幕間の挿話
ーーアルグランデ中部、ミルズヘイムーー
HYURURURURURURURU…
…ーDOGOOOOOOOOOOOOOOOOOOMMM!!!!!!!
山地に面した森林地帯と、そこから東北に向かい平野が続く、アルグランデ中部の要衝地。
反攻作戦の開始、それにより侵攻してきた敵セレスティア部隊の阻止。これを、防衛の任を受けたフリューゲルリッターと他部隊若干が展開していたのである。
だが…
《このぉ、ザコが!》
森林から出てきた“それ”に、ランティファールが砲火を加える。
それとは…
両肩に懸架された、二基併せて重量限界ぎりぎりの大型煙幕発煙機…それを装備した〈スコルピオン〉の二個小隊。
発煙装置を作動させながら散開して横一列に走行するそれが、跳んでくる敵の砲火に被害を出しつつも任務を完了させる。そして…
《うわぁっ、くそぉっ!!!?》
煙幕が充満した直後。展開された煙のスクリーンの向こうから、先ほどのランティファールの銃火の何百倍、とも言わんか、とばかりの猛烈な火線と弾幕が森の中から飛来してきたのだ!
《随伴魔導士、風魔法だっ》
飛んだ指示に、隊に随伴していた複座型のグスタフのコクピットハッチが開いて、そして“風が嘶く”。
そうして…
《な、な、なな、なんだあの数はっ!?》
煙幕が流されて出てきたのは、L5を持っていて、頭部だけ新型の複合センサーモジュールの物に交換された 大量の〈ウォーリア〉。
《なんてこった、一個師団は居る!》
《気のせいだ、二個連隊だっ》
こちらは合計でも二個中隊なのに相手は二個連隊? 冗談じゃない。
スクリーンが取れても構わず砲撃を再開したセレスティアの攻勢に、ランティファールの…フリューゲルリッターの逆襲は頓挫した。
《団長、我慢なりませんッ。捕虜になるとは言いません。自分らだけにでも突撃を命令をっ》
《莫迦言え、誉れある我が団からは、血の一滴も垂らさないと団長になった時決めた!》
《ですが、しかし》
《もういい、下がれ。相手にならん》
《はっ、はぁ…》
《全く…チクショウめっ》
早まる部下を押さえながら、団長であるレオナは毒づく。
ーー今回の作戦、本来ならば守勢側のこちらの戦力はもっと多い筈だった。
だが、それが出来なくなったのだ。
“セレスティアの反攻作戦”
これにより、セレスティアはランティファールとの全ての戦線で、一斉に逆襲、大反攻を開始した!
結果、他の作戦部隊は各現任地での個別防衛を行わざるを得なくなり、動けたのは、独立部隊として自由行動出来る遊軍である自分たちと、他若干の細切れの様な部隊のみであった。
もっと言えば、アルグランデ全土を掌握し部隊を展開しているランティファールは個々の防衛が手薄になっており、個別の防衛戦で相手を阻止するのも難しい状況であった。
そして、悔しいが、装備と戦術は向こうが恵まれていた。
それから、フリューゲルリッター、ないしはランティファール上層部には、戦争開始から終結までのグランド・プランが存在していた(アルリアへの奇襲もそれに基づいた物だ)。
だが、それはリントウェールの介入を産み、戦争の天秤はセレスティアに大きく傾いてしまった。呪わしい事に自分たちの行動によって!
