再会と彼女の事情
「あなたがコウヤ・オダギリ君ね? お噂はかねがね」
「はぁ」
名乗ったのはディーナ・クリストン。彼女は日刊紙の特派員だと言う。
ついに開始されることになった反攻作戦、その取材に来たのだ。
「何も面白いことは言えませんっすよ」
「いいのよそれで。私はあるがままのあなたに興味があるの」
「は、はあ」
「激動のリオグランデ、その変化点に必ずあなたがいる。興味を持つのに十分でしょ? …さあ何から聞きましょうか、好物は何? 好きな人はいる?」
「俺は子供じゃねえーっ!」
* * *
アルグランデ鉱山までの反攻作戦。
新兵器を装備する部隊を次々と投入し、形勢を逆転したセレスティア軍。
大敗を重ね撤退するランティファール部隊の殿に、彼らが現れた。
コウヤ達第四小隊にも手当たり次第の悲鳴のような救援要請が入ったのは、本陣にほど近い前進陣地を警護しているその時だった。
聞くと、撤退するランティファール軍を追撃している最中に出現したその部隊に逆に前線を突破され、ついには本陣の直前にまで迫られているのだという。
部隊の名はフリューゲルリッター。
ーーそんな戦い方ができるのは彼らしかいない。
要請を受けた第四小隊は即座に急行した。
* * *
陣を守る最後の防御線がついに破られた。
《ーー見つけたぞ、大将首ぃっ!》
「ひ、ひぃっ」
その姿、修羅のごとく。
腰を抜かした上級将校が失禁しながら後ずさる中、大将であるガーフィールドはゆっくりと、瞑目したその瞳を開けたのだった。
《その首、冥土の土産に頂いていく!》
剣を突きつけ、レオナが吼える。
「…いいだろう。が」
まだ早いな、と笑うや否や、〈グスタフ〉達に切り込みを掛けたのは第四小隊だった。
「間に合ったか!」
《お前は!》
「またお前か!」
《ーーははっ、どの道今日までの命、再びの巡り合わせは天佑かな!》
「何小難しいことを言ってんだよ。お前なんか変だぞ!」
陣の中、対峙する〈シロガネ〉とレオナの〈グスタフ〉。
なにやらレオナの様子がおかしいとコウヤは思った。
《…だったらも何もない、オレと決闘しろ!》
(お前もか!?)
《この命、お前にならくれてやる!! ーー戦って死にたいんだっ》
「なっ…」
言われた言葉のおぞましさに凍り付くコウヤ。
「ーーじゃあ条件を出してやる。俺が勝ったら、お前は生きろ!」
知らずの内に、口が動いていた。
《なっ、ーー生き恥をかけとっ》
「生きてて何が悪い!」
《…畜生、ヴァリアントで決着を着けてやる。来い!》
「死ぬなんて、思い直させてやるよ!」
いざなわれたのは山肌に面した登り道。ヴァリアント二体ほどの幅の道は、その端が奈落かと思うほどの崖であった。
その上に立ったレオナの〈グスタフ〉が剣を抜く。
《ーー始めようか!》
「っ!」
その言葉とともに、剣の打ち合いが始まった。
《何故オレと戦うのか、ーー答えろ!》
たっぷりと考えた後、コウヤはそもそもの発端に思い当たり、
「えーと、…飯の用意を邪魔されたから?」
《そんな理由かい!?》
思わずレオナの〈グスタフ〉もずっこける。
《なんだよーチキショー! 守りたいものとか信義とか! そうじゃなくて…そんな理由でお前はオレと戦っていたのかよ!》
「何で怒るんだよ!」
《お前には解るかぁーっ!》
立ち直って雄叫び一閃、レオナの剣戟が烈しくなる。
複雑な乙女心と呼ぶべきかどうか、とにかくそういうものではあった。
「おまえこそなぜ戦うっ」
《この戦いで手柄をあげりゃあ、あの忌々しい女に騎士団を良いようにされなくて済む!…だったからだ!》
「がぁっ!」
レオナの攻撃が当たり、瞬間、コウヤの意識が刈りとばされる。
だがこのくらいでやられるコウヤではない。すぐに機体を立て直す。
…が、既にレオナの第二撃が放たれていたのだった。
再びの攻撃を喰らい、のけぞる〈シロガネ〉。
日々の鍛錬もそうであったが、ことヴァリアントの操縦に掛けては先天的に天才とも言うべき才能をレオナは有していた。
機先を制し、後手を封じ、僅かな操作でコウヤの動きを徐々に封じていく。
それに気付き、焦るコウヤ。
