ランサー・チャージ!
* * *
第四小隊からの報告を受けたセレスティア軍は急遽、鉱山への侵攻作戦を計画、実施しようとしていた。
何かに焦るかのように手持ちの全兵力を投入しての作戦。第四小隊もその中に含まれていた。
* * *
帰還したコウヤ達第四小隊員は、自分たちのヴァリアントが駐機してある仮設のハンガーへと集められていた。
サイレンが鳴る中、慌ただしく人と物が動いていく。
そして持ってこられた目の前の台車にあるのは、ヴァリアントの全高程はあろうかという長大な槍。
「今回の任務に於いて、お前のパラディンにも装備することになった。名前をバスターランスという」
「バスターランス…」
「これから戦うモノに対して必要な物だ。ヴァリアント用の巨大な手持ち式成形炸薬榴弾…というと分かるか?」
「はぁ」
「使用方法は至って簡単、目標に突き刺して起爆するだけ。我が小隊は全機がこれを装備し、奴らとの第一線で戦うことになった」
「あの、質問があります。先ほどからのモノだとか奴らだとかというのは一体何者なのでしょうか」
「それはまだ言えん」
コウヤ以外は知っているようで、沈黙が落ちる。
「まあ、追々移動中に話す。ちなみに言っておくと目の前のこいつは爆薬の入っていないソリッドシェルだ。まあ、つまりはただの槍って事になる。今から短いながらこの模擬弾を使用して間合いなどに慣れてもらうつもりだ。いいな?」
『はい!』
全員分の斉唱。
「…予め準備しておかないと、それだけの武装は用意出来ないわね」
かけられたその声。振り返るとディーナがいた。
「なんだ警備はどうしている、民間人の立ち入りは禁止だぞ!」
「一言だけ、コウヤ君に伝えたいことがあるんです。ーーコウヤ君。次の戦闘でこの戦いに隠されていたものが判るわ。自分の目でそれを見て、そして判断して。…私はそれを信じる」
「…あなたは何を知っているんです」
「自分を…信じて」
そう言い残してディーナは去っていった。
* * *
《最低限胴に当たれば致命傷は与えられる様になってる。胴に当てる、それさえ意識して扱えばいい》
偵察のワイバーンが慌ただしく飛び立つ中、コウヤ達は街の外で簡単な訓練を行っていた。
それぞれの乗機はバスターランスを装備するために整備中のため、隊員達は街の土建屋から借りたファルシオンで練習を行っている。
それに見立てた大盾を相手に、槍を打ち立てては放しを繰り返す。
「なんつーか、いったいなんなんだろ。変なバケモンが現れて、帰ってきたかと思ったらこの騒ぎ。一体何なんだ?」
《…〈ブリック〉。人類の敵だ》
「なんだそりゃ」
《正体不明。目的不明。このアルスフィールで定期的に起きてきた〈大災厄〉、その原因だ。放っておくと拙いことになるのは間違いない》
「なんつーか大変そうだな」
《人事ではないぞ、今から倒しに行くんだからな》
「ドラゴン退治ならぬブリック退治ってか」
《まあ、そういうことになる》
《お前達、そこまでだ。機体の準備が終わった。これから出発だ》
「了解!」
* * *
「やっぱパラディンにはバスターランスだな」
「ですね」
そう言うリカルドとアミナ。
〈シロガネ〉の整備作業が終わったことを聞き、コウヤは再び仮設ハンガーの一つにいた。
全身に取り付けられたジャケット式の追加アーマー。
そして肩アーマー上面に取り付けられたラックに左右六基ずつ、計十二基懸架されたバスターランスの予備先端弾薬ユニット。
完成したその姿を見て、ガチ仕様という言葉がコウヤの頭をよぎった。
同様の装備がされた小隊機十機とコウヤの〈シロガネ〉が並ぶ前で、小隊員達も揃った。
「さあ、出撃だ!」
リカルドは言った。
* * *
鉱山にほど近い場所。
夜明け前、最大望遠で視認出来る距離に、それらはいた。
ーー川のように連なる黒い列。
航空偵察の結果から、それを真正面から受け止めるようにしてこちらの陣は展開されている。
「…あれが」
黒い軍団を見て、呻くように呟くコウヤ
《この分だと巣はもう作られてしまっているようですね》
《…だろうな》
《即応機を動員して、こちらはヴァリアントが八十機。一応後方にも準備中の部隊が居るとは言え、出来ればここで撃破したい物だな》
《カウント終了、中型種百五十、大型種二十六。小型種については集計不能!》
「まじかよ…」
告げられたその数字に思わず絶句する。
そして先頭の〈ブリック〉が、あらかじめ設定してある交戦開始線に達して、…そして、開戦。
夜明けと共に戦端が開かれた。
《撃ち方始めぇ!》
速射砲隊とクロスボウの一斉掃射によって、軍団の前方を埋め尽くしていた、全高三メートル程の小型種が粉砕されていく。
