酔っ払いリブリーアクト
* * *
コウヤの前に立つ大男。
「へえ、こんなボウズがなあ」
「…何だよ」
「そらよっと!」
「! やめろ、はーなーせー!」
「はは、こいつは元気があって良い」
「カイル、そのくらいにしてくれ」
「はいよ、隊長殿」
「うわあっと! たく、なんなんだよ…」
「俺の古い馴染みでな。腕は立つ奴だ」
「へえー?」
コウヤ達第四小隊に新たな面子が加わることになった。
そして次回の任務から、補充されてきた隊員も参加することになっていたのだが、
「こんなガキがなあ、足手まといにはなるなよっ」
「なっ…」
通路で出くわしたジョエルとか言う新人にはこういわれる始末。
「いいのかね、コウヤはアタシ等より上手いぐらいなのに、な」
「なっていうか」
ダニエラはこういってくれたが、
「…あのレオナって奴と比べたら、全然」
アルリアでの戦いを思いだし、言った。
「ほーお?」
それを聞いたダニエラが悪い表情になる。
「もしかして、恋?」
「バッキャロ!」
好みのタイプはちんちくりんよりバインボインのおねーさんであった。
カイル・マーティン、ジョアン・カッセル、アントニー・コーリー、ヴァネッサ・ハンバーの四人を加え、小隊は十機となった。
* * *
「…」
アミナは一人、沈黙していた
参謀本部の判断は、お咎めなし。
一日前に公開されたリバティー紙の記事の反響が高かったため、懲罰を加えるよりも現状維持を選んだのである。
「…どうして」
アミナが内心安堵していたことは当人でさえ分からなかった。
* * *
「ああもう、むしゃくしゃしてます!」
苛立ちを隠さず通路を歩くアミナ。
そこに酒を飲んでいるらしいカイルとボナールが出くわしてしまった。
「! 我が軍では飲酒は厳禁です! 没収します!!」
「ちょーっとまってよアミナちゃん。ちぃっとばかり厳しいんじゃないの?」
「軍規がなってません!」
そうといわれては何も言い返すことが出来ず、
「へいへいーーまったく、連絡将校も卵の殻がついてる様な奴なのかい」
「聞こえてますよ」
「おおっと!」
「私はただのボランティアです!」
盛大な没収劇の後、カイルとボナールが立ち去るのを確認して、アミナはフレハブの壁にもたれ掛かる。
そしてしばらくした後、何やらボトルを睨んでいる。
「…」
何を思ったかおもむろに栓を開け、袖口でぐいぐいと口を念入りに拭った後、再びボトルをじーっと睨みつけ、アミナは、
「…!」
飲んだ。
飲む、飲んでいる。
ゴクッゴクッゴクッと惚れ惚れするような飲みっぷりを披露した後、度数の強い酒だったらしい。吐き出すように咽せ上がる。
それを居合わせていたコウヤは呆然と見ているしかなかった。
「な、何してんだよーっ!」
「うるさいれすねー、ひっく、わらしのじもろじゃ十六からろめるんれすーっ」
「お前十五じゃねーか」
「いつも無茶やっておいれ一歳ぐらひがらんれすかーぁっ!」
それとこれとは別だと思うが。…言い出せない。
全く酔っぱらいとはめんどくさいものである。
「…ぐす、うぐ、ひっく」
そして突然、泣き出した。
(絡み上戸に泣き上戸と来たか!?)
「うぅっ、かえりたいよーっおとーさーん!」
堰を切ったかのようにうぇえええええんと泣き出したアミナ。
「ま、まあ落ち着けよ。ハンカチあるからよ、拭こう、な?」
「あらららちふぁいっっつも無茶するかあらんれすー!うわぁーあん!!」
全くこの上なくめんどくさい。
「わらひらっれすひれこんらほとやっれるんらりんれるよー!」
「わかった、わかったからな?」
「わらひ酔っぱらっちゃっらんれすか?! あんはも酔っぱらひらさい!」
「えっえーっ…」
まくし立てたアミナである。
差し出された目の前のボトルに入った琥珀色の液体。
「さあっ!」
「ぐ、ぐぅ…」
コウヤも覚悟を決め、ぐびっと飲んだ。
そして翌日。
「…はー、なんだか分からないけどスッキリしたっ! ん、どうしたんですかコウヤさん?」
「う、うぷ…」
酒に祟られたのはコウヤだけだったらしい。
「吐き気がすげえ、頭がガンガンする…これから任務もあるのによー…うぅ」
子供にアルコールは厳禁と言う奴である。みんなも 絶 対 真似するなよ!
