女騎士の決闘劇
アルリアの一件からしばらく経ち、その日はエリーゼを隊長にダニエラ、コウヤの三人で分隊を組み、半日かけて、前線付近でのパトロールを行っていた。
その任務の中に、とある村の巡察というのも含まれていた。
時刻は昼過ぎ。残るは村の巡察だけで、具合が良ければ昼食もそこで済まそうかという話であった。
「我々にとってはハイキングみたいなものだろう」
ブリーフィングでのその隊長の言葉通り、楽な任務であればよかったのだが、
「なっ…」
《村はもう占拠されているのか…》
たどり着いた分隊が見たもの、それは敵の部隊に占領された村であった。
村を見渡せる高台から見るに、破壊などの痕跡はなく、ただ単に駐留しているだけといった感じではある。
「ろーのやーのとーの、…ヴァリアントだけで十五機か、ウチら三機じゃ相手にもならんわ」
《しかも全部グスタフだよ。…ま、まあ村も非道いことはされてないようだし、あとはこの偵察結果を本部に持ち帰るだけ、で良いですよね? 分隊長殿》
そうダニエラはエリーゼに聞いたのだが、
《みんな、威力偵察とか思いついたんだがどうだ?》
《虎の群に自分から突っ込むような事言い出したよこの人?!》
《? 威力偵察は概ねそのようなものだと学校では習ったぞ》
「そうだけど違ーう!! 却下だ却下! やり直し!!」
いくら何でも勝てる数ではない。
《早く撤退しよーよー!》
《…それが出来ればの話、だがな》
林の方を見ながらのエリーゼのつぶやき。
直後、けたたましい警報が各機のコクピットに鳴り響いた。
「! ロックオン警報、…最初から気づかれてやがったのか!?」
《ええっ!》
ダニエラが驚愕し、エリーゼが剣に手をかける…が、
《武器を捨てろ!》
そう言われ、動きが止まる。
《暇な哨戒任務だと思ったら中々面白いのが掛かったじゃないか、白いパラディンのいる部隊は有名だぜ!》
林から現れた五体の〈グスタフ〉。
村のヴァリアントも集まってきて、現れたのは計二十機。完全に囲まれた状態となった。
《ど、どうしよ》
しかも相手は全数がグスタフタイプであった。ーーつまりは、敵の精鋭主力部隊。
《この村は我々セレスティアの勢力圏内にある。貴君らはこの場から直ちに撤退しろ!》
《今は戦争中だぜお嬢さん。この村は我々ランティファール第十一独立重騎士団が占領した! …この周辺の地域も然りだ。おとなしく降伏しなっ》
《へっへっへ、悪いようにはしねえよ…》
にじり寄る敵のヴァリアント達。
《つ、捕まっちまったらどうなっちまうんだアタシ達》
「飯はうまいらしいぞ飯は」
エリーゼ達のエロゲ的な展開は回避願いたいが、自分だけならいっそランティファールに捕まるのも有りかと考えたコウヤ。
ただ、どうも騎士団、という言葉にエリーゼは反応したらしく、そして…
《ーー決闘を求める!》
《んなっ》
「…あちゃー」
何を思ったかその言葉。
《私が勝ったならば我々は無事に帰してもらおう。その代わり貴殿達が勝ったら、私を煮るなり焼くなり好きにしろっ》
見事な啖呵であった。が、
《…ふ、ふははははははあっ、お嬢さんが何を言い出すかと思えば決闘だとは、言わせておけば笑わせてくれるっ》
ひとしきり笑いながら下卑たヤジなどをあびせかけてくる騎士団とやらの男達。まったく失礼ながらゴロツキだなぁとコウヤは思っていたのだが、
《…いいだろう。その勝負、この私ヴァーレンハイトが預かった!》
その怜悧な声が響くと後、ヤジはぴたりと収まった
《い、いいんですか団長!》
そう言われ、団長と呼ばれた一機の〈グスタフ〉が歩み出る。
《レディーからの求めだ。断ることもないだろう?》
《しかし…》
そこからは身内だけでの作戦会議という奴だろうか、通信がとぎれてしまった。
「なんだかなぁ…」
全く声だけで分かるキザ男という奴であるのだが、それにしても、
(勝負を受ける理由が分からない)
コウヤも意外だったが、しばらく〈シロガネ〉の遠距離望遠で彼らを観察していると、その理由が少し分かってきた様な気がする。
(従軍記者…?)
