敵の陣地を叩け!
* * *
一日待機を挟み、二日後の午後の食堂である。
参謀本部の沙汰には数日掛かると言うことで、エリーゼもいつも通りの一日を過ごしている。
ダニエラはレトルトのハンバーグ、エリーゼは塩をかけただけの山盛りにしたキャベツの千切り、コウヤは炙ったオイルサーディンの缶詰をと、三者三様の物を食べていた。
それぞれの家族の話で弾んでいたのだが、
「はー、仲良い家族ってだけでため息がでるわ」
「どうしたどうした」
「いやなー、アタシの場合ガッコに入るときに親から猛反対を食らってなー」
「うんうん」
「すっごい大喧嘩になっちゃってなー、半分勘当されてるようなモンなんだわ」
「うん、…うん?」
(…なぜ勘当)
やや飛躍である。
「手紙でも出すのはどうだ?」
食べ終えたエリーゼが提案する。
「手紙かー、良いけどネタがないなー」
一昨日の時はビクビクしてただけだもんなー、と潰れるダニエラ。
「お変わりないですかーとか、私は元気ですーとか、後は任務の内容とか…それはダメか。なんか良い手柄話があればなあ」
「んー難しいなー」
そう唸りながらダニエラはジャケットを脱いだが、その内ポケットに入っていたものにコウヤの目が止まる。
「ん? なんだそれ」
「これか? へっへーアタシのお守りなんだ〜」
特別に見せてやるよ、と見せられた写真には「ズッ友☆」とかそういう意味の文字が書いてあった。それはともかく…
「…ヤンキーだな」
「だな」
「ひでぇっ!?」
のぞき込んでいたのはエリーゼもだった。
「何だよーこれでも街じゃ一番の健康優良少女で通ってたんだぞー」
「それいわれてもなあ」
うんうんとうなずくエリーゼ。
「ダチに合わせてただけなんだよー信じてくれよー」
「あっそうだ、友達にも送ればいいじゃん手紙!」
「確かに、それは良いかもな」
エリーゼも首肯するが、
「えー、でもなーバカだから五行以上の文字列が読めるかどうか」
「どうなのそれ…」
やけに生々しい数字であった。
* * *
「新兵器…か」
「敵にも同様の装備を持った部隊が現れ始めているという事で、我が軍も対抗する必要があるとの参謀本部の判断です。…嫌でも装備してもらうとの命令です」
アミナは言った。
「リントウェール製L5速射砲とパイロチューブ。ヴァリアント用のライフルにバズーカか…」
ブリーフィングの後、ハンガーに運び込まれたそれを見て呆然とつぶやくコウヤ。
「バズーカって言うのかあれ?」
「い、いやこっちの話だ」
ダニエラを流しつつ、コウヤはかなり動揺していた。
(…俺以外にもいるのか?)
疑問に答える者はここにはいない。
そしてその日の夜、侵攻の陽動を兼ねた敵陣地への襲撃作戦で早速新装備が使われることとなった。
* * *
闇夜に満ちた森林の中を、六機の小隊機と〈シロガネ〉が歩んでゆく。
事前の航空偵察で陣地の場所自体は分かっているのだ。
《クロスボウと同じで、速射砲は巡航する時は安全装置を掛けた上でトリガーから指を外す、だったか》
《そうそう》
アミナからの注意の復唱である。
この新装備の運用に関するデータは部隊員への聞き取りでアミナ経由でレポート化され、提供元のリントウェールには貴重な戦訓がもたらされるというシステムだった。
《よーするにモルモットかい》
口の悪いダニエラはそう言うわけだが、
「ふてくされるなよ、お前が一番いいのをもってるんだから」
そういうコウヤは火器本体は持たず、皆の弾薬持ちであった。
《バズーカねえ…》
その携行方は腰に取り付けた簡単なラックに吊り掛けるというものであった。
《そろそろ敵の領域下に入るぞ、各機連携を密に取れ!》
《了解!》
全員分の復唱である。
そしてそのまま慎重に進入していき、陣地付近で二手に散開。
…そして、数分後。
《ーーこうだ!》
闇を切り裂いた曳光弾の光。
歩哨のディルバレンに第二B分隊のガナン機の速射砲弾が命中したことが開戦の合図となった。
川向こうの崖を崩して設けられた、森の中の隠し砦といってもいい風格の大きな陣地群からサイレンとともに照明弾があがり、設置されたサーチライトが森の中を照らしていく。
そして陣地のいくつかからヴァリアントが出撃していくのが見えた。
《こぉの!》
合流される前にしとめるべく、進行しながらまずは歩哨のヴァリアントに斉射を浴びせていく。
暗い密林の中、轟音とともに砲火が輝く。
《一々派手だが大して威力がねえぞこりゃっ!》
悪態をつくボナール。手間取っているようだ。
《隊長殿、私はどうすればいい!》
《エリーゼか、お前の腕じゃどうせ当たりっこないんだから突っ込める用意だけしておけ!》
《承知っ!》