そして悪いことはそれだけではない。
「えっ、ダニエラが下痢っ?!」
「一昨日食ったつまみが痛んでたらしくてよー。俺たちは無事なんだが、なっ」
そういうボナールとガナン。
「まじかよ…」
そして誰かが代わりのガンナーになる必要があったが、
「ちょっくらやってくれんか」
「えっ」
「アミナ・リーネル少尉!」
「はい!」
「コウヤのサポートを頼む」
「了解しました!」
「…えーっ」
呆然とするコウヤであった。
* * *
進出してきた敵部隊の迎撃。
その敵部隊は、先日のお返しとばかりにコウヤ達と同じく火砲で武装していた。
二日酔いでぐらぐらする視界にまた酔いつつ、コウヤは機体を進ませる。
積極的に攻めなくとも良いと言うことで、いつも通り弾持ち係をやっていたわけだが、そんな折り敵と遭遇。
林から砲火が瞬く中、こちらも教えられたように砲のセレクターを解除し、砲口を敵に向ける。
「てやああああっ!」
そして発砲。轟音とともに放たれていった弾丸が敵の一機にバシバシと命中し、連打をもらったボクサーのようにがくがくとなって崩れ落ちた。
「おおっすげえ…」
思わず感嘆の声をあげるコウヤ。
《小僧に出来るなら俺もっ》
《待て、ジョエル!》
そうして伏せていた倒木から立ち上がり、勇躍した。
だが、良い的と言わんばかりに、そうして突出したジョエル機に集中砲火が浴びせられたのがその時である。
《うっうわああああぁっ!!》
命中弾を貰い転がって、途端パニックになるジョエル。
「でかい口叩いておいて、まるで素人じゃないかっ」
《ヴァリアントに乗り始めて二ヶ月も経ってない新兵共だ、文句は堪えて、やってくれ!》
「了解!」
先のアルリア奇襲の影響で、セレスティア全軍に余裕が無くなったらしいのは確かだった。
擱座したジョエル機の援護を命じられて、本格的な砲撃戦の中、速射砲を抱えてコウヤは〈シロガネ〉を走らせる。
「こんな物を持っても、やることはいつもと変わりないか!」
誰とも言わず、怒鳴るコウヤ。
「大丈夫かっ」
《うっ…こ、小僧》
近づいてジョエルの意識を確かめる。…問題はなさそうだったものの、今度はコウヤが狙われる番となった。
「おおっと!」
どこにこんな数が隠れていたと思うほどに、木々の向こうから無数の弾火が〈シロガネ〉をめがけて飛んでくる。
《おっ俺はいいから小僧は逃げろ!》
「お前はどうするんだよ!」
《腰が抜けて立てないんだっ》
「全く…!」
怒鳴り合うジョエルとコウヤである。
その事も有り、隠れるのに使った巨大な倒木が抉れていく中、コウヤ達は完全に動けなくなっていた。
…その時。
《アミナ少尉、援護しまーす!!》
そう言って立ち上がり、斉射をぶっ放したアミナ。
当然、反撃が同じく四方八方から飛んでくるのだが、嬌声をあげながら銃を撃つばかりでかわすと言うことをしない。
「おいアミナ、聞こえてるか!」
《あははははは、きゃっほーっ!》
《ダメだ、完全にハイになってやがる!》
(…と、トリガーハッピー)
ジョエル機から離れ弾火が飛び交う中何とかアミナ機に近寄って、機体を伏せさせた物のそこまでである。
《あーれー? カチカチやってるのに何も出ませんねぇ、コウヤさん何とかしてくださいっ》
「やっぱお前酔っぱらってるだろ!?」
アミナらしからぬ反応の数々に確信するコウヤ
そうこうしている内に砲撃の数々が飛んでくる。
「ええい、ままよ。スモークチャージャー!」
その言葉を叫んだ瞬間、昨日取り付けたばかりの、作動した肩アーマーの端に取り付けられたディスペンサーから白い尾を放ちながら発煙弾が放たれ、そして急速に充満した煙によってアミナとコウヤが覆い隠される。
(今だ、このまま退るぞ!)
(えーっ…つまんなーい)
(怒らんでか!!)
アミナ機の足をつかみずるずると牽き下がらせるコウヤ。
そうしてこの日の戦闘は終わった。
* * *
「アミナ、お前は搭乗禁止!」
「なんでですかー!」
「なんでもなにも!」
怒るコウヤである。
アミナが離れていった後も、コウヤは憤激やりかねると言った様子でその場に残っていたのだった。
「無茶やるのはお前も一緒じゃねーかい!」
誰とも言わず叫ぶコウヤ。
「どうした、青春の雄叫びかい?」
とそこに隊長。
昨日からの事情を話してみると、
「よかったんじゃないのか? 父親が軍の高官だそうで気負っていたみたいだから」
コウヤが初めて聞く話である。
「人間生きてりゃいろいろあるさ。まあ、処分はこっちで考える。お前は許してやりな」
そういってリカルドは去っていった。
ふと気づくと、あの二日酔いの症状は消えていた。
* * *
その日の夜。消灯時間の直前、コウヤの部屋をノックする音が一つ。
「…どうも」
開けると、紙袋を持ったアミナがいた。
「…そ、その、昨日と今日は本当にすみませんでした! これは医務室にいったらくれた二日酔いに効く薬だそうです」
言って紙袋を渡すアミナ。
「ああ、いいよいいよ。お互いさまっつーかなんつーかだし、…それに」
不意にリカルドの言葉を思い出して、
「人間色々、だもんなー」
「?」
そして消灯時間が訪れ、夜は過ぎていった。