これまた遠目で見ても分かるほどのすごい美人なのだが、村から駆けつけてきたヴァリアントに乗せられ現れたこの女性。ヴァーレンハイトと名乗ったこの男や、周りの男衆もそうなのであるが、先ほどから見ていると分かる様にめっっちゃデレデレなのである。
(ほうほう)
ヴァーレンハイト某が気にしているのもこちらよりもまず美人と言った様子で、時々相手の美人も顔をひきつらせるあたり、下心丸わかりという奴であった。
その美人が好奇心に目を輝かせながら、先ほどからのやり取りをずっと見ていたのだ。
決闘の条件に乗ったのもなるほど、お客様の前では滅多なことは出来ない。そしてあわよくば、記者さんに良記事提供&良いところを見せて好感度アップ…というところか。
よしんば良いところを見せたいというのが大きい以上、少なくとも生きて帰れないということはなさそうだった。
「こりゃなんとかなるかもな」
蓋を開ければただのええかっこしぃな相手の騎士道(笑)精神は大いに利用させてもらうとして、コウヤの側も少し仕込みをさせてもらうこととした。
ーーターゲットは記者さんだ。
「おうい記者さんよ、俺のヴァリアントもちょっくら写真写りを試してくれんか!!」
エリーゼ達が何か言い出すよりも速く、ハッチを開けそう叫びながら、あれこれポーズを取ってみたりしていると、その言葉に反応して、その美人さんがこちらに向けパシャパシャとカメラを焚いている事が分かる。
(いいぞ、その調子だ)
お姫様が記事の素材となる写真を撮り始めた以上、もはやこうなっては相手も決闘をやるほかなくなるのだ。
これぞコウヤ流、外堀から埋める作戦である。
それに記事になると言うことは、この場の人間だけではないより多くの人の目に見られるという事である。
どこの新聞社かは知らないが、これでいっそう、少なくとも変な真似は出来なくなるだろう。
そんな経緯を経て、
そして決闘の舞台は、村の中央にある頑丈な石橋が選ばれた。
橋の上での決闘である。
* * *
決闘前、コウヤとエリーゼは機体のチェックをしていた。
「いいのかよ」
レスポンスを良くするために荷物などの余計なものを外しながら、コウヤはエリーゼに尋ねた。
「ん、なにがだ?」
「相手がグスタフなら相手が悪すぎるだろ。…俺のヴァリアント、今からでも貸せるぞ」
「いいさ、私とこのベルトールの相性は抜群だからな。…それよりも謝りたいのはこちらだ。負けたらお前達を危険な目に遭わせるかもしれない」
「負ける気はないんだろ?」
「…ああ」
「ならそれでいい」
にかっとコウヤは笑って見せた。
つられてエリーゼも笑い返す。
「女一代の大勝負だ、見ててくれよ!」
「わーってるって」
いつもの調子でコウヤはエリーゼを送り出した。
* * *
ルールは簡単、それぞれ左手に持った布を落とさせるか切り裂くか、あるいは相手を橋から追い出した方の勝ちである。
ヴァリアント同士の決闘。
この珍しい見せ物を見るべく、橋の周りには村人やら騎士団の連中が野次馬となって押し寄せていた。
コウヤやダニエラと言った分隊員や、相手方の何ちゃら騎士団のヴァリアント乗りの面々は、勝負に公平を期すため敢えてヴァリアントに搭乗しての観戦である
どよめきの中、橋の中央に審判役の騎士団員が立って、
「構え!」
叫び、一戟、剣を打ち合う。
その後、まずはヴァーレンハイトが受けの構えを取った。
それにエリーゼは冷静に剣を打ち込んでいく。
その姿に観衆からの歓声が巻き起こる。
《な、なあコウヤ》
「どーしたんダニエラ」
ダニエラが不安そうな様子で話しかける。
《…本当にエリーゼは勝ってくれるかな》
「さあな、わかんね」
《軽っ!?》
「それに俺、セレスティアの軍人じゃねーしな」
《しかもさらりと酷ぇっ!?!》
「なはははははは」
(知ってるか、非正規の戦闘員の捕虜の扱いはすっごく悪いんだぞー)
…コウヤにとっても賭けであった。
勝負の方はと言うと、一歩ずつエリーゼが歩を進めていき、ヴァーレンハイトがそれを受けて後退する。
《おっ、おっ》
「…」
橋の端までヴァーレンハイトが詰め寄られたその時…
空気が変わったのはその瞬間だ。
(…!)