だが、
(…見切った)
たった一度の反撃をも、軽々とレオナは封じてしまった。
「ちぃっ!」
そうしてこの戦闘の場にあった、僅かなゆとりとも言うべきそれを自身の色で塗りつぶし、戦いの主導権を完全に手に入れたレオナ。
「はあっ、やぁっ!」
《読めてんだよ!》
「ぐわっ」
こうなっては、後はクモの巣に掛かった蝶のように、コウヤはもがけばもがくほど傷つき、苦しんでいくことになる。
…そしてレオナは、自機の行動を“攻撃”へと切り替えた。
《オレの本気を受けて見ろ!》
「なにっ」
ーーその一瞬、
放たれた、暴風のような圧倒的な剣戟の前にコウヤは為す術もなかった。
「ぐわぁああああああっ!! ぐっ」
剣を飛ばされ、弾かれるように崩れた〈シロガネ〉。
《さて、オレの勝ちかな》
「つ、強いじゃねえか」
《…当然だ》
レオナの〈グスタフ〉が剣を携えて詰め寄る。
《おまえ、頑張ったな》
「…っ」
そして〈シロガネ〉に最後の刃を突き立てんとしたその瞬間、
ーーレオナの立っていた崖が崩れたのはその時だった。
《…なっ》
「ーーうおおおおっ!」
滑落するレオナのグスタフの手を咄嗟に掴んだコウヤ。
しかし武装を満載した戦闘重量のグスタフ一機は、いかにパラディンとは言え不安定な足場だと言うこともあり荷が重かったらしい。
「…あっ」
力が掛かったことで〈シロガネ〉の足場も崩れ、二機は崖下へ転がり落ちていった。
* * *
レオナが目を覚ますと、そこは洞穴の中だったらしい。
痛みのため余り身体が動かない中、目を開けて薄暗いその中を見渡していると、気が付いたらしいコウヤがのぞき込んできた。
「よー、気がついたかー?」
「お前はっ、っつてえっ」
「じっとしとけよ体痛めてんだから」
「…お前、何ともないのか」
「自分でもびっくりするほど頑丈なんだよ。ほらよ」
スニッカーズ的なネットリだだ甘な非常用チョコレート・バーを渡しながら、
「なんつーか、お前みたいなお子さまがなあ」
「おっ、おこさ…これでもオレは十四だ!」
「十四?…はっはーん俺よりも年下かぁーうんうん」
「なにをっ…えっ」
俺より年下。
聞くより先に舌禍を吐き出し掛けたレオナはその言葉に衝撃を受けたようで、
哀れむような何か複雑な表情でコウヤを見た後、心底嬉しそうな顔で目を輝かせて、
「仲間が…いた…!」
思わずコウヤもずっこけた。
それから暫く沈黙が空き、
「どうしたんだよ、お前」
「…オレ達は今、便利屋みたいなことをやってる。今日も一言、死んでこいだとさ」
捨て駒じゃないか、とコウヤは思った。
「ーーあまり詳しいことは言えないし言いたくない。ただ、オレは賭けに負けたのさ。…皇帝陛下の信任厚いランティファール一の精鋭騎士団が今じゃ只の懲罰部隊。みんなを守りたいと思ってやった行動が裏目に出てこの始末。笑っちまうよなあ」
「俺はっ、」
言い掛けて、コウヤは
「…俺は笑わないさ。お前は頑張った。そうだろ?」
「…」
「…ぷっ」
「あはは!はははははっ…」
「な、なんだよー!」
「優しい奴だな、お前はっ」
「おまえー!」
「今は戦争中だが、ま、まあこんな友情もアリっちゃアリだろう。…まずは友達からだな、うん」
「あっ、来たぞ!」
レオナが目を覚ます前に、コウヤは洞穴の入り口で救援を求める発煙筒を焚いていたのだ。ランティファールとセレスティア、その両方の。
洞穴の入り口に付いた、レオナの部隊の者らしい〈グスタフ〉を確認して、レオナを呼ぶ。
「おいっ!」
乗り際、コウヤは口を開いた。
「絶対に死んだりなんかするなよ。次無茶苦茶言われたら、言ってきたそいつをシロガネでぶん殴りにいってやる」
「ああ、生き抜いてやるよ」
お前もな! といい残し、レオナは迎えの〈グスタフ〉に乗り込んだ
《あんたのお陰でお嬢は死ななくて済んだ。…礼は言わせてもらいますぜ》
〈グスタフ〉のパイロットからの通信。
《…じゃあな》
「…ああ」
そして、コウヤは〈グスタフ〉を見送った。
「さあ、どうやったら帰れるかな?」
崖の上からコウヤを探す呼びかけが聞こえてきたのがその時だった。
* * *




