宝石トロールの話
ある日のベルデ鉱山。
「おっ?」
開削工事中である坑道先端部。削岩ドリルで掘り進んでいた所、割れた岩の断面から赤く輝くそれを発見したコウヤ。
《どうしたあ!》
「宝石だー!」
ドリルのスイッチを切り、訊ねる監督者にコウヤはそう返した。
鉱山ではマギダイトの他にも宝石が見つかることもよくあるのだ。
そしてこんな時に活躍するのが…
「ブッちゃん、出番!」
「わがった!」
コウヤがそう呼ぶと、ブッちゃんと呼ばれたその人物が、休憩室を兼ねた退避所からアトラス藁で編まれた草履を鳴らしてやってくる。
…緑がかった肌、下顎から突き出した強面な牙、ヴァリアントほどはあるその巨体。
彼はブラーゴ・ソー・ヴェネティクス。四十八歳のトロールである。
「がわってくれ!」
「分かったぜいっと」
コウヤとブラーゴが場所を交代し、そして彼が槌と平ノミを取り出して準備は完了。
「どの位で終わる?」
「すぐ終わるさ!」
彼曰くかなり気を使っているそうなのだが、身体が巨大なので大音量になりがちなブラーゴの声が響く。
そんな内に手早く進められていた掘り出しの作業が終わり、ブラーゴはその手に握った宝石を確かめるように照明にかざした。
…確かめると、それは大きなルビーであった。
「おわっだ!」
「毎度手際が良いぜ!」
道具を片づけるブラーゴに喜ぶコウヤ。
キリが良かったので、そこで休憩の時間となった。
…宝石の採掘自体はヴァリアントでも出来なくはないがかなり難しいし、その後の目利きやらは専門職じゃないとなおさら難しい。
そんな訳でその二つを兼ねた技能集団である“宝石トロール”が存在するのである。
そして、祝祭や政に宝石や貴金属を使うトロール族の風習から発展した彼らの歴史は古い。
コウヤがブッちゃんと呼んで親しんでいるブラーゴも、他の宝石トロールと同じく故郷の部族の中で腕を磨いた後、四半世紀ほど前からこのベルデ鉱山で働いているのだった。
退避所に戻ったコウヤとブラーゴ。
コウヤが〈シロガネ〉から降りるのをブラーゴが手伝ったりしながら、二人がベンチ代わりの資材に腰掛けた後、コウヤはスタンドで買っておいたホットドッグを、ブラーゴはおやつであるタイタン・トマトをかじりながら陽気に笑い合った。
個々の人格もそうなのだろうが、トロール達は皆穏和で性根が良い。
そんな彼らが例えば人間を襲うだとかは、このアルスフィールでは大昔の騎士物語の中ぐらいにしか無いのである。