そして粉砕され積み重なった小型種が障害となって軍団の動きが滞り、すかさずそこにパイロチューブの砲火が撃ち込まれていった。
轟く爆炎、それによりコウヤが昨夜相手した中型種も撃破されていく。
《やった! 効果は絶大だ!!》
思わず喜びの雄叫びをあげる兵士達。が…
攻撃によって立ち上る、爆炎と煙の向こうにゆらりと浮かび上がった巨大な影。
《大型種だ!》
その黒い影が、雪のような白い粒子が上がる小型種で出来たバリケードを打ち崩し、その穴から突破した小型種で再び正面が溢れかえる。
「隊長!」
《我々は小型種は相手しなくて良い。大型種か中型種に接近して槍を叩き込め!》
《槍騎士隊、突撃!》
その言葉を切っ掛けに勇躍、隊列から出撃していくヴァリアント達。
コウヤも機体を繰り出した。
《露払いは護衛の小隊がしてくれる、撃破を急げ!》
その言葉の通り、襲いかかる大量の小型種に立ち向かっていく随伴の別の小隊機。
そうして混戦の中、コウヤは機体を進ませていた。
ーーまずはコイツを試す。
「でえええぇい!」
突っ込んできた中型種の一体にすれ違いざまに突き刺した後、スイッチを押し、起爆。
直後、とてつもない閃光と爆圧がコウヤを襲う。
「ぐわああっ!」
機体を揺さぶられ悲鳴を上げるコウヤ。
そして揺れが収まり閉じていた目を開けると、〈ブリック〉は跡形もなくバラバラに吹き飛んでいた。
「す、すげえ」
コウヤはバスターランスの威力に絶句した。
肩のラックに懸架された先端弾薬の赤い尻に、柄だけになったバスターランスをはめて装填しつつ、煙の中次の獲物を探す。
と、ーーそこに現れた黒い影。
影に覆われ振り向いたコウヤ。煙が掻き消えると、大型種の巨体が目前にあった。
「こんなの倒せるのかよ!?」
悲鳴のような絶叫を上げる。
「ええい、ままよ!」
教えられた様に胴の正面に切っ先を突き、手元のスイッチで弾体の拘束を解除、切り離してコウヤは離れた。
一拍置いて、そして炸裂。ボン! と一撃、大型種の体が跳ね上がる。
…滅茶苦茶に炸裂したバスターランスの先端弾薬によって内部でコアが砕かれ、それによって光の粒子となって大型種の体は蒸発した。
「おおっし!!」
快哉を上げるコウヤ。だがコウヤの活躍はそれまでだったらしい。
「! わわっ!?」
直後殺到する小型種の群。数の暴力によって剣を取り出す暇もないまま〈シロガネ〉は取り囲まれ、身動きが取れなくなってしまう。
「クソっこうなっちゃどうにも出来ない!」
アーマーブレイザーで殴りつけながら毒づくコウヤ。
そこに中型種が現れ、突進の勢いのまま〈シロガネ〉を轢いていこうとした、ーーまさにその時。横から飛んできた一本の矢が中型種の体を串刺しにして撃破した。
飛んできた先を見ると、遙か向こうに長弓を構えたライトブラウンの〈グスタフ〉。その傍には手勢の同型機も構えていた。
《お待ちどう、騎兵隊の到着だ!》
《フリューゲルリッター!》
《加勢にきやしたぜ!》
「…レオナぁっ!!」
北西から現れた一個中隊の〈グスタフ〉が、剣を抜きはなって突撃。昇った朝日の中、〈ブリック〉の群を脇腹から食い破り切断する。
『おおおっ!!』
その勇姿にセレスティアの軍からも雄叫びが上がる。
そうして〈ブリック〉を切り裂いてきたレオナ達フリューゲルリッターは、一直線にコウヤの〈シロガネ〉を救出した。
《よし、手助けはこの辺でいいだろう。…オレたちはけじめを付けるためにこのまま鉱山まで攻め上げる。付いてくるか?》
「ああ!」
立ち向かってくる〈ブリック〉を粉砕しながら、フリューゲルリッターとコウヤは一路鉱山の道を駆け上がる。
《見えたぞ、〈ブリック〉の巣だ!》
そして山の頂点。擂り鉢状に広げられた穴の中に立つ、黒色の大きな繭のようなそれ。
繭の根本には黒い液体のようなものが溜まっており、そこから〈ブリック〉が生まれ出ていた。
《ったく、オレ達の親玉はこんなのの取り合いをやってたのかよ! ーーこんな気味の悪い物はとっととどうにかしちまった方がいい…準備は良いな!》
その言葉によって、随伴してきた複座型グスタフから魔導士が出て、最大火力の呪文を詠唱。
雷光のように繭に光が走り、直後、巣は爆破された。
「…終わった」
《だな》
セレスティアも残存ブリックの掃討を終えたらしく、通信からは勝利の快哉が聞こえてきた。
そして、この戦いを最後にランティファールとセレスティアは停戦した。
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