或る官僚達の悲劇
少し話は遡って、
「どうなってんだ、何故“あれ”がこうなっている!」
トリエステは首都・ウェセルヘンテの、省庁街の某オフィス。
普段でも…まああまり穏やかではない謀略だとか殺気立った話が交わされるこの部屋に於いて、そんな悲鳴じみた叫びが上がったのがこの瞬間であった。
「どうもこうも無い。起きちまった事はしょうがないんだ…はぁ」
宥める様にそう言って、同僚の男は、その身を高価そうな黒の事務椅子に投げる様に沈めさせた。
「…どうすれば良い」
「どうしようかな、無かった事にしようか」
「無理だろう…奴は目立ちすぎている。我々の関与を知られる訳にはいかんのに!」
男達が頭を痛めている懸案とは、何を隠そうこの物語の主人公・小田桐コウヤの事である。
何故か? と言うと、この男達がこの国の情報部の人間であることに原因している。
…今や国家機密の存在である“異邦人”の少年。
その重要さ故に護衛を付けて、その動向を常に監視して! …だった筈が、彼がアルグランデに向かって、戦争が始まって以降の足取りをすっかり掴めて無かったのである。
そしてようやくそれが分かった頃には、なんと少年は英雄になろうとしていた! 気分は狐か狸に化かされた様な物であった。
これは拙い、拙いのである。
英雄となれば、少年は名誉と共に様々の目を向けられるであろう。好奇の目、興味の目、利用できる物は無いかと言う奸計の目…そしてその暁には、芋蔓式に自分たちの存在と関与が露見し、そして少年の真の正体が発覚するだろう。それは何よりも、拙い。
遺跡に纏わる事柄についても、他に例がない“生きた遺産”である少年は正しくトップ・シークレット。他国に察されればどうなるか分かった物では無い!
戦場での活躍!
ブン屋の報道!!
そして行われるという祝勝会!!!
これ以上の失点はなんとしても避けたいのだ。
レンヌヴィルの一件でもそうであったが、なぜこの少年は平穏に過ごしてくれないのか…
「うむむ…」
「ふむむ…」
唸る男達。
まあこうなっては致し方有るまい。全てが露見すると言う最悪の場合でも、我が国(正確には自分たちの部署、である)の優勢は死守しなくては…
「「ん?」」
ーーそんな悲壮じみた決意を固め掛けた二人にその時、ある考えが閃いた。
…自身が欲目を出したからこそのランティファールの撃発を招いた格好のセレスティアは、現在弱みが丸出しの状態である。
そして、お気楽極楽日和見主義のトリエステであるが、今回の一件に於いては特にセレスティアを糾弾するという事もなく、むしろその面目をフォローさえしているのだ。
「…」「…」
ーーこれは利用できるのではないか…?
「「…んふふ」」
男達、悪巧みの時間である。
ーーー多少の無理は利くだろう。
こうして“トリエステ政府の強い要望”によって、セレスティアは全ての記録から“コウヤ・オダギリ”の存在を抹消したのだった。
英雄になれなかったコウヤ。
これはその顛末であるが、しかしこの一連の事案はバッチリ例の西の島国に把握されていて、そしてこれでコウヤに興味を持ったリントウェールは、後にある行動を起こすのだが…




