る。


「…………」


…ギルドの給与は週給制なので手持ちの資本には困らないとは言え、置けるスペースの問題は非常に切実であった。





「…………ん?」


そんな時、思い出した様にコウヤは時計を見て、


「あっ、やべっ!」


世間では祝日である今日も、鉱山ギルドの一員たるコウヤには仕事がある。

今日は午後からの勤務の為、時間があったので模型の製作が出来ていた。


名残惜しいが、日々を充実させるにはおぜぜを稼がなくてはいけないのだ。


「さあて、間に合ってくれんとっ」


慌ただしく部屋を後にし…扉は開かれたままとなった。



     * * *




馬車鉄道の鉱山駅から駐機場までは、歩きで三分程掛かる。

そして目抜き通りの駅で、目前で一本乗り逃がしてしまった為、遅刻の合計時間は五分近い物だった。


「やっべええええっ…」


そんな訳で焦るコウヤ。停車し終えるのを待たず、客車がプラットホームに入った瞬間乗降口から飛び出していったのだ。


「そりゃあああああああっ!」


コウヤは走る。とにかく走った!


「はあ、ふう」


その甲斐あってか、駐機場にたどり着いたのは、昼の点呼が丁度終わろうか、というタイミングだった。



「遅くなってすいませんでしたーっ!」


精一杯、声を張り上げる。すると彼らも気付いたようだ。


「おお、コウヤ!」 


何列かに整列する一団の、前列の向かって左端の青年がまずは声を掛けた。


「遅刻たあ珍しいじゃねえか。アリシアちゃんといちゃついてたのか?」


「んな訳あるかよ、プラモ作ってたら遅れちゃった」


「あっはっはっ! お前らしいやなっ」



陽気に返してくれたこの男…ロック。この鉱山でのヴァリアント乗りとしての乗務経験は五年で、まあまあ中堅といえた。

人好きのする性格であり、コウヤも親しくさせて貰っている。


                 ・・・

「なんだい全く、このろくでなし共の悪いのがコウヤに移っちまったんじゃないかと思ったよ」


「大丈夫だよヘレン、俺はいつも通りさ」


「なあっ!? お前もコウヤも言ってくれるじゃないかっ。遊べるときは遊んで、美人さんを見たら必ずお近づきになって、洒落っけ心をどんな時でも忘れないのがトリエステ男の流儀だってのに」


「そうだそうだ!」


「全く…」



次に出迎えてくれたのがヘレン。皆からは姐さんとかと呼ばれている人物だ。

…と言ってもそれは面白がっての物で、本人は結構繊細な女性であってコウヤ達も穴があいたボロの防護ジャケットなどを良く直して貰っている…そんな人だ。



「ということでジェイドさあん、後でお茶しない?」


「…残念、俺はこぶ付きだ」


「美人には関係なしですよーっ!」



懲りずにジェイドにコナをかけているのがサムである。彼は冒険者からの転向組であり、ヴァリアント乗りとなっての日にちはまだ浅い。


中々ハンサムであって冒険者時代はガールフレンドに不自由しなかったそうだが、今はジェイドにご執心だった。



「お前等、そろそろ話を戻してくれんか…所でヘレン、ろくでなしの中に俺は入ってないよなあ?」



最後にまとめたのがデューイ。勤続十一年のベテラン!