そう、それは既に“破綻”してしまったのだ。
(…これは)
今度の戦争、女神の悪戯が始まった様だった。
(いよいよ運をくれなくなってきたか)
レオナは神を呪う。
《団長命令だ、撤退だ!》
戦闘開始から十五分後、ランティファールは敗走した。
…今回の戦い。我彼の規模には大きな隔たりがあった。
しかし、セレスティアの優勢。
反攻作戦以来の、この事実は揺るがない。
今回の戦いでは両軍共速射砲を投入していたが、このどちらもが同様に速射砲を装備していたとしても、ランティファールの不利な状況は変わらなかった。
予てより切り札としてランティファールが現有していたレンヌヴィルのFlak45は、黎明期以前の、元々は偵察のワイバーン騎兵を撃ち落とす為に開発された、という経緯である。
これに対しセレスティアのリントウェールからの供与品のL5は元より速射砲同士の撃ち合いを前提に開発された、同じ条件の相手を倒す為の武器だ。
前提が違うのだから、特性も変わる。
Flak45は軽目標を目的としているから威力がないが、命中の精度は高い。
L5は命中の精度自体はそれほど重視されていないが、口径が大きく爆発力がある。
猟銃とバトル・ライフルとの違い。
この事が大きく違いを際だたせていた。
そして何より、セレスティアは速射砲を大規模に投入していた。
いよいよ本格的に始まったリントウェールからの圧倒的な兵站支援、そしてそれによる装備品の大量供与。
何より、リントウェールはある戦略をセレスティアに授けていた。
自身が大量に在庫を保有する、予備戦略軍団の低スペック、二線級である補助ヴァリアント・〈ウォリアー〉系列。
これに若干の改修と最新のL5速射砲とを組み合わせる事により、短期間かつ低コストで、強力な大戦力を出現させる事に成功したのである。
「え?接近戦しか脳の無いランティファールのバカ共なんかは、蜂の巣にしてやるだけですよ」
八日前に臨時に入隊したというこの青年は、この戦いが終わった後のイングレット紙のインタビューにこう答えた。
戦争が、変わろうとしていたのだ。
………
ミルチナの夜。
「………、」
リカルドは、この街でただ一つ無事だった一軒のバーで呑んでいた。
「失礼、」
「ん?」
カウンターのその隣に、セレスティアの礼服姿の士官が歩いてきた。
そのまま士官は椅子に座ると、マスターにオーダーを出した後、リカルドに人懐こい笑顔を向けてきた。
「君の部下から聞いてね、背のちっちゃい元気そうな娘と金髪の偉くべっぴんさんのだったけど。懐かしいから会いに来た。何年ぶりだっけね?」
目の前の人物は、リカルドにとって軍学校の同期だ。カイルとこいつと他のと一緒によくつるんだ、腐れ縁の。
飄々とした優男で、頭が良くて面がいいから大いにもてた。同期の中で一番…、いや二番だ。二番。だが悔しかったのをよく覚えている。
今は年の割に出世して幹部候補として、歩兵連隊付きの高級将校をしていると聞いたが…それにしても何故?
「……、」
「……、」
互いに、一杯ずつを飲み干す。
軍内での飲酒を規律により禁止しているセレスティアの軍では、酒が飲める機会は逃さないことが優秀な将校の証だった。
「どうなるのかね」
「何がだ」
士官はそう口を開いた。
「新兵器の威力に、将軍達は有頂天になってる。はっきりいってね。
本営の参謀委員会の検討会議では、ランティファール本土への逆襲案がこれでもか、というくらいに連日連呼してるんだ。
提供元のリントウェールは“これ以上の戦闘拡大は望まない”ってのが主張なのにね?。…それもどうもキナ臭いが」
「そうかよ」
「どう思う?」
「なにがだ」
「これについて、ね?」
「それは…さあてな、俺たちは下っ端だ。一個人の兵士としてこれからも悲劇の連鎖は望まないってのは所存だが、命令とあれば仕方ない。例えヴェルンズブールにでも行ってやるよ」
ランティファールの首都都市の名前をも出したリカルドに、相手は驚いた。
「おまえ、変わったよ。好戦的になったねー 前のインテリならそんな事は絶対に言わなかった」
「お前はどうなんだ」
「部下が手ひどくやられた。この借りは返させてもらうつもりさ、いずれ、絶対にね」
そのとき不意に見た目前の優男の顔には、よく見ると拭き取った血の跡がある様な気がした。
「僕がここにいたのは、だね」
相手は口を開いた。
「この街で、ランティファールとの休戦協定を結ぶ話が持ちかけられていたんだよ。相手側からの要請でね」
「それは、」
「どう言うわけか会場になるはずのウィルトン・ホテルは攻撃でメチャメチャさ。自分で言っておいて自分で襲うなんて、向こうにも色々あるのかもしれないが、ね」
「…」
「人は裏切られる物だねー、今日一つ覚えた事さ。お前は経験しなくていい」
そう最後に言い残して、相手は去っていった。
「…人は変わる物、なのかもな」
言いながら、リカルドは中身のないグラスを飲み干した。