《コウヤ、使い切っちまったんで弾ぁよこしてくれっ》
「わーかった!」
使い慣れない武器からか無駄弾が多く、一機しとめる位ですぐにカートリッジを使い切ってしまう。が、それを見越してコウヤ機にはたっぷりと持たされてある。
「あいよっ」
矢が飛んでくる中、ジャキンと交換。すぐに敵の反撃に応射を仕掛けるボナール。
そんな中サーチライトの光が当たり、陣地から飛んできた魔法弾が円を描くように付近へ着弾していく。
「うわあととっ!」
腹の底から響くような衝撃が襲い、仰け反るコウヤ達。
《魔導師がいるのか!》
尚も第二射、三射と着弾する魔法弾。
そして陣地の中からや展開した敵ヴァリアントのクロスボウからも矢の応射が返ってくる。
《この攻撃はエースクラスだぞっ!?》
《ええい、魔導師とは言わん。まずはヴァリアントを黙らせられんものか》
《そもそも敵の数が分からんっ》
十字砲火を受けて、完全に動きの止まった第一A分隊。
そんな折り、コウヤは閃く。
「使いましょう、バズーカ!」
* * *
第二分隊のダニエラ機に慌てた様子で通信が入ったのは、歩哨を一機切り倒したその時だった。
命令通り、敵と交戦する第二分隊の隊列からダニエラ機が一機、離脱。
余裕のある仲間のカバーを受けながら、攻撃に適しているだろう場所を探して陣地を見上げる河原まで機体を走行させた。
敵の目前だが、そもそも発見されていないのか余り注意されていないようで矢や魔法は飛んでこない。
《…さあて、バズーカってのを試してみるか》
そう言ったダニエラは、魔法弾が着弾したことで出来たばかりの、河原にぽっかりと空いた大きなクレーターに機体を入れて作業を開始する。
…腰の固定ラックから外した発射器本体に、兵装トランクから取り出した弾体を発射器後端部から装填。
完成したパイロチューブを構えて手元の安全装置を解除した後、目標と定めたヴァリアントのいる陣地に砲口を指向。
狙いを定め…
《ーーファイヤッ》
トリガーを引き放った瞬間、轟音と、発射器後端から解放された、クレーターを二回り広げるほどの噴射炎とともに、直径二百三ミリ相当の弾体が空に吐き出される。
戦音響く夜の闇に、風を切る音とともに一筋の光点が流れていき、…そして着弾。
直後、凄まじい閃光と爆音が轟き、煌々と燃え上がる爆炎の中、一撃で陣地は文字通り吹き飛び、沈黙したことが確認できた。
《…すげぇ》
その威力に戦場が硬直、敵にも動揺が走る。
一拍挟み、鳴り響くロックオン警報。崩れたクレーターから機体を出したダニエラに、別の陣地からの、熱源から発射点を特定しての矢の応射が
とっさに構えた盾や機体の足下にバシバシと突き立っていった。
《だめだ、威力はすげえが一発撃って五発も返ってくるんじゃ使い物にならねえっ!》
そして飛来した魔法弾!
《どわぁっ!》
その一撃で盾は木っ端微塵となり、ダニエラは吹き飛ばされる。
…威力は絶大だったが、目立ちすぎた。
その後もパイロチューブを持っているダニエラを警戒してか、追いかけるように矢や攻撃魔法が飛んできて、機体を立て直した後、それらから逃げながら、ようやく作りかけの塹壕にはいって凌ぐことの出来たダニエラだった。
だが攻撃が止むことはなく続けられ、徐々に塹壕が削られていく。
…どうやら攻撃によって、塹壕ごと掘り返そうとしているらしかった。
《全く、すっかり人気者になっちまってなあ!》
《ぼやくな、お陰で発火点から敵の分布を全て割り出すことが出来た。目標の諸元を伝える、もう一度やってくれるな?》
《おうともよっ》
やけくそ気味に言い返し、ダニエラは次の攻撃の準備に取りかかった。
* * *
吹き飛ばされた陣地が三つを数える頃には様相は大きく変わっていた。
《出番が来たぁっ!》
ダニエラに敵が気を取られていたその隙に、接近したエリーゼが陣地に切り込みを掛け制圧に成功。
正面に出たヴァリアントを全滅させたコウヤ達第一分隊員も抜刀して乗り込み、隣接する次の陣地に強襲を掛ける。
第二分隊も肉薄し各陣地を制圧。
…こうなっては、魔導師も得意の魔法攻撃を放ちようがなかった。
白旗が掲げられ、降伏が申し出されたのはそれから二分後だった。
* * *
「大金星だぜ、やったじゃんダニエラ!」
「故郷の家族や友達にも手紙に出来る良いネタになったじゃねーか」
「えへへ、そーかな」
基地に戻った小隊は祝杯を挙げていた。
ガナンが差し出したつまみをかじりつつ照れるダニエラ。
「…にし」
思わず変な笑い声が出る。
「我が軍も反攻作戦が始まった。いろいろと目出度い日だな」
「誰か酒持ってこーい!」
「お前等未成年だろっ!?」
「だっはっはっ!」
…にぎやかく夜は過ぎていった。
* * *