…皆のとりまとめ役としていつも苦労をしている。



この五名にコウヤを含めた計六人が、ベルデ鉱山ギルドのヴァリアント第16班である。


他にも交代分のメンバーはいるのだが、六交代制、二十四時間操業のこの鉱山で、主に昼時にシフトを入れている上記の五名がコウヤの馴染みであった。



「そこまで、そこまでだ。コホン…全員揃ったし点呼は終わりとするっ」


そう声を掛けるトーマス。


トーマスはデスクワークだけでなく、こうした従業員との直のコミュニケーションも大事にしているのだった。


「それでは改めて…安全第一! 無事故無災害を心がけよう。いいな?」


『おうっ!!!!!!』


そうして点呼は終わり、搭乗員各員はヴァリアントへと乗り込んでいったのだ。




………




時間は流れて中休みである。


「よらよっと…」


場所は駐機場で、足下を見ながら機体を操作するコウヤ。

砂利敷きの地面に引かれている停止位置を示した白線で停めさせて…そして着座の姿勢へ。


「ふうっ」


最後にハッチを開けて、吹き込む風を感じていつも通りのシーケンスは終わりだ。


そこで集中を解いて、コウヤは〈シロガネ〉との精神リンクを切断。

手足のアーマースティグマも消えて、自身と機体の同期は終了した状態である。


シートから腰を降ろして、脱いだヘッドギアを座面に置いて、


…そして機体からの降り際、


「おーい!」


「ん?」


一足早く駐機し終えていたロックからである。


「コウヤ、ホットドッグ奢ってやるよ!」


「おおっ、サンキュ!」


ロックの奮発に喜ぶコウヤ。


そうなりゃ話は早いという事で、機体を降りきったコウヤは待っていたロックと合流して、そして二人の足取りはホットドッグ・スタンドへ向かう物となった。


「それにしてもなんか良いことあったのか?」


「ふふっ…聞いて驚くな、貯金が三ケタ突破だ!」


「おおおー」


素直に感心するコウヤだ。


…しかし、コウヤの表情が悪い物となって、


「まあた悪い女に貢ぎきって、すってんてんになっちまうのか」


「バカ言えっ、今度はあんなザマにゃならねーよ。次こそは器量良しでメシの旨いべっぴんさんの」


「低身長を気にしていておっぱいがでかいロリ巨乳が好みってんだろ。その条件が全部合う一つ前の彼女は、お前がその悪女に浮気して振られたんだっけなー」


「おまえっ、俺の生傷をーっ!!」


「んなのがそうそう居てたまるかよっての、今からでも土下座しに行ってヨリ戻せば良いのに」


「それが通れば苦労しねえよおっ!? ーーあああ気の迷いだったにしてもあの時の俺はバカだったっ! リエールちゃーんっ!!!」


痛烈な後悔でたまらず爆発したロックに、いじっていて飽きがこないなぁ…等と失礼な事を思っているコウヤである。


そんな内に目当てのスタンドへと着いた二人。

休み時間なので人でごった返すその前をかき分けて、何とかカウンターにたどり着いて注文を出す。


「おっちゃん、ベルデタイフーンスペシャルチーズマシマシ二つ」


「へいよ!!」


…相手が滅茶滅茶忙しい時でも手間の掛かるメニューを選ぶのがコウヤ流だった。食べたい物は食べたいのだ。


注文を聞いた主人が従業員ーー女冒険者が数人、バイトで入っているのだーーに指示を出して、コウヤの目前で手早くそれは作られていく。


…この店の最大サイズのブレッドに、これまた特大の、パンからはみ出んばかりのサイズの、ロングの粗挽きソーセージが二本、間に挟まれる。


そこにケチャップが見事な手つきで掛け終えられると、その上に大量のカット・チーズがトッピングされて、基本形が出来たそれがグリルに入れられてトーストされる。


ーー待つこと一分。


短時間でもしっかり焼く事の出来るハイパワーの特別オーブンによって焼き上がったそれは、こんがりさくさくのパン部分に、あつあつジューシーなソーセージ。そしてその上に掛かったとろとろのチーズ…と、鉱山の勤務で腹ぺこになった鉱夫や冒険者達でも満足出来る様にと、このスタンドの創業時に考案された店の主人自慢の一品である。


「どうぞでーす!」


最後に包み紙が掛けられて、代金を払い終えたロックとコウヤの手に完成されたそれが渡される。


手渡された二人は手早く退散である。その事は、この店を利用する者達の間の暗黙の了解となっていた。


そして少し離れた所まで退避して…


「「それではっ、いただきまーすっ!」」


んが、っと大きく口を開いて、二人は同時に一口を口に入れた。


「ん〜んん〜っ」


トーストされたパンであるが……ふわっ、と言う感覚とカリッとした食感のハーモニー! 


そしてその後に、しっかりとしたもちもち感と言えば良いのだろうか。とにかくその様な歯ごたえが咀嚼する度に口全体で感じられる。


ケチャップで調律された肉の味やチーズの風味も相まって…

五感全体に訴えかける、まるでホットドッグのオーケストラだ。


「んひひ、相変わらずクソ程美味しいぜ」


「汚ったねー比喩やめろよな、せっかくのホットドッグが台無しだよ」


「さっきの仕返しだ!」


「大人げねーっ…」



そんな感じで二人が半ば程まで食べ進んだ…



…その時、



「「ん?」」


ふと、ヴァリアントの機動する音が聞こえて顔を上げた。次の瞬間!



「「どわあああああっと!!?」」



突如としてホットドッグ・スタンドが突破され、乱入したヴァリアントは

コウヤ達を吹き飛ばしていったのである!!


そして後続の機体も続いて…その数二機。


詰めかける客達も諸共に吹き飛ばされ、後には死屍累々といった状況が残されるのみであった(死んではいないが)。



「デッド、何なんだあれはよっ」


幸いにも踏みつぶされる事は無かった事に安堵するロック…が、


「俺のホットドッグーっ!?」


…哀れ、コウヤのホットドッグは犠牲となったのである。



     * * *

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