たった一撃。
刈り取るように放たれたヴァーレンハイトの必殺の間合いを、エリーゼは見事に受け流した。
『おおーーっ!!』
割れるような歓声が上がる中、
橋の中央へと両機が戻って、こうして勝負は振り出しに戻った。
「…後一回で勝負がつくのか」
なぜだかコウヤにはそんな予感がした。
《えっ、エリーゼー!》
両者が構え…
そして、交差。
破かれた切れ端が川の流れへと落ちて…
「りょ、両者引き分け!」
これにはコウヤも意外だった。
(…エリーゼやるじゃん)
そして両者とも剣を納め、互いに向き合った。
《ーーなかなか腕の立つお方のようだ。このヴァーレンハイト、お見逸れ参った!》
《何、実戦ならばこっちが負けてたよ」
ハッチを開け、エリーゼは機体から降りてヘッドギアを外した。
ヘッドギアから降りた長い金髪、それが柔らかな風に抱かれ流れる。
(…おおっ)
それはまるで絵画の一場面のようで、
《ヒューっ!?》
《こ、こいつは上玉だぁ!》
《こっこれはなんという美じ…ゴホコホン、…失礼》
決闘が終わってコクピットから出たエリーゼを見て、ヴァーレンハイト始め相手方の反応が露骨に変わった。
記者さんもすかさずカメラで撮影しているようだ。
(女好きだぁね、まったく)
どんな残念とはいえ、美人は得という奴である。
《…団長、引き分けになったときのルールは決めてませんぜ! 理由を付ければあの美人を》
《そ、そうだな…うぇ、ウェヘヘ》
「団長さん〜?」
不穏な気配を感じたので、ここでコウヤは仕掛けを発動させる。
「引き分けですよ。ねえ記者さん!」
記者さんもバッチリ撮れた!とばかりにオーケーサインを出した。
《いやまあその、しかしだな》
「引き分けですよ、引・き・分・け」
《う、うむ。そうだな少年!》
負けたときでもなんだと理由を付けて全員でトンズラを決め込んでいたのは内緒である。
《う、うむ。…ううっ》
そして滝のような涙を流しているのは心の汗か否か。
《次に遭うときは、このような場ではない平時にお会いしたい物だ》
「こちらこそ」
ニコリと微笑まれ、思わずドキリと赤面するヴァーレンハイト。
そしてエリーゼが機体に乗り込み、機体を起こし相手へ一礼。ヴァーレンハイトも一礼を返す中、今すぐにでも逃げ出したいのをこらえ、分隊は視界から村が消えるまでとにかく歩き続ける。
そして村はずれの森まできたが、約束通り、攻撃や追っ手は来ていないようだった。
《…この辺でいいだろう。全機、最大速で離脱するっ!》
《た、助かった…》
《? 皆何をそんなに疲れているんだ?》
「…お前なぁ〜」
《まあいいや、とにかく皆無事だった。それでいいやな》
《うむ、加減されていたとはいえ手強い相手だった!》
「剣術バカはほっとけ、とにかく逃げるぞ!」
分隊はヴァリアントを加速させた。
こうして戦場の一エピソードとして、エリザ・ローザスミスの記名で三日後のリバティー紙で紹介されることになるこの一件は、やがて大陸中の人々の注目を集めることとなる。
* * *
「それでみすみす村を一つ明け渡したんですかぁ?!」
「それでも何もないだろう、村も酷いことはされていないようだったし、無事分隊員全員で帰還して、私もこうしてお前ともやり合えてるわけだ」
「理由になってません!」
怒鳴るアミナを受け流すエリーゼ。
コウヤも内心、緊張と疲労からクタクタであったのでこの説教はかなり堪える。
ただ一人平然としているエリーゼを除いては、付き合わされている他の皆もゲッソリとしていた。
「隊長!」
「うーむ、必ずしもベターな判断とは言い難いが、とにかくこうして小隊全員がそろうことが出来たのは、めでたい!」
がくっとうなだれるアミナ。
「…とにかく、この件は参謀本部に報告します! それから、バロムシュタット少尉! …分隊全員を連れ帰ったことは私からも感謝します。が、懲罰は覚悟してくださいね」
気勢を削がれたらしく、そういい残してアミナは去っていった。
後に残るは何やら呆然とした面もちの小隊員達。
「…おい、」
「何だよエリーゼ」
「アミナが礼を言ったぞ」
「…俺もびっくりしてる」
「そっちかよ!」
すかさずダニエラが突っ込みを入れた。
「参謀本部だぞ参謀本部!」
うわー!と爆発するダニエラ。
「参謀本部か。どうなんだコウヤ」
「どうもこうも、とにかく俺は今すぐ寝たいっ」
「寝る子は育つ、か」
「あん?」
「うわあー!」
「ちったあ落ち着けお前ら!」
なんだかんだでいつもの光景となってしまったのである。
〈続く〉
* * *
参謀本部デビュー(ダブルピース)




